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003.ぼっち、綺麗な人に助けてもらう

三話目٩( 'ω' )و

110本文003



「さすがに、その態度は酷くない?」


 背後からの突然の声にビクつきながらも、リリィはそちらへと視線を向ける。


「少なくとも一度はこの子へ視線を向けた以上は存在に気づいてましたよね?

 にもかかわらず、仕事をしようとしない――この子が小さいからってナメてます?」


 そこには、どこかの学校の制服に身を包んだ、長く伸ばした綺麗な黒髪を持つスラりとした長身の美人さんがいた。


(あれ? この人って……)


 美人に言われて、宮囲は酷く面倒くさそうな顔をしてようやくこちらを見た。

 いや――リリィではなく、美人さんの方へと向き直ったが正しいか。


「何か用ですか?」


 不機嫌さを隠そうもせずにそう口にした宮囲に対して、美人さんは目を(すが)めたあとで――これ見よがしに大きな声で盛大に嘆息してみせた。


「はぁぁぁぁぁ――…………」


 明らかに露骨(ろこつ)。明らかにわざと。

 リリィには絶対にできない芸当をやってみせたあとで、美人さんは少し大きな声を上げた。


「まともに対応する気ないんでしたら、別の人に変わって欲しいんだけど?」

「は!? 今、ちゃんと対応してやろうとしたでしょう!?」

「その態度をちゃんとした対応だというなら、他の人はみんな神対応ですね。あたしは神対応して欲しいので、やっぱり貴女をお断りしたいで~す」

「なッ……?!」


 鼻白(はなじろ)む宮囲に対して、美人さんは下目遣いで(にら)むように視線を向ける。


 その様子に周囲もざわめきだすのだが――


「なんだぁトラブルか?」「ああ、宮囲か」「態度悪いもんなぁ」「あっちの制服のガキはあんま見ないな」「そりゃあ普段ここ使わないヤツなら怒るわな」「宮囲ならいつかやらかすと思ってた」「仕事しねぇのに偉そうだもんな」「それどころか素人知識のクセにマウントとろうとしてきてうざいのよね」「このギルドの質が落ちた原因の一人だろうしなぁ」


 ――探索者たちが、宮囲を擁護する気はなさそうだ。


 そんな声を聞きながら、リリィは驚いていた。


(み、宮囲さんって、みんなから嫌われてたんだ……)


 どうやら意地悪な態度を取るのは、リリィに対してだけではなかったようだ。

 普段人と関わらないし、あまり人と人のやりとりを見ていないリリィにとっては驚きの事実であった。


「ちゃんと仕事する気あるなら相応の態度を見せてみなさい」

「…………」


 歯ぎしりするような態度を見せる時点で、美人さんからすると減点対象だろう。

 だが、それでも仕事をする気になったと判断したのか、美人さんはリリィの背中を叩いた。


「ほ~ら、何かあるんでしょ?」

「えっと、あの……ありが、とう」

「どうしたしまして」


 美人さんの笑顔はとても素敵で、お礼をどもってしまう自分が情けなくなってくる。

 とはいえ、リリィとしてもこのチャンスを逃すわけにはいかないと、宮囲へと向き直った。


「えっと、依頼の報告、です……」

「はいはい。それならとっとと言いなさいよ。一人で報告すらできないなんて……」

「ふ~ん。そういう愚痴や文句も仕事なんだ?」

「……ヒッ」


 リリィの言葉にかぶせるように口を尖らせた宮囲を、美人さんが睨み付ける。

 探索者らしい殺気を込めたものだったのだろう。探索者でない宮囲からすると、とんでもなく怖かったのか、喉の奥で絞されるような声を漏らす。


「続きをどうぞ」

「えっと、はい……。あの、三階で発生中だったイレギュラー。グレートマンダーを確認して、退治……してきました。

 でも、その……討伐証明は、その、確保しそびれちゃって……」

「なら報酬はナシよ。証拠ないんじゃ意味ないじゃない。お疲れ様」


 美人さんに睨まれながらも、リリィを見下す態度だけは崩さない宮囲。

 それに対して、美人さんの殺気と怒気が増した気がする。


(ううっ、わたしが怒られてるワケじゃないのに、なんか怖いよぉ……)


 内心でオドオドビクビクなリリィ。

 そんなリリィへ、美人さんは怖がらせてごめんねと謝罪しながら、頭を撫でる。


(え?)


