『夢操の檻』 第3章:訓練という拷問(前編)
1. 訓練場:白の規律、黒の異質
翌朝、アキトを叩き起こしたのはデオの野太い声と、窓から差し込む計算されたような朝日だった。
高級なシーツの感触に未練を感じる暇もなく、アキトはニューシティーの地下深く、広大な「第一訓練場」へと連行された。
そこは、島での泥臭い訓練場とは似ても似似つかない場所だった。
床は衝撃を吸収する特殊な樹脂で覆われ、天井からは無数のセンサーと自動追尾式のカメラが吊り下がっている。
整列した「EIN」たちが一糸乱れぬ動きで射撃訓練を行いデータを集め、その傍らでは白と金の装飾が施された装甲服を纏った兵士たちが、無機質なエネルギー音を響かせていた。
「いいか、坊主。ここではお前のこれまでの『常識』は捨てろ」 デオが顎をしゃくると、ニコが大きなコンテナを運んできた。
「これ、アキト君専用に調整したやつだよ。どんな能力でも、それを阻害しないように、伝導率を極限まで高めてあるんだ」
コンテナが開かれた瞬間、アキトは息を呑んだ。
そこにあったのは、他の兵士たちが着ている「白」とは真逆の、黒の装甲服だった。 深い闇のような黒に、鋭利な一筋の白いライン。
それは、この秩序ある世界において、アキトという存在が「異質な存在」であることを象徴しているようだった。
「ニコさん。なぜ、僕だけ黒なんだ?」
「能力者ってのは特別な取り計らいなんだよ。戦場で味方が一目で『あいつは切り札だ』と分かるようにね。……さあ、着替えてきて」
装甲服を身に纏うと、驚くほどの重量感がアキトを包み込んだ。 だが、それは不快な重さではない。
アシストが義足と連動し、身体の動きを完璧にトレースする。
一歩踏み出すたびに、地面を「支配」しているような力強い感覚が伝わってきた。ニコに少し動きにくいことを伝える。
「うーん、そうだね……。義足の上に装甲版をつける必要はないかな?外しとくね。」
着替えを終えて戻ると、デオもまた装甲服を纏っていた。
彼は分隊長専用の「白地に赤」のカラーリング。その威圧感は、旧政府軍には見ることのできなかった芸術的な重厚さだった。
2. 武器などいらぬ
「次は武器だ。旧政府軍で使ってたおもちゃとは訳が違うぜ」
デオが武器ラックから取り出したのは、V-SMG。
見た目は軽くコンパクトだが、手に取ってみると意外と思い。
「……僕はあまり武器は持たないんだ。これがあるからな」
義足をコツコツたたきながら言う。
「まぁ、撃ってみるに越したことはない。こいつは弾丸じゃなく、高密度に圧縮されたエネルギーの球を吐き出す。反動は最小限で重さ以外は邪魔にはならない、坊主の戦い方にも会うだろうよ。」
アキトは射撃位置につき、V-SMGのトリガーを引いた。
――シュンッ、シュンッ、シュンッ!
乾いた電子音とともに、青白い光球が連射される。
標的の鋼鉄板に当たった瞬間、エネルギーが炸裂し、分厚いプレートを一瞬で融解させた。
蹴りが「粉砕」だとしたら、V-SMGは「消滅」させる武器だった。
「これはすごい……。」
「だろ?前までの豆鉄砲とはちがうぜ?よし、お前さんはまず『攻め』をもっと強化しろ。ニコ、近接武器を出せ」
屋内の武器庫に移動する。
そこにあったのは大量の近接武器だった。
ラックに規則正しく並び、鱗のようにも見える。
新政府の武器には、それぞれ特殊なサブ機能がついている。盾としても使えるナックルに、ピストルが内蔵されたナイフ。
アキトが目を引いたのは、鋭いトゲが施された、黒い小型の盾だった。
島で作った義足のスパイクより数段は破壊力が増しそうだ。
「なるほど、スパイクの新調って分けか。お前さんは応用力があるなぁ!」
装甲、義足、そしてスパイク。
それらを装備したアキトは、鏡に映る自分の姿を見た。
そこには、ついこの間までの薄汚い漂流者の影はどこにもなかった。
黒の装甲に包まれた裏切り者。
その姿を見ているうちに、アキトの胸の奥で、小さな、けれど確かな「優越感」が芽生え始めた。




