『夢操の檻』 第三部:剥がれ落ちる福音 第3話
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4. 逃亡の誓い
その夜、アキトは暗闇の中で確信した。
ここにいてはいけない。 リナを愛している。
その気持ちに嘘はない。 でも、自分の愛したリナは、この「冷たいシステム」の一部として機能しているリナではない。
(一緒に逃げるんだ……。外の世界は地獄かもしれない。でも、自分の本当の心を取り戻せる場所へ)
アキトは枕の下に隠していた、脱出用の地図を握りしめた。
ニューソウルの警備網、監視カメラの死角、そしてゲートのロック解除コード。
この数日間、必死に集めた断片的な情報を繋ぎ合わせ、今夜、すべてを決行する。
彼は隣で眠るリナの顔を見た。
月光(という名の照明)を浴びた彼女は、今もこの世のものとは思えないほど美しい。 アキトは彼女の唇に、静かに、そして深くキスをした。
これが最後の別れになるのか、それとも新しい人生の始まりになるのか。
リナを起こす。しかし一瞬躊躇した。前の夜のように、またリナがおかしくなったら。本気でここを楽園だと夢見ているリナに反対されたら。しかしもう悩む時間はない。
「……リナ。起きて。行かなくちゃ」恐々声をかけ、体を揺さぶる。
アキトの声に、リナがゆっくりと目を開ける。
その瞬間、アキトは最大の過ちを犯すことになる。 自分の愛の深さを信じ、彼女なら、ニューシティーからの脱出を手伝ってくれると、無邪気に期待してしまったのだ。
「僕と一緒に、街の外へ出よう。君を、本当の自由にするんだ」
アキトのその言葉が、楽園という名の檻の、最後の扉を閉ざす合図になった。
アキトの言葉に、リナはゆっくりと目を開けた。
視線ははっきりしていない。心底にあらずといった様子だ。
不自然なほどに長い沈黙が走る。
「……外へ? アキト、どういうこと?」
やっと話し始めた 彼女の声は、朝の目覚めのように穏やかだった。
だが、アキトの心臓は、けたたましい非常ベルが鳴り響いているかのように震えていた。
「この街は……僕らがいるべき場所じゃないんだ。地下の施設で、みんながどうなっているか、僕は知ってしまった。彼らは心を……いや、夢を改造されている。」
本当は言いたくないが、言うしかない。
「君も、もしかしたらそうなのかもしれない」
アキトはリナの手を握りしめた。
彼女の指先は、ひんやりと冷たい。 「君の言うこと楽園は間違っている。ここは、僕らの本当の夢を奪う場所だ。だから、一緒に逃げよう、リナ。君に、本当の自由を教えたい。本当の夢を見つけてほしい」
リナは、アキトの言葉を遮ることなく、ただ静かに聞いていた。
その沈黙が、アキトの期待を煽る。きっと、彼女も気づいていたはずなんだ。この街の歪みに。自分と同じように、心の奥底で苦しんでいたんだ、と。
やがて、リナはアキトの顔にそっと手を添えた。
その指先が、アキトの頬を優しく撫でる。
「……アキト。あなたは、本当に私を大切に思ってくれているのね」
彼女の瞳に、うっすらと影が差す。
「私……怖かったの。この街で、誰かのプログラムとして生きているんじゃないかって。でも、あなたがそう言ってくれるなら……」
リナはアキトの首に腕を回し、まるで壊れ物のようにしがみついてきた。その体は震えている。
「ありがとう、アキト。あなたが、私の本当の夢を思い出させてくれた。……私、あなたと一緒なら、どこへだって行くわ」
その瞬間、アキトの胸は、この上ない幸福感で満たされた。
自分が愛した少女は、やはり本物だった。彼女も自分と同じように、この偽りの楽園から抜け出したがっていたのだ。
抜け出したがって。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回、物語は第4部に突入し大きな転機が訪れます……。
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▼次回予告
次回『夢操の檻』 第四部:楽園の失墜 1. 密やかなる設計図
明日の【10時】頃に更新予定です。お楽しみに!




