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夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


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『夢操の檻』 新政府軍アキト編 第1章:漂流者と空

カクヨムでも重複投稿しています

物語をお楽しみください

1. 暴力的な蒼穹

「…………、……っ」


喉が、熱せられた砂を無理やり流し込まれたように乾いている。


呼吸をするたびに、肺の奥を錆びたヤスリで削られるような痛みが走った。


アキトは身をよじろうとした。だが、身体が動かない。


視界を下げれば、自分の手首と足首は、太く粗末な麻縄によって執拗なまでに縛り上げられていた。小舟の底に転がされたその姿は、まるで海に捧げられる供物のようだった。


「……そうだ。僕は……」


記憶の断片が、灼熱の陽光に炙り出されるように蘇る。 深夜の静寂、波の音が心地よい砂浜、そして――レオン。 あの男の、感情の欠落した冷徹な瞳。


『お前が見ているのは、磨りガラス越しの平和だ』


最後にレオンが吐き捨てた言葉が、耳の奥で何度もリフレインする。


反論したかった。


しかし、ニューシティーにはリナがいて、温かい食事があって、明日を約束する規律があった。


たとえそれが「檻」であったとしても、この無機質な海の上で干からびて死ぬよりは、数千倍もマシだったはずだ。


だが、今の自分に浮かぶのは、レオンの言葉の揚げ足を取るような、子供じみた負け惜しみだけだった。


裏切られた。捨てられた。 その屈辱が、喉の渇きよりも鋭くアキトの心臓を抉った。


2. 義足の機転

アキトは必死に首を持ち上げ、周囲を視認した。


視界を遮るものは何もない。見渡す限りの水平線と、太陽の光を反射して暴力的に輝く海。自分を乗せた小さな手漕ぎボートは、音もなく波に揺られている。


(……生きなきゃならない)


本能的な衝動が、絶望を上書きする。 船内には、レオンが投げ込んだのか、あるいは最初から備え付けられていたのか、申し訳程度の物資が散らばっていた。


数本の水の瓶、銀色の袋に入った合成肉、そして古びた救急箱。


だが、それらを手に取るには、まずこの呪わしい縄を解かなければならない。


「……く、そっ……!」


アキトは這いずるようにして、船べりの錆びついた金属の金具に手首の縄を押し当てた。 ザリ、ザリ、と金属が繊維を削る鈍い音が響く。


数十分、あるいは一時間以上。


額から滴る汗が目に入り、視界が滲む。皮が剥け、血が滲んでも、安物の麻縄は一向に切れる気配がない。


腕の筋肉が痙攣し、心臓の鼓動が耳の奥でドラムのように打ち鳴らされる。


あまりの非効率さと己の無力さに、アキトは絶望し、息を切らして天を仰いだ。


太陽は容赦なくアキトを焼き続けている。 その時、なにかに反射した光に目をしかめた。


「……そうだ。僕には、これがある」


そこにあるのは、ハルが丹精を込めて作った「義足」だった。


高強度のチタン合金とカーボンファイバー。それは失った足の代わりであると同時に、努力の結晶でもあった。 アキトは縛られたままの両手を器用に操り、義足の接合部にあるロックピンを外した。


関節を調整するための、鋭利に加工された予備の金属パーツ。


それを、歯を食いしばりながら指先で抜き取る。


なぜ、こんな簡単なことに今まで気づかなかったのか。


少し気絶しただけでこれか。ミナにこの話をしたらきっと笑われるな。


少しばかりの自嘲とともに、アキトはその鋭い金属片を縄の隙間に滑り込ませた。


――プツン。


呆気なく、拘束が解けた。 解放された両手は、血行不良に紫色に変色し、激しい痺れを訴えていたが、アキトはそれを構わず足の縄も切り裂いた。


3. 水、そして空

自由になった手で、アキトは真っ先に水のボトルへ飛びついた。


コルクを、指が震えるほどの力で引き抜く。


そのまま一気に飲み干す――寸前で、アキトは動きを止めた。


「……あ、あぶない……」


この海がどこまで続いているのか、いつ陸地に辿り着けるのか、全く分からない。 明日、雨が降る保証もないのだ。


アキトはもっと飲みたいという猛烈な本能を、奥歯を噛み締めて抑え込んだ。


唇を湿らせ、喉を最低限潤すだけの、ほんの二口。ぬるくなった水が、五臓六腑に染み渡っていく。


渇きが癒えるとそれだけでがぜん力がわいてくる。アキトは船底に身を投げ出した。


背中に伝わる船底の熱、単調な波の音。


雲一つない晴天を見つめていると、不意に奇妙な感覚に襲われた。


(……軽い?)


自分の身体が、いや、周囲の空気そのものが重さを失っていくような感覚。


暴力的で、物理的な力だ。


まるで、頭上の空気が自分を吸い上げようとしているような、あるいは、周りの空気が「密」になって自分を支えようとしているような、そんな支配感。


アキトは手を伸ばし、何もない空間を掴もうとした。


指先を抜ける風が、一瞬だけ粘り気を持った気がした。


その全能感に似た感覚は、アキトの心に奇妙な安らぎをもたらした。


「……ふん、ふふん……」


気づけば、アキトは鼻歌を刻んでいた。


状況は最悪だ。いつ死んでもおかしくない。


だが、この空の下で、アキトは初めて「自分が自分として存在している」という感覚を噛み締めていた。


絶望の海へ流されたアキトは、ハルの作ってくれた義足を駆使して見事に拘束を解き明かします。

猛烈な渇きに耐え、最低限の水で命を繋ぎ止めたアキトが、船底に横たわり見上げた晴天。


そこで彼を襲ったのは、空気が重さを失い、自分が浮き上がるような奇妙な全能感でした。

最悪の状況下で、不気味に鼻歌を口ずさむアキト。


この海上で彼に訪れた異変は何なのか、そしてこの先どこへ流れ着くのか――


「第1部の題名、回収してるじゃん!」「アキトに何が起きてるの?」と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価★★★★★】で応援よろしくお願いします!

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