 その優しい手に、どう反応して良いか分からずに美人さんを見上げた。


「三階のグレートマンダーなら、あたしも遭遇しましたよ。

 その時に、この子に助けてもらったんです。討伐証明が必要であれば、今ここで出せますよ。この子が確保しそびれたグレートマンダー、私が一応回収したんで」


 彼女の言葉で、ようやくこの美人が誰なのか気がついた。


(やっぱり、ダンジョンでメイド服着ていたお姉さんだったんだ)


 というか、見上げていて気がついた。

 長身でスラリとした細身なのに、出るとこは出ている。

 でも学生服を着ているので、リリィと歳は近いのだろう。


(わたしと、大違いだ……)


 ちんちくりんな自分を見下ろして、なんだががっくりしてしまう。

 報酬の話とは別のところで気落ちしているリリィ。


 それはさておき、宮囲は美人さんへ勝ち誇るように睨み付ける。


「アンタが回収したモノがこいつが討伐したモノだって報告されたって、証明できるワケがないでしょう? 何よりアンタが10階でふつうに倒してきたモンかもしれないのにさ!」

「あたし、配信者で~す」


 宮囲をおちょくるように美人さんが告げる。


「ちょうど3階で配信している時にグレートマンダーに襲われ、この子に助けられたんですよ。動画見せましょうか? 有志がすでに切り抜きも作ってくれてますし」

「ハンッ! 動画なんざいくらでも加工できるでしょうが。証拠になんかなるもんですか。討伐証明がないんなら報酬はナシよナシ! 依頼も失敗。むしろ慰謝料を要求しないだけ感謝して欲しいくらいだわ!」

「ライブ配信の動画って過去にも、問題発生や解決の証拠扱いされる前例があるのを知っていてそれを口にしてます? それにドラレコ配信なんてのも最近はよく見ますよ?」

「前例があろうとなかろうと知らないわよ。そもそもこんなガキが10階のモンスターを討伐できるワケないんだから、嘘つかれても知らないわ! どうせあんたと共謀でもしてんでしょう?」


 バチバチと睨み合う宮囲と美人さんの間にいるリリィは、こっそり周囲を見回した。


(ううっ怖い……怖いけど……宮囲さん、気づいてないのかな?

 なんかこっちを見てる――他の探索者さんたちの温度がどんどん下がってるっぽいけど……)


 ちなみにリリィ本人はその理由を分かっていないようだが――周囲の探索者たちの機嫌が悪くなったのは、宮囲が完全にリリィを侮っているからだ。


 常連たちはリリィが小学生の頃からこのギルドに出入りをしていたことを知っている。

 小さいながらもダンジョンに挑戦してはどんどん腕を上げていっているのを知っている。


 ようするに、多くの常連たちは――大して面倒を見ていたワケではないながら――リリィはワシが育てたと後方腕組み勢をする程度には気に掛けているのだ。


 リリィに声を掛けようとすると、逃げ足の速いメタリック系レアモンスターのようにすぐ逃げてしまうから、常連たちは見守る方向にシフトしたとも言うのだけれど。


 ともあれ、そんな常連たちからしてみると、宮囲の発言は許せない。

 加えて、美人さんの発言は、昨今の探索中のドライブレコーダー代わりに配信をする人たちが増えている傾向を思うに、何も間違ったことは言っていない。


 ある種の一触即発だ。

 リリィだけは、どうしてこんな空気になっているのか分かっていないようで、きょろきょろする小動物のようになっている。


 しばらく睨みあっていたが、美人さんは急に冷めたように肩を竦めた。


「そう。じゃあいいわ」

「え?」

「おチビさん。ちょっと付き合ってもらってもいいかしら?」

「ええっと……あの、わたしの、報酬は……」

「このギルドはお金を出したくないらしいわよ」

「そっか。わたしが、しっぱい、しちゃったから……」


 久々にちゃんとご飯が食べれそうだったのに、報酬がないときた。

 何となく泣きそうな気分になっていると、美人さんはしゃがんでリリィの顔を覗き込む。


「まぁ報酬を出し渋られて納得いかないのもわかるけどさ、とにもかくにも助けてもらったお礼したいんだ。ファミレスとか一緒しよ? もちろん、あたしの(おご)りで」

「え?」


 美人さんのお誘いに、『知らない人に着いていってはいけません』と『お腹がすいた』の天秤が大きく揺れる。

 そこに、『人見知り』と、『人と話すの苦手』の重りが加わって、しばらく釣り合い……お目々をぐるぐるさせながら悩み。


 やがて――


「ご、ごめん、なさぃぃぃぃ……」


 ――最終的に『お腹すいた』は敗北。


「え? あ! ちょっと……!」


 軍配は『人見知り』『人間嫌い』『お喋り苦手』の連合軍にあがり、リリィは脱兎(だっと)の如くギルドを飛び出していくのだった。


本日はここまで٩( 'ω' )و

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