005.ぼっち、学校で話題になる
本日2話目٩( 'ω' )و
テンパったままクラスメイトの手を引いてきたリリィ。
下駄箱までやってきて、ようやく手を離す口実ができたと内心で歓喜する。
「ご、ごごご、めんなさい、にぎった……ままままま、で」
ちゃんと口にしたつもりなのに、喋り方は噛み噛みだ。
それでも意図は伝わっただろうと判断して、手を離そうとするリリィ。
「待って」
「え?」
その手を、クラスメイトは両手で掴んだ。
「うぇぁぁ、ひゃい!?」
「最果さん。助けてくれてありがとう」
「い、いえ、どどう、いたしままして……」
真っ直ぐに見てくるクラスメイトを直視できずに、目線を逸らしながら小さくうめくように答えを返す。
そんな自分が嫌になる。
なんで素直に言葉を返せないのか。
自己嫌悪していると、クラスメイトが恐る恐る訊ねてきた。
「……もしかして、最果さんって人と話をするの苦手?」
「……う、うん」
その問いは、とても恥ずかしくて……ふつうの人ならできることが出来ないダメな子であるのを肯定するようで。
きっと、馬鹿にされる。
チビでガリで髪の毛なんかもボサボサで、喋るのが下手くそな自分は、きっとこの人に嘲笑される。
そう思って身構えていたリリィ。だけど、クラスメイトの反応はまったく違った。
「そっか。じゃあ、私を助けるの、すごい勇気だしてくれたの?」
「え?」
お礼に対して変なリアクションをしてしまったのに、叱られないことを不思議に思いながら、クラスメイトを見上げる。
「先輩に対してはすごいハッキリと喋ってたからさ」
確かに不思議に思われても仕方ないことだ。
でも、変に馬鹿にしたり怒ったりせず、こうやって純粋な疑問として訊ねられたのは初めてかもしれない。
自分でもどうしてだろうと考えながら、思ったことを口にする。
「あれは、その……たぶん、敵……だった、から」
「敵?」
「ん……。ダンジョンのモンスターと、同じ。人を襲う。敵」
敵認定した相手には、わりとしっかり喋れる自覚は、何となくある。
逆に言うと、自分は敵とばかりお喋りができて、味方とはちゃんと出来ない。だから、味方から嫌われて一人になってしまう。
「あははは、あれをモンスター扱いか」
笑われてしまった。でも馬鹿にするような笑いではない。
リリィにはそれが不思議に思えた。
「最果さん。カッコ良かった」
「え?」
「本当に助けてくれてありがとう」
真っ直ぐにお礼を言われたのは昨日以来だ。
けれど、自分自身が――それを真っ直ぐに受け止められたのは、いつ以来だろうか。
「うん。無事で、良かった。富鐘さん、も」
名前を呼ぶと、クラスメイト――富鐘 連花は少し驚いた顔をする。
「名前、知ってたんだ?」
「ぅん。クラスメイトは、一応……全部、顔と名前。覚えてる、から……」
「まだ一週間くらいなのに、それはすごいね」
蓮花は下駄箱で靴を履き替えながら、そう口にする。
本当にそう思っているようで、リリィを変なやつ扱いする感じはない。
「最果さんも履き替えないと、遅刻しちゃうよ?」
「あ、うん」
言われるがままに靴を履き替えながら、リリィはふと思う。
(こういうの、はじめて……かも)
どうして良いのか分からずに逃げ出したいものの、生憎と目的地は教室だ。ここから走り去っても意味がない。
「さて、行きますか」
「え?」
「教室。同じクラスなんだし、別々に行く意味もないっしょ。せっかくだから一緒しよ」
嫌味もなく、嘲笑もなく、ただ本当に一緒に行きたいだけに見える蓮花。
そんな誘いはほとんど初めてで、リリィは固まってしまう。
「どうしたの?」
「いや、ううん。いく」
そうして、おっかなびっくり、リリィは蓮花の横に並ぶ。
(優しい人かも……でも、最後に嫌われちゃうかも……いやわたしが嫌われるのはいいけど、富鐘さんが、わたしと一緒にいるせいで、みんなから嫌われたり、いじめられたりしたら、ヤだな……)
一緒に教室へ向かいながら、リリィは今言うべきではないかも――と思いながらも、言わずにはいられずに訊ねる。
「あの、富鐘さんは……わたしを、嫌いにならないんですか?」
「え? なにそれ? 助けてくれた人を嫌いになるとか、あんまりないと思うけど」
首を傾げる蓮花に、リリィは俯き顔を顰めながら告げる。
「わたし、助けた人に……怒られたり、嫌われたり、ばっかりだから……」
階段の踊り場で、二人の足が止まる。
「小学校も、中学校も……嫌われてて、ぼっちで……でも、わたしがぼっちなら、クラスのみんなは、安心みたいで……だから、わたしはぼっちでいいかな、って」
「え?」
蓮花がキョトンとしたあと、その表情に怒りのようなものを滲ませた。
(ああ、きっと――わたし、また余計なコト言った……。
だけど、こんなに良い人が……いじめられたりするの、ヤだし……)
でも、言わずにはいられなかった。
言っておかないと怖いのだ。
あとになって、先に言っておいて欲しかったと、嫌われるのが。
お前のせいでいじめられたんだ! とか怒られるのが。
怒られて、嫌われて、離れられるなら、まだ良くしてもらったばかりの今じゃないと。
それだって、辛いけど――信じ始めてから嫌われてしまうより、ずっと良いから。
独りぼっちは嫌だけど、一人でいるのは嫌いじゃないから大丈夫。
「わたしと、一緒にいると、一緒に嫌われちゃう……から。
それがヤで、どうせみんな離れるなら、最初から、離れててくれた方が……お互いの、ため、だし……」
なんて嫌な子なんだろう――自分でも思う。
