006.ぼっち、ネットでも話題になる
本日から1話更新になります٩( 'ω' )و
インターネット上に、『探索者情報交換用酒場「スレッド」』というサイトがある。通称『探索者スレ』。
これは、探索者同士が情報を交換するべく利用している非公式の掲示板型の情報交換サイトだ。
スレッド型サイトというやや古い仕様のサイトだからだろうか。いにしえのネット文化の色の濃い。それ故に、閲覧するのも書き込みするのも、いささか利用を尻込みしてしまうサイトではある。だが、有用なのは間違いない。
その為、ROM専門の人も含めて利用者の多いサイトである。
そんな中、ダンジョン内で発生するイレギュラー情報を交換する板がにわかに盛り上がっていた。
>ダンジョン配信者ロゼをイレギュラーから助けた子だれ?
>10階のモンスターが3階に出てくるとか怖すぎ
>あのイケ幼女に惚れちゃったんだけど情報ない?
>おまわりさんあの人です
>グレートマンダー瞬殺とかあの子すごいよな
内容としては、メイド服姿でダンジョン探索する光景を配信している配信者ロゼが見舞われたイレギュラーに対する考察と、それを助けたリリィについてだ。
実際、グレートマンダーを瞬殺したその腕前は特筆に値するだろう。
グレートマンダーは、あのダンジョンの下層だけでなく、湿地型や洞窟型などの湿度の高いダンジョンの深い場所に生息するモンスターで、そのタフさが厄介とされている。
石頭や鱗をはじめとした身体の硬質部分は生半な刃物を弾き、むっちりと弾力に富んだ肉は打撃を軽減し、体表を覆う防護粘液は炎や雷などの属性攻撃を軽減する。
単純な戦闘力だけなら同ランクのモンスターに劣れど、その防御能力は同ランクより頭一つ飛び抜けている。そんなモンスターだ。
件の大剣少女はそれを瞬殺したのだ。話題になるのも無理はない。
>配信とか特にしてない子みたいだね
>探索者としての活動範囲も狭いのかあんま情報ないな
>ロゼちゃんの活動範囲と被ってる範囲なんだろうけど
>あれだろ
あの子って多摩・八王子地区に出没するバスターブラウニー
>お?有力情報きた?
>「小柄な大剣妖精」と書いてバスターブラウニーと読む
まぁ地元での二つ名だな
わりと正体不明な子だと思う
>東京にある多摩センター支部を中心に活動してるっぽい学生?かな
よっぽど腕利きなのか結構ギルドから指名依頼やってるっぽいんだよね
>指名依頼しておいてイレギュラー討伐報酬渋ったみたいだけどなギルド
>は?報酬渋ったってなに?
>なんかブラウニーと美人な学生さんのコンビが受付で揉めてたらしい
>聞いた聞いた 部位証明を取りそびれたブラウニーと
ブラウニーが仕事してたタイミングでたまたま動画撮影してた美人さんが
証拠だって動画見せたりしてたけど結局ブラウニー負けたみたい
>動画あるのにブラウニー側が負けることあるんだ
>そこのギルド大丈夫か?
>え?動画撮影に映り込んでたのも証拠として取り合わなかったの?
>いくらでも加工できるだろうとかなんとか
>ブラウニーちゃんそこのギルドをホームにするのやめた方が良さげでは?
>そこのギルド支部が一番のイレギュラーな気がしてきたな
>エージェントくるー?
>っていうかその美人ってロゼちゃんでは??
そうして、イレギュラーについて語るはずのスレッドで、話題はギルドの不義理についてになっていく。
たださすがに途中で、板のテーマ違いではという話になり、別途にギルドの不義理に関するスレッドが新規に作られたようだ。
ついでに、ブラウニーちゃんについて語るのもスレッド違いだろうということで、『ブラウニーちゃんについて語るスレ』というのも別途立ち上げられたようである。
それもあってか、大本となるダンジョン配信者ロゼのイレギュラー遭遇動画の再生数は、彼女のチャンネル内トップどころか、動画サイトのデイリートップなっているようだ。
各種SNSでもかなり話題になっている。
トレンドワードに『バスターブ』とか『ラウニーちゃ』とか入っている。
どういうワケか、正式名称とも言える『バスターブラウニ-』や『ブラウニーちゃん』がトレンドワードになっていないのだが――まぁSNSでは良くあることだ。
「ブラウニーちゃん、ね」
小柄な大剣妖精の話題を追いかけて、スマホでスレッドやSNSを見ていた女性が、小さくそう口にする。
お洒落なカフェのテラス席で、桜を見ながらお茶をしていたその女性は、スマホを操作する手を止めて、コーヒーで口を湿した。
「それにしても、ギルドの不義理スレか……。まぁ人が運営する以上は、そういう不満は当然でるんだろうけど」
個人的興味はブラウニーちゃんにあるのだが、女性の仕事的には不義理スレの方を覗いた方が良い。
ブラウニーちゃんスレは後日見る為にブックマークをし、仕事の為に不義理スレの方を開いた。
「……これ、近いうちに依頼として飛んで来そうね」
思わず、苦笑する。
そうして、お茶請けの抹茶のバスクケーキを口にした時だ。
スマホの画面にチャットアプリ『Linker』へ、メッセージが届いたという通知が表示される。
アプリを開いて内容を確認した時、思わず口の中のケーキをこぼしかけた。
「……このタイミングで、想像通りの内容のメッセージが飛んでくるコトあるんだ」
