004.ぼっち、クラスメイトを助ける
新連載二日目٩( 'ω' )و早速のブクマや評価ありがとうございます!
リリィの両親――特に母は世間体がどうと言いはするものの、リリィのことなど微塵も気に掛けていない。
0時近くなるならともかく、20時頃の帰宅程度なら何も言われない。
――言われないというか、そもそも部屋に居るのか外出しているのかも気にされていないとも言う。
そして、リリィも別に「ただいま」とか言わないし、両親も「おかえり」なんて言わない。その逆も然りだ。
ちなみに、母から父へも、父から母へもない。
家族として住んでいるというよりも、三人で同居している――というのに近い。
あるいは、母からすると、父もリリィも邪魔な居候程度にしか思ってないかもしれないが。きっと、父からすれば母もリリィも邪魔な居候程度なのだろう。
どっちであれ、リリィは自宅を居場所だとは思えない。とりあえず、安全に雨風凌いで寝られる寝床扱いが精々だ。
さておき。
リリィは誰にも教えていない秘密の場所へと赴き、そこで探索者装備の全てSAIへしまう。
それから、SAIにしまってあった服を取り出し着替えてから、帰宅した。
お風呂場を覗き、家族が使ってないのを確認してからシャワーを浴びる。
家族が入っていたり、そもそも家族の機嫌が悪いときに使うと怒られるので、今日は使えてラッキーだ。
お風呂から出て、着替えたあとは、リビングへ。
とはいえ、冷蔵庫の中のものに勝手に手を付けるとあとで叱られるのだ。お腹が空いてるからと、手を出すのはよろしくない。特に料理人の父は、食材に手をつけるとすぐに機嫌が悪くなる。
なので容器に自分の名前を書いて冷やしてある麦茶だけ飲んで、部屋に戻った。
時々、この麦茶が減ってたり無くなってたりするのだが、もう今更だ。
部屋に戻って、ベッドに横たわる。
足をベッドの外に投げ出して、ぼんやりと天井を見上げながら思う。
(あの人に、悪いコトしちゃったな……わたしを、助けてくれたし……優しく、してくれたのに……)
そうは言っても、リリィにとっては知らない人とのやりとりはハードルが高いのだ。
(ううっ……勇気を出して奢ってもらった方が、良かった……かも)
くぅくぅと切なく声をあげるお腹を撫でながら、リリィはか弱く嘆息した。
思ったところで、それを実行できたとは思えない自覚はある。
だからこそ、嘆息するのだ。
「まだ早いけど、もう寝ておこう……」
一度立ち上がり、部屋の電気を消すと、リリィはベッドに潜り込み布団を被るのだった。
その夜。
ファミレスで大好きなチータラを心ゆくまで食べる夢を見た。
「……ちーたら……ゆめ……」
翌朝。
目が覚めたら、チータラの山はどこにもなかった。
「ん……? 朝……だ」
アラームが鳴らなくとも、だいたいこの時間に目が覚める。
目覚まし時計のアラームが鳴った時、両親が在宅中の場合は機嫌が悪くなることが多い。
この時間に目が覚めるというのも、もはやそれを避ける為だ。
ベッドから起き上がり、パパッと制服に着替える。
顔くらいは洗いたいところだが、リビングに父がいるようだ。
リビングを横切って洗面所に行くと、父の機嫌が悪くなる可能性がある。
「今日は、外……かな」
小さく息を吐くと、忘れ物がないかを確認だ。特に家のカギを忘れるのは大問題だ。
そのまま完全に家に入れて貰えなくなる可能性がある。
忘れ物の確認を終えると、カバンを手に取って部屋を出た。
そのまま、できるだけ音をたてないように家を出る。
当然、「行ってらっしゃい」の挨拶を貰うことなどなく、リリィも「行ってきます」と言うことはない。
自宅である一室から出て、エレベータに乗って一階へ。マンションのエントランスにあるカウンターに座ってるお姉さんに会釈をして、オートロックの自動ドアから外へ出る。
そのまま駅に向かう――前に、ちょっと駅と逆方向に向かう。
マンションのすぐ横にある小さな公園に入り、そこにある水道で顔を洗った。
この為に、大きめのハンドタオルを持ってきているのだ。
「よし、すっきり。行こう」
両手で小さなガッツポーズを取ると、改めてリリィは駅へと向かうのだった。
電車に揺られて、学校の最寄り駅へ。
同じ制服を着ている人たちに混じって学校を目指す。
私立誇律学園高等学校。
それがリリィの通っている学校だ。
そして、駅から歩いてる途中で学校が見えてくると、いつも思う。
(……少しだけ、みんながうらやましい……)
周囲の生徒たちは、「おはよう」という言葉を交わしあい、談笑をしながら歩いている人たちばかりだ。
(ともだちって……どう作るんだろ……)
話のキッカケさえあれば誰でも作れる――とは、誰かが言っていた言葉だけれど。
(でも……)
リリィは、家でテレビを見る機会があまりない。
インターネットも利用時間や状況の制限が多くて、長時間見ることもできない。
お小遣いから日々の生活を捻出してるのもあり、本やコスメ、趣味のものなどを購入する余裕もない。そもそも趣味らしい趣味もない。
だから、流行歌も、話題のドラマやアニメも、オシャレも……リリィには何も分からない。
(探索の話くらいしか、話題がないし……そりゃあツマラナイ子だよね、わたし……)
そもそも、声を掛けられたところで――
