↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムリープした俺、宝くじの当選番号を全部知ってるので億万長者になります  作者: 深夜三時
第2部 学ぶ者は稼ぐ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/53

第15話 時代の寵児

2004年。


世の中が、急に浮かれ始めた。


テレビをつければ、「主婦が自宅のパソコンで株を売買し、一億円を稼いだ」という特集。書店に行けば、「誰でもできるデイトレード」という本が平積みになっている。電車の中では、大学生らしき若者が、携帯電話で株価をチェックしていた。


新興企業の株が、軒並み値上がりしていた。


ネット、携帯、ゲーム。名前に「ネット」や「ドットコム」がつくだけで、株価が跳ね上がる。


「熱いですね」


オフィスのモニターを見ながら、レイコさんが言った。熱いと言いながら、その声はいつもどおり冷静だった。


「アストラリンク、買値の十二倍です」


「十二倍か」


「最初に入れた十億が、百二十億になっている計算です。途中で一部売却していますので、実際の評価額はもう少し少ないですが」


一周目の俺の年収が七百万。十二倍の株価は、その一千七百年分。


もう、比べる意味もなかった。


◇


「一部、利益を確定させましょう」


レイコさんが、注文の一覧を差し出した。


「資産のうち、一つの銘柄の比率が高くなりすぎています。規定では、二割を超えたら一部売却することになっています」


「半分だけ売ろう」


「全部ではなく?」


「まだ早い。この熱は、あと一年半は続く」


レイコさんは、少しだけ首をかしげた。


「一年半、という数字の根拠は」


「……勘」


「勘は根拠になりません」


「言うと思った」


結局、俺は決算書と業界の成長予測を並べて、三十分かけてレイコさんを説得した。


最後にレイコさんはうなずいて、注文を出した。


「佐伯さんの説明、だんだん上手になってきましたね」


「誰かさんに鍛えられてるからな」


◇


五月の終わり。


一通の招待状が、オフィスに届いた。


『新世代経営者交流会 ご招待』


新興企業の経営者や投資家が集まるパーティーらしい。アストラリンクの大株主として、俺の名前が知られるようになっていたのだ。


「行くべきだと思います」


レイコさんは、招待状を読んで言った。


「新興企業の経営者たちの顔ぶれを、直接見ておく価値があります。数字だけでは分からないこともあるので」


「レイコさんも来る?」


「私は、ああいう場所が苦手です」


「俺も苦手だよ」


「佐伯さんは、苦手でも行くべき立場です」


◇


会場は、六本木の高層ビルの最上階だった。


床から天井まである窓の向こうに、東京の夜景が広がっている。シャンパンタワーが立ち、生演奏のジャズが流れ、ブランドのスーツやドレスに身を包んだ人たちが、グラスを片手に笑い合っていた。


一周目の俺は、こういう場所に一度も来たことがなかった。来たとしても、壁際で料理をつまんで、誰とも話さずに帰っていただろう。


「佐伯さん、ですよね。アストラリンクの」


声をかけてきたのは、どこかの会社の社長だった。名刺を交換し、当たりさわりのない話をする。そんなやり取りが、何度も続いた。


みんな、俺の若さに驚いていた。そして、驚いたあとに、少しだけ見下すような目をした。


――運のいい若造。


その目は、そう言っていた。


◇


会場の中央が、急に騒がしくなった。


人垣ができている。その真ん中に、一人の男が立っていた。


三十歳前後。Tシャツの上に、高そうなジャケットを羽織っている。日に焼けた顔に、白い歯。テレビで何度も見た顔だった。


黒田サトル。


新興IT企業「ネクストリーム」の社長。毎日のようにテレビに出て、「時代の寵児」と呼ばれている男だ。


「金で買えないものはない。俺はそれを証明するために、会社をやってるんです」


黒田は、取り巻きたちに向かって、大きな声で語っていた。


「古い会社は、古いやり方にしがみついている。だから負ける。俺たちは、ルールの隙間を見つけて、そこを全力で走る。それだけです」


取り巻きたちが、感心したようにうなずく。


その目が、ふと、俺のほうを向いた。


「あれ、君。アストラリンクの佐伯くんだろ?」


黒田は、人垣をかき分けて、俺の前まで来た。


「噂は聞いてるよ。二十代で、何十億も動かしてるんだってな」


「どうも」


「でも、元手は宝くじなんだって?」


周りの人間が、くすりと笑った。


黒田は、悪びれもせずに続けた。


「宝くじで当てた金で株を買って、たまたま当たった。運だけの子だな」


会場の空気が、少しだけ冷たくなった。


俺は、グラスを持ったまま、黒田の顔を見た。


「運も、実力のうちですよ」


「へえ」


「黒田さんだって、今の地位は、時代の運が半分でしょう。十年早く生まれていたら、ネットなんてなかった」


黒田の笑顔が、一瞬だけ引きつった。


ほんの一瞬だった。すぐに、元の白い歯を見せた笑顔に戻った。


「……面白い。気に入ったよ。今度、飯でも行こう」


黒田は、俺の肩を叩いて、また人垣の中へ戻っていった。


◇


パーティーの帰り道。


タクシーの窓から、六本木の夜景を眺めながら、俺は記憶の引き出しを開けていた。


ネクストリーム。黒田サトル。


一周目の俺は、この名前を覚えている。


この会社は、これから二年間、日本中の注目を集め続ける。株価は何倍にも膨らみ、黒田はテレビに出続け、派手な買収を次々に仕掛けて、世間を騒がせる。


そして、2006年の一月。


ネクストリームの本社に、検察の強制捜査が入る。


株価は崩れ落ち、黒田は表舞台から姿を消す。


「……あと一年半か」


タクシーの後部座席で、俺は小さくつぶやいた。


黒田の言うとおりだ。金で買えないものはない。


なら、あの男が作る熱狂で、稼げるだけ稼がせてもらおう。


そして、崩れる前日に、全部売る。


◇


翌朝、オフィスに着くと、レイコさんの机の上に、ネクストリームの決算書が三期分、並べて置いてあった。


「昨日、黒田社長に会ったと聞いたので」


「早いな」


「パーティーの写真が、もう業界紙のサイトに出ていましたから。佐伯さん、黒田社長に肩を叩かれていましたね」


レイコさんは、決算書の一部を指さした。


「この会社、売上は確かに伸びています。でも、利益の伸び方が、売上の伸び方と合っていません。何か、本業以外のところで利益を作っている可能性があります」


「どういうこと?」


「まだ分かりません。ただ、数字が少しだけ、不自然です」


俺は、レイコさんの横顔を見た。


一周目では、誰も気づかなかった。いや、気づいていた人はいたのかもしれないが、世間の熱狂の前に、その声はかき消された。


この人は、もう気づき始めている。


「レイコさん。この会社の株、少しずつ買おうと思う」


レイコさんは、眼鏡の奥で目を見開いた。


「数字が不自然だと、今言ったばかりですが」


「だから、買う。不自然な数字は、いつか必ず正体がばれる。それまでは、みんなが熱狂して、株価は上がり続ける」


「……ばれる日が来る前に、売る、ということですか」


「そう」


レイコさんは、しばらく黙って決算書を見ていた。


「危ない橋です」


「分かってる。だから、一つの銘柄に入れる上限は、規定どおり守る。今回は、例外はなしだ」


「……その言葉、記録しておきます」


レイコさんは、手帳に小さく書き込んだ。


現在資産:9,500,000,000円


お読みいただき、ありがとうございます!

毎日22時に更新しています!


続きが気になると思っていただけたら、

ブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、

とても励みになります。

感想も、一言から大歓迎です。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。