『夢操の檻』 第3章:訓練という拷問(前編②)
3. 実戦形式:ペイント弾のゲーム
午後は、実戦形式のタクティカル・シミュレーションが行われた。
フィールドは可動式の遮蔽物で構成された迷路のような空間だ。
ルールは簡単。
ペイント弾が胴体に20発当たれば脱落。得意の蹴りで訓練用に夢を与えられたムソウをすべて倒せば勝ちだ。
「いいか、坊主。これは遊びじゃねえが、楽しまなきゃ損だぜ」
デオの声とともに、訓練が開始された。
アキトは何のためV-SMGを携え、影から影へと移動した。
驚いたのは、自分の身体能力の向上だった。義足の動きが装甲によって最適化され、驚くほど滑らかに加速できる。
角を曲がった瞬間、対向するムソウ(ムソウ グレードB)と鉢合わせた。
――ガガガガッ! 敵のペイント弾がまっすぐに向かってくる。
アキトは咄嗟に身を隠し、ニヤリと笑った。
以前までなら、ここで躊躇していただろう。だが全てを投げ打った今は違う。
圧倒的な装甲と武装が、自分を全能の存在だと錯覚させる。
(……面白い)
アキトはスパイクを壁に叩きつけ、その反動を利用して転がった。
ムソウの懐に潜り込み、敵の装甲を粉砕する。
血肉が飛び散り、「赤」が床を埋めていく。 体に飛ぶ血液さえも、今は心地よく感じられた。
ニコが時折、最新型のEIN との実戦訓練を勧めてくるが、アキトはそれを断り続けた。
「ロボット相手じゃ、つまらないだろ。やっぱり相手は、『人間』じゃないとな」
その言葉に、自分でも驚いた。
いつの間にか、自分と同じ「人間」を標的にすることに、抵抗を感じなくなっていたのだ。
むしろ、最新の装備を使いこなし、旧政府軍のような「旧時代の遺物」を圧倒するイメージが、アキトの心を支配していた。
「いい動きだ、アキト。飲み込みが早い。だてに旧政府軍にいたわけじゃあなさそうだ。」
デオが近づき、アキトのヘルメットを軽く叩いた。
「だが、お前の訓練の本番はこれからだ。……ここまでは『身体』の作り替え。次は、『心』の作り替えだ。お前は気が付いていないようだが、まだヒト…といってもムソウだが、ヒトを殺すのを躊躇するときがある。」
デオの目が、ヘルメットのシールド越しにアキトを射抜く。
その目は、これまでの陽気さを消し去り、冷徹な軍人のそれへと変わっていた。
「上へ行こう。心理訓練室だ」
アキトは無言で頷いた。
力への全能感に満たされた今の彼にとって、それは更なる「進化」へのステップにしか思えなかった。




