『夢操の檻』 第5章:裏切りの新兵(前編)
1. 最初の標的
新政府軍の輸送ヘリが、夜の帳を切り裂いて飛行していた。
機内を支配するのは、赤く不気味な警告灯と、重厚な装甲が擦れ合う金属音。
デオ率いる分隊の面々は、それぞれの装備を点検し、静かにその時を待っていた。
「今回のターゲットは、この先の大森林地帯に隠れ住む旧政府軍の残党」
デオがホログラムマップを展開する。
「規模は三十人程度。だが、周辺に巧妙な地雷原と自動砲台を設置している。普通なら歩兵を送り込むには骨が折れる場所だが……」
デオの視線が、機内の隅で腕を組んで座るアキトに向けられた。
アキトは装甲服を纏い、ヘルメットのバイザーを上げた状態で虚空を見つめていた。その瞳には、緊張も恐怖もない。
あるのは、新調された鋭利なメスのような、冷ややかな好奇心だけだ。
「……俺が道を切り開きます。地雷も砲台も、空を歩けば関係ない」
「頼もしいこった。いいか、アキト。これはお前の初陣だ。だが、訓練じゃない。相手は殺す気で撃ってくる。……慈悲は、どこかに置いてきたんだろうな?」
アキトは薄く笑みを浮かべ、バイザーをカチリと下げた。
「慈悲? ……そんな非効率な感情、漂流していた時に海に捨ててきましたよ」
「降下ポイントまであと三十秒!」ニコが叫ぶ。
輸送ヘリの後部ハッチが重々しく開き、激しい風が機内に吹き込んできた。眼下には、深い緑に覆われた山岳地帯が広がっている。その一角に、微かな焚き火の光が見えた。
「アキト、行け! おまえの力、見せてみろ!」
デオの号令と同時に、アキトは躊躇なく機外へと身を投げ出した。