「最果さん、おはよー!」
「……ふぇ? ぁ、はぃ。ぉはょぅ……」
こうやって、横を通り過ぎていくクラスメイトにこうやって声を掛けられても、驚いてしまってちゃんと返事が出来ないのだ。
(せっかく、声を掛けてくれたのにな……)
だからきっと、今声を掛けたクラスメイトも気を悪くしたに決まっている。
生きているだけで、そこにいるだけで、みんなの気を悪くさせたり、不機嫌にさせたりしてしまう。本当に、自分はダンジョンの外で生きていて良い理由がない。
自分のどうしようもなさにガッカリして、俯き加減で歩いていると、校門の脇で何か言い争いのようなものが見えた。
多くの生徒たちは、それを横目に校門を潜っているようだが――
「なんで邪魔したんだ?」
「……いや、そんなつもりは……でも……そもそも邪魔になるようなとこにいるから……」
「アあ?」
男子生徒――恐らくは二年生だ――が、先ほどリリィに挨拶してくれたクラスメイトの女子に凄んでいる。
中心には髪を金に染めた顔は悪くない人がいて、そして、彼の周囲には人も多いようだ。
リリィのクラスメイトに凄んでいるのも、そんな周囲の人――ようは取りまきだろう。
「真中くんの邪魔するとか意味わかってんのー?」
「一般人は邪魔なんだよ!」
そして、その取りまきたちの質はあまりよくないようだ。
まぁ取り巻きの中にも、あまり今の状況に良い顔をしていない者もいるようだが――止める気はあまりなさそうだ。
「いや、あの、ごめんなさい……」
上級生たちの無数の圧に、クラスメイトは泣きそうな声でそう口にする。
涙は流していない。だけど、間違いなく泣いている。
「謝って済むようなコトじゃねぇんだよ」
そう確信したから、リリィは――
「…………」
――無言で、クラスメイトと、真中という先輩の集団に間に入った。
「え?」
「なんだよ、チビ?」
怖い顔をする取りまきの男子生徒。でもリリィからしてみると、ゴブリンやオークに睨まれるのに比べたらどうってことはない。
「この人は謝りました。それ以上の何を求めるんですか?」
自然と、ちゃんとした声が口から出る。
いつもそうだ。自分の口は、こういう時にしかちゃんと開いてくれない。
けれど――誰かを守る時だけでも、ちゃんと開いてくれるのはありがたいことだ。
「それとも、泣いて涙を流すまで許さないと? 泣いて涙を流す姿を撮影させろと?」
モサついた前髪の奥から、見上げるように相手を睨む。
その眼光の鋭さは、ダンジョン内でのモンスター相手や、探索者同士のやりとりの中で鍛えられたものだ。ただのイキってるだけの高校生が、日々生きている中でなかなか遭遇するものではない。
「いや、べつに……そういうワケじゃ……」
「では――どういうつもりで、謝っただけでは済まないと口にしたんですか?」
やたらと凄んでくる取りまき先輩は、そんなリリィの睨みで息を飲んで後退った。
他の取り巻きも似たようなものだ。
本当にただ、考え無しに口々からの文句だったのだろう。
だが、その考え無しの行いは中心にいる真中先輩の評判をも下げる行いだ。
もっとも、リリィからすると、その真中先輩も、すでに評価は低いのだが。
「そもそもからして、こんなところで撮影なんて迷惑です。
通行している人たちの許可もなく顔を映しているのも良くありません」
「君は何様のつもりかな?」
髪を金に染めたイケメン――真中先輩がそう訊ねてくる。
リリィは、自然と大きなため息をついた。
「何様もなにも、律高の生徒ですけど? それに、それをを言うなら先輩こそ何様のつもりですか?
配信者だかなんだか知りませんが、ここは学校の校門であり、先輩の家ではないんですけど?
そこを通る人を邪魔者扱いって、校長先生とか学園長とかになったつもりですか?」
わりとリリィの本心である。
これに関しては、ダンジョン探索中に時々遭遇する迷惑系ダンジョン配信者への偏見も多分に混じっているのだが、この先輩も同類だろうと勝手に決めつけることにした。
(そういえば、昨日のお姉さんは迷惑系ではなさそうだな……)
そんなことを思いながら、正面の先輩へと意識を向け直す。
「関わるのも面倒くさくて注意されてないだけだと思いますから、気をつけた方がいいですよ。先輩たちのやっているコト、ただの迷惑行為ですから」
では失礼します――とお辞儀すると、涙目のクラスメイトの手を取った。
昨日、メイド服のダンジョン配信者さんを見惚れさせた時のような、下手な男よりもカッコ良く凜々しい顔で。
「行こ。相手にするだけ無駄だし。遅刻する」
「う、うん……」
そうして、クラスメイトの手を引きながら校舎を目指す。
その道中――
(うっひゃぁぁぁぁぁ! またやっちゃったぁぁぁぁぁ……!!
しかも今日は手まで引いちゃってるけど……! こ、これ、最後、どうすればいいんだろう……!? て、手を離すのは、い、いつがベストなのぉぉぉぉ……!?)
――イケメンモードからいつも通りに戻ってしまったリリィは、内心で超絶テンパっているのだった。
だからこそ、リリィは気づいていなかった。
手を引かれているクラスメイトはもちろん、口論を見ていた周囲の野次馬たちから、とても好意的な――一部熱っぽい――視線を向けられていることに。
本日も、準備出来次第もう1話アップします!




