『夢操の檻』 第4章:空気の形(後編)
4. 昇華:完全なシステムの誕生
その日の夜、アキトはニューシティー司令塔の最上階、外壁にある緊急発進用のプラットフォームに立っていた。
夜風が漆黒の装甲服を叩く。
眼下には、完璧な秩序によって統治されたニューシティーの灯火が、宝石箱のように輝いていた。
アキトは一歩、プラットフォームの縁から踏み出した。
落下――はしない。
見えない空気の層が、彼を優しく、力強く支えている。
アキトはそのまま、ゆっくりと上昇を始めた。
街のサーチライトが自分を追いかけてくるが、それさえも今の彼には祝福のスポットライトに思えた。
足をすすめ、 高度が上がるにつれ、地上の騒音は消え、世界は静寂に包まれていく。
アキトは空中で静止し、月を見上げた。
かつては「空を見るたびに体が軽くなる」という不思議な感覚でしかなかったものが、今は明確な「意志」へと変わっていた。
(レオン、あんたに見せてやりたいよ。あんたが『磨りガラスの向こう』と呼んだこの世界で、俺が手に入れたこの力をよ。)
アキトは右手を空へ突き出し、空気を強く握りしめた。
その瞬間、大気がうなり、彼の周囲に衝撃波の輪が広がる。
彼はもはや、誰かに守られる少年ではなかった。
自らの意志で空を形作り、自らの意志で敵を裁く。
新政府という秩序が生み出した、最強の「戦闘システム」。
「アキト、聞こえるか。戻ってこい。明日は初陣だ。旧政府軍のキャンプをいくつか潰してもらう」 通信機からデオの声が響く。
「了解です、分隊長。……楽しみですよ。あいつらがどんな顔をして、空から降ってくる俺を見るのか」
アキトの声には、かつての温かさは欠片も残っていなかった。
あるのは、透明な空気のように冷徹で、鋭利な刃の感覚。
新政府軍能力兵アキトは、夜の闇に溶け込むようにして、滑らかに地上へと降下していった。
その背中には、目に見えない大きな重圧が、確かにのしかかっているように見えた。




