『夢操の檻』 第四部:楽園の失墜
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1. 密やかなる設計図
ニューソウルの夜は、優しく、そして嘘つきだ。 アキトは、自分の部屋の狭いデスクで、一枚の白紙に細い線を引いていた。それは、この二週間にわたって死に物狂いで集めた、街の「綻び」を繋ぎ合わせた脱出マップだった。
「アキト、まだ起きているの?」
背後から、柔らかい布が擦れる音とともに、リナの声がした。彼女はアキトの肩に顎を乗せ、手元を覗き込む。彼女の長い髪がアキトの頬を掠め、いつもの石鹸の香りが鼻腔をくすぐった。
「リナ。……見てくれ。これなら行ける」 アキトは興奮で声を震わせた。 「東側の第三ゲート。あそこのセンサーは、三時間ごとに二秒間だけ、システムの再起動のために瞬きをする。その隙にメンテナンス用のハッチを抜ければ、防壁の外に出られるんだ」
リナは、アキトの引いた線を細い指でなぞった。 「……外。あの灰色の、何もない世界へ行くの?」 「ああ。地獄かもしれない。でも、そこには『偽物の夢』を植え付ける機械も、感情を奪う薬もない。何より、君をこんな冷たい街に縛り付けておく必要がなくなるんだ」
アキトはリナの手を強く握った。 「リナ、君の夢は、この街のみんなが笑っていることだって言ったよね。でも、それは君自身の本当の夢じゃない。君は、自分の意思で笑っていいんだ。僕と一緒に、本当の空を見に行こう」
リナは、アキトの瞳をじっと見つめていた。その瞳の奥で、微かな、本当に微かな青い光が明滅したのを、アキトは「感動の涙」だと思い込んでしまった。
「……アキト。あなたは、本当に私を……」 「愛している。君を自由にするためなら、僕はなんだってする」
アキトは彼女の耳元で、さらに詳細な計画を囁いた。 警備兵の交代時間。監視カメラの死角。予備電源の場所。 すべてを、愛の告白と共に差し出した。アキトにとって、この秘密を共有することこそが、二人を結ぶ真実の絆だと思えたのだ。
リナは微笑んだ。その微笑みは、聖母のように慈愛に満ちていた。 「わかったわ、アキト。今夜、すべてを終わらせましょう」
その夜、アキトは人生で最も深い眠りについた。 翌朝、自分がどんな結末を迎えるかも知らずに。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回、物語は暗転を迎えます……。
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▼次回予告
次回 2. 鋼鉄の沈黙
今日の【22時】頃に更新予定です。お楽しみに!




