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タイムリープした俺、宝くじの当選番号を全部知ってるので億万長者になります  作者: 深夜三時
第4部 円と電子の錬金術

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第40話 政権交代

2012年、十一月。


国会が、解散した。


ニュースは、来月の総選挙で、政権が交代するかどうかで持ちきりだった。


俺は、丸の内のオフィスで、テレビの中継を見ていた。


一周目の記憶が、はっきりとよみがえっていた。


この選挙で、政権が変わる。新しい首相は、大胆な金融緩和を打ち出す。日本銀行が、これまでにない規模でお金を市場に流し込む。


その結果、何が起きるか。


円が、安くなる。


一ドル八十円を割り込んでいた円相場が、半年で百円を超える。そして、円安で輸出企業の利益が膨らみ、日本の株価が、一年で一・五倍以上に跳ね上がる。


ここ十数年、ずっと下がり続けてきた日本の株が、久しぶりに大きく上がる。


――大きな波が来る。


◇


「円を売って、日本の株を買う」


会議室で、俺はレイコさんとアリサに言った。アリサは、ニューヨークからテレビ会議で参加していた。


「選挙の前に、ポジションを作る。選挙の結果が出てからでは、遅い」


画面の向こうで、アリサが眉をひそめた。


『円売りは、分かるわ。新しい政権が金融緩和をすれば、円は安くなる。でも、今の世論調査だと、政権交代はまだ五分五分よ』


「交代する」


『……また、勘?』


「勘だ」


アリサは、肩をすくめた。それから、小さく笑った。


『あなたの勘、もう外れる気がしないわ』


レイコさんは、手元の資料をめくっていた。


「規模は、どれくらいを考えていますか」


「総資産の四割」


レイコさんの手が、止まった。


「……四割。二千四百億円です」


「分かってる」


「リーマン・ショックのときでさえ、保険料は年に一割が上限でした。今回は、その四倍です」


「今回は、リーマンのときと違う。下がる方じゃなくて、上がる方に賭ける。最悪でも、株はゼロにはならない」


レイコさんは、しばらく黙っていた。


それから、資料の束を閉じて、俺の顔をまっすぐ見た。


「三割。それ以上は、承認できません」


「三割五分」


「三割です。残りの一割は、佐伯さんの勘が当たったと確認できてから、追加で入れます」


「……分かった。三割で」


画面の向こうで、アリサが感心したように言った。


『レイコ、交渉うまくなったわね』


「十年、この人と一緒にいれば、嫌でもうまくなります」


◇


十一月の後半から、俺たちは少しずつ動いた。


円を売り、ドルを買う。日本の株を、業種を分けて買い集める。自動車、電機、機械。円安になれば、輸出で稼ぐ会社の利益が膨らむ。


アリサは、ニューヨークの市場で、円売りの取引を、目立たないように分散して積み上げていった。


レイコさんは、東京で、日本株の買い注文を、何百もの銘柄に分けて出していった。


十二月十六日。総選挙。


開票速報が始まって、すぐに大勢が判明した。


政権交代だった。


その夜、オフィスのテレビの前で、レイコさんが小さく息を吐いた。


「……佐伯さん。追加の一割、承認します」


「ありがとう」


「お礼は不要です。約束どおりですから」


レイコさんは、手帳を開いて、何かを書き込んだ。


「今、何を書いた」


「佐伯さんの勘の的中記録です。宝くじから数えて、これで――」


レイコさんは、ページをめくって数を数えた。


「――重要な予測は、四十七回中、四十六回的中。外れたのは、2001年の年末のロト6だけです」


「……そこまで記録してたのか」


「全部、記録してありますから」


レイコさんは、手帳を閉じた。


それから、少しだけ声を落とした。


「佐伯さん。いつか、その勘の本当の理由を、聞かせてもらえますか」


テレビの開票速報の音だけが、オフィスに響いていた。


「……いつか、必ず」


「待ちます。十年待ったので、あと十年くらいは平気です」


レイコさんは、眼鏡を押し上げて、パソコンの画面に目を戻した。


◇


年が明けて、一月の半ば。


ユイから電話がかかってきた。


『佐伯さん! 映画の公開日、決まりました! 今年の秋です!』


電話の向こうのユイの声は、弾んでいた。


『試写を見た配給会社の人が、すごく気に入ってくれて。上映館を、最初の予定の倍にしてくれるって』


「よかったな」


『それでね、私、他の映画からもお話をいただけるようになったんです。ドラマのオーディションにも、呼ばれるようになって』


ユイは、少しだけ声を落とした。


『全部、あの灯台のおかげです。……それと、佐伯さんの』


「ユイが頑張ったからだ」


『また、そういうことを言う』


電話の向こうで、ユイが笑った。


『今度の週末、また二人でご飯、行けますか。マネージャーには内緒で』


「バレたら怒られるだろ」


『怒られても、行きたいんです』


ユイの声は、まっすぐだった。灯台の下で聞いたときと、同じ声だった。


◇


年が明けて、2013年。


波が来た。


円は、毎週のように安くなっていった。一ドル八十円台だった円相場が、一月には九十円を超え、春には百円を突破した。


日本の株価は、それに合わせて駆け上がった。


自動車会社の株が、半年で二倍になった。電機メーカーの株も、機械メーカーの株も、軒並み大きく値上がりした。


街の空気が、少しずつ変わっていった。


二十年近く、日本中を覆っていた重たい空気が、ほんの少しだけ軽くなった。


「総資産、八千億円を超えました」


五月の終わり、レイコさんが報告した。


「去年の十一月から、半年で、二千億円以上増えています」


オフィスのあちこちで、拍手が起きた。社員は、もう五十人を超えていた。


ニューヨークのアリサからは、短いメールが届いた。


『円売りのポジション、全部で四百億円の利益。ウォール街の連中が、またあなたの名前を噂してるわ。東洋の預言者、だって』


◇


その夜。


俺は、銀座の小料理屋で、カオルさんと燗酒を飲んでいた。


「最近、お店がまた賑やかなのよ」


カオルさんは、嬉しそうに言った。


「会社の交際費が、少しずつ戻ってきたの。お客さんの顔も、明るくなった。株が上がって、ボーナスが増えたって喜んでる人がたくさんいるわ」


「よかったですね」


「あなたのおかげかしら」


「俺は、波に乗っただけです」


カオルさんは、猪口を傾けながら、俺の横顔を見た。


「でも、波が来ることを、あなたは知ってたのよね」


「……なんとなく」


「なんとなく、ね」


カオルさんは、くすくすと笑った。


「十年近く、その『なんとなく』を聞いてきたけど、一度も外れたことがないわ」


カオルさんは、俺の猪口に、燗酒を注いだ。


「私ね、最近、お店の後継ぎのことを考えてるの」


「後継ぎ?」


「ええ。私も、もう四十を過ぎたわ。いつまでも、夜の銀座に立ち続けられるわけじゃない」


カオルさんは、窓の外の路地を見た。


「でも、あと少しだけ、続けたいの。あなたが、どこまで行くのか。この街の噂で、見届けたいから」


「……どこまででも、行きますよ」


「知ってる」


カオルさんは、そっと俺の手に、自分の手を重ねた。


現在資産:850,000,000,000円


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