『夢操の檻』カナン編 第6章:開戦(後編②) ― 鋼鉄の墓標、消えゆく夢
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2. 孤独と鋼の足跡
「……ミナ……ジン……誰か……!」
ユーリは叫んだが、その声は金網の床に吸い込まれるように消えていく。
孤独が、冷気となって背筋を這い上がった。
反射的に、ユーリは自作の白い手袋で左耳の無線機に手を伸ばした。
混線していてもいい、雑音でもいい。誰かの「声」に触れていなければ、この異様な静寂に精神を削り取られてしまいそうだったからだ。
だが、指先が通信機に触れる、その一瞬前だった。
――カァンッ!
乾いた、しかしあまりに重い衝撃。 直後、ユーリの視界は火花を散らして爆ぜた。
「……ぁ……、あ、が、あぁぁぁあああッ!!」
ユーリは喉がちぎれるほどの悲鳴を上げ、金網の床に転げ回った。
左頭部を巨大な鉄槌で殴られたような衝撃。
焼けるような熱さと、脳を直接かき回されるような激痛。
指先が触れようとした無線機は粉々に砕け散り、それがあった場所――ユーリの左耳は、肉ごと無残に吹き飛ばされていた。
視界が真っ赤に染まる。
金網の床に、自身の温かい血がポタポタと滴り、底知れぬ暗闇へと吸い込まれていく。
ユーリは激痛に身をよじりながら、右手で失われた左耳のあった場所を必死に押さえた。
指の間から溢れ出す鮮血が、丹精込めて作った白い装備を泥沼のように汚していく。
(音が……聞こえない……)
左耳からはすべての音が剥ぎ取られた。 右耳にはキーンという不快な耳鳴りだけが残る。自分の荒い呼吸さえも届かない。
ユーリは朦朧とする意識の中で、耳を抑えながら軽機関銃を手繰り寄せた。 震える銃口を、暗闇の奥へと向ける。
死にたくない。
血で片目が潰れ、平衡感覚を失いながらも、ユーリは戦士としての本能だけでその場に膝をつき、闇を睨みつけた。
無音の世界。
光さえ届かない通路の奥から、何かが近づいてくる。
その時、右耳に残った微かな聴覚が、その音を捉えた。 すべての戦火を撥ね退け、ユーリの鼓膜に直接刻み込まれるような、規則正しい響き。
――コツ。
ユーリの指が、引き金にかかる。
――コツ。
それは、硬質な金属が、鉄の床を叩く音。
新政府のEINが放つ機械的な駆動音ではない。
もっと重く、もっと鈍く、どこか人間の歩法を感じさせる、独特のリズム。
――コツ、コツ、コツ。
仲間から分断されたユーリを待っていたのは、あまりにも無情で過酷な現実でした。
救援を求めて通信機に手を伸ばした瞬間、狙撃によって左耳ごと通信手段を奪われてしまいます。
溢れ出る鮮血、失われた聴覚、そして血に汚れていく白い装備。
激痛と恐怖の中で朦朧としながらも、ユーリは手繰り寄せた軽機関銃を闇へと向けます。
そして無音の世界に響き渡る、規則正しい硬質な足音――『――コツ。』
暗闇の奥から歩み寄ってくるのは、一体何者なのか。
そして物語は漂流するアキトへと場面を移します!
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