『夢操の檻』 第2章:白い門と黒い影(後編)
4. 偽りの安息
その夜、アキトはニューシティの賓客エリアにある、個室を与えられた。
清潔なシーツ、機能的な家具、そして窓から見える満天の星……が映るスクリーン。 かつての島での、隙間風が吹く粗末な宿舎とは比べ物にならない贅沢だ。
食事も運ばれてきた。
栄養バランスの完璧な、色鮮やかな料理。
アキトはそれを無感情に胃に流し込んだ。味はいいはずなのに、どこかプラスチックを噛んでいるような、非現実的な感覚があった。
ベッドに大の字になり、アキトは窓の外の月を見つめた。
身体が、浮き上がるように軽い。
(……僕は間違っていない) 自分に言い聞かせる。
……レオン。
あいつは「自分を犠牲にする」なんて格好いいことを手紙に書いていた。
だが、結局は僕たちを裏切り、一人で勝手に新しい目標を見つけた。
なら、俺も好きにさせてもらう。 この秩序の力を利用し、レオンを追い越し、あいつが何をしようとしているのかを暴いてやる。
そして、今度こそ僕が、あいつを「磨りガラスの向こう」へ引きずり出してやるんだ。
アキトは、かつての仲間たちへの罪悪感を、レオンへの憎悪という燃料で焼き尽くそうとした。 「あいつらだって、いずれわかるはずだ。この檻の方が、ずっと幸せだってことを……」
呟いた声は、空調の音にかき消された。
ふかふかのベッドに沈み込みながら、アキトは眠りについた。 それは、彼が人生で初めて手に入れた「誰にも脅かされない眠り」であり、同時に、二度と目覚めることのない「長い夢」の始まりでもあった。
翌朝、彼はデオによって乱暴に叩き起こされることになる。
少年としての死、そして、裏切りの死に神への新生が、本格的に始まろうとしていた。