仕事用のメールアドレスへ、依頼を送ったという内容のメッセージに、了解とだけ返信する。
それから、仕事専用のメールページを開く。
(うわ。このタイミングで依頼内容が多摩センター支部への抜き打ち調査なコトあるんだ)
口に出さずとも思わずうめく。
それから、抹茶バスクケーキの最後の一口を食べ終え、コーヒーを飲み干した。
「プライベートはここまでねぇ」
小さく独りごちてから、優雅に立ち上がる。
ここからは、ダンジョンエージェントとしての公僕タイムだ。
「まずは探索者協会の東京第三区統括局か――」
メールによると、そこで会って欲しい協会局員がいるらしい。
「ここから行くなら……」
カバンを手に取り、スマホで道を調べながら、エージェントはカフェをあとにする。
「ラクな仕事だといいんだけどなぁ……」
彼女は名残雪のようにささやかな花吹雪が舞う並木道を歩き出す。
仕事への希望を込めた呟きを舞い散る花びらと一緒に風に乗せながら――
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学校が終わり、リリィが多摩センター駅前にあるギルドに顔を出す。
すると、このギルドでよくみる厳つい顔と身体を持つ、正直なところ見た目がちょっと怖くて苦手おじさんに手招きをされた。
行くべきか行かないべきかを僅かに迷うが、おじさんの顔がかなり真剣だ。
ダンジョンに関するリリィの知らない連絡事項とかあるのかもしれない。
そういう情報は大事だ。
人と話すのが苦手なリリィであっても、そういう情報の共有だけは、可能な限りするようにしているほどに。
「なん、ですか?」
ぽてぽてと駆け寄っていくと、おじさんは「うんうん」と首を振る。
「今日はちゃんと来てくれて助かるぜ。ほれ、アメちゃんやろう」
「え? ほんと? 嬉しい」
包み紙に包まれたアメちゃんを貰ったので、早速口の中へと放り混む。
甘い。美味しい。幸せ。
「うんうん。嬉しそうで何よりだ。だが、ちょいとリリィちゃんに注意しとくコトがあってな」
「ダンジョンのコト?」
「まぁダンジョンのコトっちゃダンジョンのコトだな」
コロコロと口の中でアメを転がしながら、リリィは真剣な顔でおじさんを見る。
真面目な顔のリリィのほっぺたの左右が時々膨らんだりしているので、おじさん的には笑いが漏れそうだ。それを必死に堪えながら訊ねた。
「昨日、グレートマンダーから配信者の嬢ちゃんを助けたな?」
「ん」
こくりとうなずく。
「それの切り抜きってやつがネットでめちゃくちゃバズってる。
多摩センターの小柄な大剣妖精は何者だ? ってな」
「バスター……なに?」
「嬢ちゃんのコトだよ。一部でそう呼んでるやつが居る程度だったのに、地元じゃ有名な二つ名扱いで話題になってるぜ」
「うぇぇぇぇ」
思わずうめき声が漏れる。
リリィとしては目立ったり、有名になったりしたくないのだ。
「普段は見かけない余所から来た探索者も少なからず増えてる。
しばらくは、変なのに声を掛けられたり、追いかけられたりするかもだから、自衛しろよ。困ったら、ここのギルドの顔見知りに声を掛けろ。宮囲とギルマス以外のな」
コクコクとリリィはうなずく。
その二人は確かにリリィを助けてくれそうにない。
「基本的には好意的な盛り上がり方をしてるが、ネットでバズると変なのも近寄ってきやすくなる。モンスターはともかく対人戦は苦手だろ? 気をつけとけよ」
「うん」
何をどう気をつければ良いのかはよく分からないのだが、リリィはしっかりとうなずく。
こういう先人からのアドバイスは大事だ。
自分が生き延びてきたのは、必要な時にリリィの苦手意識を無視して無理にでも情報を与えてきてくれたベテランの人たちのおかげなのだから。
そのおかげか、このギルドの常連の人たちくらいとなら、最低限のやりとりはできるようになっているのだ。
お互いの命を守るのに必要なことだったりするから、怖いとか言っていられない。
死んでしまうのはもっと怖いと、リリィは思う。
例え世界に自分の居場所がないのだとしても、リリィは死にたいとは思えないのだ。
だから、自分が生き延びるのに必要最低限なことはやっていきたいと思っている。
「教えてくれて、ありがとう……ございます」
「おう。気にするな。昨日は宮囲から守ってやれずにゴメンな」
「あ、いえ。だいじょぶ、です」
なんで謝れるのかは分からないけれど、気に掛けてくれているからこそだろう。
人と関わるのが苦手なリリィへ、つかず離れずの感覚で見守ってくれているっぽいのは、とてもありがたかった。
「じゃあ、今日の依頼。見て、きます」
「ああ。変なの掴まされるなよ」
ペコリとお辞儀をして、おじさんのもとを離れる。
アメちゃんの甘さを堪能するように、のんびりとギルドのカウンターの方へと向かうと――
「あら。昨日はよくも逃げてくれたわね」
「……ひぇ……?!」
――とても楽しそうな笑顔をした、昨日の美人さんが仁王立ちで待ち構えていた。
その姿を見て、リリィが思わず小さな悲鳴をあげる。
その時――口の中で転がしていたアメちゃんが悲鳴で開いた口からポロリとこぼれ、床で跳ねて砕けるのだった。
区切りの良いところまでは書き上がっていますので、そこまでは毎日更新で行く予定です٩( 'ω' )وよしなに