でも蓮花は、きっと優しい人だ。だけどだからこそ、そんな人が酷い目に遭わないように、遠ざけたい。
喋るのが苦手で、敵に対してばっか饒舌で、そのくせ、おどおどビクビクして、縮こまってばかりのどうしようもない自分。
そんな自分を気に掛けて、理解して、手を伸ばしてくれるような優しい人だからこそ、今ここで離れてしまいたい。彼女の為にも。
「わ、わたしも……お喋り苦手で、一人の方が、好き……だから……」
それ以上の言葉が思いつかず、リリィはペコリと頭を下げて、逃げるように階段を駆け上がっていく。
行き先は同じだから意味はないかもしれないけれど、それでも逃げずにはいられなかった。
「え、ちょっと……」
そんなリリィに手を伸ばすものの、その手はリリィに届かなかった。
ただ、残された蓮花は、意味が分からずに――呆然と、だけど言い知れぬ怒りを感じて立ち尽くす。
しばらく踊り場で動けずにいると、仲の良い友達がやってきて声を掛けてくる。
「おっす。ハスハス。どしたー? 怖い顔して」
「……ちょっとね。会ったコトもない誰かにすごい腹が立ってる?」
「なにそれ? まぁキレるのはいいけど、遅刻するぞー」
「そうだね。行こう」
そう蓮花は腹を立てていた。
リリィに対してではない。リリィがあんな考え方に至る原因となった誰かあるいは何かに対して――
そんな感じで、校門での騒動の当事者たちが、なんやかんやの話をしている頃。
学校内では、名前も知らない小さな女子生徒のことが話題になっていた。
「イキってた真中が一年のちっちゃいのに取りまきごと言い負かされたらしいぜ」
「ざまぁ。大した数字でもないのにインフルエンサー気取ってんだもんな」
「真中くんを言い負かしてた子、真中くんには悪いけど真中くんよりイケメンじゃなかった?」
「わかる。うちの制服着てるから高校生なんだろうけどイケ顔の幼女先輩って感じだった」
「真中の取りまきのヤンキー相手に一歩も引いてなかったからガッツあるよな」
「ガッツというか相手にしてない感じだったじゃん。エセヤンキーなんてザコに興味ないみたいな子だったよな」
校門での騒動だったのだ。目撃者が少ないワケがない。
それに、さすがに問題だろうと感じた生徒の何人かは証拠動画として、蓮花が絡まれた時点から密かに撮影していたりしたのだ。
おかげで情報は学校中に広まっていく。
動画もセットだ。
当然ながら、その話は当事者の2年生、真中 央の元へも届く。
「話題をッ、注目をッ、奪うなよ……!」
教室の片隅――一番目立ちにくい場所にある自分の席で、央は密かに、奥歯を噛みしめながらうめく。
自分は動画配信者として人気があるから、周囲に人が集まっているんだ。
「……注目されなきゃッ、認めて貰えないないだろッ……」
そのアイデンティティがなくなれば、自分なんて価値がない。
なのに、あのチビは何の努力もなく話題を集めて、人気者になりはじめている。
このままではあの一年に、この真中 央の話題の全てを奪われて、自分は何者でもないただのモブに戻ってしまう。
そうなれば、見返すことだってできなくなってしまう。
なんとかしなければ――
央は配信者だ。
だから、話題になる配信をしなければならない。
とはいえ、央が小さい頃に流行ったバズる為の炎上行為はさすがにしたくない。
お店の冷蔵ケースに入ったり、無料の紅生姜全部食べたり、醤油差しを舐めたり――そんな方法で話題になるのは、さすがに間違っているとは思うのだ。
というか、さすがに常識的にそれをやったらダメくらいは理解しろよ――と央は思わなくもない。
ともあれ――Warblerという短文投稿SNSで話題になる為に流行った炎上行為ゆえ――『バカの囀り』と称されるようなそんな行いは、さすがにできないし、それで話題になりたいとすら思わない。
どうしたものか――と、スマホを開いて、ネタになりそうなモノを探していると、ふとしたニュースが目に入る。
地元のローカルニュースだ。
最近、市内において日本探索協会が未確認の極小ダンジョンの発生率が上昇中。
発見時は近づかず、最寄りの探索者協会や、探索者への通報をお願いします。
極小ダンジョンと呼ばれるそれは、一日二日……長くとも一週間程度で消滅するような、突発発生のダンジョンだ。
発生しても誰にも見つからないまま、そのまま消滅してしまって痕跡だけ残ってるパターンなども多数あるらしい。
「……未確認ダンジョンでの、ダンジョン配信か。アリかもしれないな」
ダンジョン配信はしたことないが、配信は配信だ。
一般的な配信でバズれる自分なら問題なくイケるだろう想定はつく。
探索者資格は持っていないが、未確認の極小ダンジョンであれば迷い込んだとか吸い込まれたとかの言い訳がつくだろう。そしたらその場でせっかくだからと先へ進んで行くのも悪くない。
そうは思うが――
央は探索者資格は持っていないどころか、ダンジョンを探索する上で必要なダンジョン内超人化適性の検査も受けていない。
「これも没かなぁ……」
没にするには少しもったいない気はするのだが。
「まぁ、昼休みにでもみんなに相談するか」
いつも一緒にいる面々は、央の為にネタ出しや企画を考えてくれることも多い。
彼ら、彼女らの意見を踏めて、没にするかどうか考えるのは遅くないだろう。
「見てろよ、チビ。学校の有名人の座は、オレが取り戻してやる」
密かな野望を胸に秘めほくそ笑んでいるうちに、授業開始のチャイムが鳴るのだった。
今日はここまで٩( 'ω' )وお読み頂きありがとうございます!




