↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムリープした俺、宝くじの当選番号を全部知ってるので億万長者になります  作者: 深夜三時
第4部 円と電子の錬金術

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/55

第45話 仕手戦

2017年、三月。


異変に最初に気づいたのは、アリサだった。


『ショウゴ。おかしな売りが入ってる』


ニューヨークとのテレビ会議の画面で、アリサは険しい顔をしていた。


『うちが一番大きく持ってる日本の銘柄。スマートフォンの部品の会社。この二週間、毎日、決まった時間に、大量の売りが出てる』


画面に、株価のグラフが映った。


二週間で、株価は二割下がっていた。


「業績が悪いのか」


『いいえ。業績は過去最高よ。新型のスマートフォンの部品の受注も、去年の倍。下がる理由が、どこにもない』


アリサは、別の画面を開いた。


『それと、この二週間で、ネットの掲示板やSNSに、この会社の悪い噂が急に増えてる。会計に不正がある。大口の取引先を失う。社長が近く辞任する。全部、根拠のない話よ。でも、その噂が出るたびに、売りが加速してる』


レイコさんが、手元の資料をめくった。


「この会社の株を、うちは総資産の八パーセント持っています。株価が二割下がったことで、評価額は、すでに五百億円近く減っています」


「……誰かが、意図的に株価を下げてる」


『そう。そして、私には心当たりがある』


アリサは、一枚の資料を画面に映した。


ある海外のファンドの、最近の取引の記録だった。


『マクレガーの、新しいファンドよ。中東と欧州の資金を集めて、去年立ち上げたファンド。この二週間、日本の市場で、このスマートフォンの部品の会社の空売りを、少しずつ積み上げてる』


◇


空売り。


株を借りてきて売り、値段が下がったところで買い戻して返す。その差額が、利益になる。


株価を下げれば下げるほど、儲かる。


そして、株価を下げるために、根拠のない悪い噂を流す。


「……典型的な、仕手戦ですね」


レイコさんが、静かに言った。


「法律に触れる可能性もありますが、噂の出どころを特定するのは難しい。証拠をつかむのは、ほぼ不可能です」


『それだけじゃないわ』


アリサの声が、硬くなった。


『マクレガーの狙いは、この会社じゃない。佐伯キャピタルよ』


画面の向こうで、アリサは別の資料を開いた。


『うちが大きく持ってる銘柄は、ほかに七つある。マクレガーのファンドは、その七つすべてに、少しずつ空売りを積み上げ始めてる。一つずつ株価を崩して、うちの評価額を削っていく。そうすれば、うちに資金を預けている投資家たちが不安になって、資金を引き上げ始める』


「投資家が逃げれば、うちは保有株を売らなきゃいけなくなる。売れば、株価はさらに下がる」


『そう。そして、マクレガーは、下がりきったところで空売りを買い戻して、大儲けする』


アリサは、画面越しに、まっすぐ俺を見た。


『九年前、彼は私に言われたのよ。市場は常に正しい、あなたは負けて私は勝った、って。あの屈辱を、彼は一日も忘れてない。業界中に、そう言いふらしてるらしいわ。――佐伯キャピタルを潰して、東洋の預言者の神話を終わらせる、って』


◇


その夜。


銀座の小料理屋で、カオルさんに会った。


「マクレガーね。名前は、聞いたことがあるわ」


カオルさんは、燗酒の猪口を手のひらで温めながら言った。


「先月、お店に、ある外資系の証券会社の人が来たの。その人が、酔って言ってたわ。最近、日本の小型株の悪い噂を、ネットに流す仕事を請け負ってる業者がいるって。依頼主は、海外のファンドらしいって」


「……その業者の名前は」


「聞きそびれたわ。でも、その証券会社の人は、また来週来るって言ってた」


カオルさんは、猪口を置いて、俺の目を見た。


「探ってみましょうか」


「危なくないですか」


「銀座の女を、甘く見ないで」


カオルさんは、着物の袖で口元を隠して、静かに笑った。


「お酒の席で、人が口を滑らせるのを待つのは、私の三十年の仕事なのよ」


◇


翌週。


マクレガーの攻撃は、激しさを増していった。


スマートフォンの部品の会社に続いて、佐伯キャピタルが大きく持っているクラウドの会社、SNSの会社の株価も、次々と下がり始めた。どの会社にも、根拠のない噂が流れていた。


ネットの経済ニュースには、こんな見出しが並び始めた。


『佐伯キャピタル、保有株が軒並み急落――「預言者」の神話に陰り』


『資産三兆円の投資会社、運用に異変か』


書いたのは、沢口記者ではなかった。名前も聞いたことのない、ネットの経済メディアだった。


総資産は、二週間で、二千億円以上減っていた。


オフィスの空気が、少しずつ重くなっていった。


「代表。投資家の方から、問い合わせが増えています」


広報の担当者が、青い顔で報告に来た。


「資金を引き上げたいという連絡も、三件ありました」


「引き上げたい人には、引き上げてもらってくれ」


「……よろしいんですか」


「怖い人は、怖いうちに降りたほうがいい。十年前と同じだ」


担当者は、戸惑ったような顔で部屋を出ていった。


その夜、ミサキから電話があった。


『ショウゴくん、ネットのニュース見たよ。「神話に陰り」だって』


「見たか」


『見た。でも、全然心配してないから』


ミサキは、あっさりと言った。


『株で五億負けてたときも、アメリカで毎月保険料払ってたときも、ショウゴくんは最後に勝ったもん。私の勘、今回も当たるよ』


「……今回は、勘じゃ勝てないかもしれない」


『じゃあ、桐谷さんの数字で勝って』


ミサキは、何でもないことのように言った。


『ショウゴくんの周りには、勘が当たる人も、数字が読める人も、噂を集められる人もいるでしょ。一人で戦わなくていいの』


◇


その夜、オフィスに残っていたのは、俺とレイコさんだけだった。


窓の外の皇居の森は、真っ暗だった。


「佐伯さん」


レイコさんが、静かに言った。


「今回は、勘ではなく、数字で戦えますか」


「……どういう意味だ」


「これまで、佐伯さんは未来を知っているかのように動いてきました。でも、今回の相手は、市場ではありません。人間です。マクレガーという人間が、意図的に仕掛けてきている。人間の悪意は、勘では読めないかもしれません」


レイコさんの言葉は、鋭かった。


確かに、そうだった。一周目の記憶には、マクレガーの仕手戦なんて存在しない。佐伯キャピタルという会社自体が、一周目には存在しなかったのだから。


この戦いには、答えがない。


「……レイコさんの言うとおりだ。今回は、記憶じゃ戦えない」


「記憶?」


レイコさんが、眉をひそめた。


俺は、少しだけ笑った。


「勘のことだよ。……レイコさん、数字を全部集めてくれ。マクレガーのファンドの空売りの量。借りてる株の出どころ。いつまでに買い戻さなきゃいけないのか。全部」


レイコさんは、眼鏡を押し上げた。


「三日ください」


「一日でいい」


「……今夜中に、やります」


レイコさんは、パソコンの前に座り直した。


窓の外で、春の夜風が、ビルの谷間を吹き抜けていった。


現在資産:2,800,000,000,000円


お読みいただき、ありがとうございます!

毎日22時に更新しています!


続きが気になると思っていただけたら、

ブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、

とても励みになります。

感想も、一言から大歓迎です。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。