『夢操の檻』カナン編 第6章:開戦(後編) ― 鋼鉄の墓標、消えゆく夢
カクヨムでも重複投稿しています
物語をお楽しみください
1. 世界の夢
カナン上端の白銀の大通りは、一瞬にして鉄と血の匂いに満ちた屠殺場と化した。
「展開しろ! S-EINを前に出せ!」
ジンの怒号が飛ぶと同時に、ハルが端末を叩く。
生き残ったS-EINたちが、主人の意思を体現するように前線へ躍り出た。
中でも異彩を放っていたのは、あの左腕に戦車の砲塔を据え付けた「S-EIN指揮機」だ。
ガシャン、ガシャンと重い駆動音を響かせ、指揮機が最前線に立つ。
その正面から、新政府の洗練された白銀のEIN部隊が、精密機械のような正確さでレーザーを掃射してきた。
「やれッ!」
ハルの叫びに呼応し、指揮機の左腕――無骨な戦車の砲塔が火を噴いた。
ゼロ距離での砲撃。新政府の最新鋭EINが二機、一瞬でスクラップへと変わり、爆風が磨かれた地面を吹き飛ばす。
「ハッ、見たか! これが旧政府軍の底力だ!」
ハルが快哉を叫ぶ。
その時、横の建物から壁をぶち抜いて現れたのは、上陸を果たしたロシアの重戦車だった。
戦車のハッチから身を乗り出した大柄なロシア兵が、指揮機の異形な姿を見て、目を丸くした。
彼は指揮機の左腕――自分たちの国の旧型戦車から毟り取ったであろう砲塔を指差し、泥だらけの顔を綻ばせて叫んだ。
「@#&%$ XoPoMo! @#$!!」
騒音にかき消されるロシア語。
ユーリには何を言っているのか全く分からなかったが、その男が親しげに、そして誇らしげに指揮機を叩いたのを見て直感した。
(……自分たちの仲間だって、思ってくれたんだ)
言葉は通じない。
けれど、同じ「無骨な鋼」を信奉する者同士の、戦場における連帯がそこにはあった。
その兵士は豪快に笑いながら、再び戦車の中に潜り込み、前方の隔壁を砲撃で粉砕して進んでいった。
その背後からは、イギリスの部隊が整然とした足取りで現れる。
「FIRE!」
指揮官の鋭い号令。
さっきの兵士の猛々しさとは対照的に、彼らは一切の無駄を排し、膝をついて一斉に引き金を引いた。
乾いた銃声が重なり、新政府の歩兵部隊が、まるで刈り取られる麦の穂のように次々と倒れていく。
統制の取れた射撃の美しさは、地獄のような戦場において異様なほど冷徹に映った。
自分たちもまけていられない。
ユーリは、その硝煙の渦の中を駆け抜けていた。
「ハル、エレナ! そっちは任せる!」
「ユーリ、無茶しないでよ!」
仲間の声が遠ざかる。激しい爆発が回廊を分断し、ユーリは気づけば、自分の隊の主力とは異なる集団の中に混じっていた。
周りにいたのは、アフリカ部隊の軽装兵たちと、日本部隊の斥候数名。
そして、彼らのすぐそばで、陽炎のように空間を歪ませながら佇む一体の機械――ハルが最も気に入っていた「ステルス型S-EIN」だった。
その機体は、装甲の間から無数の細いケーブルが剥き出しになっており、不恰好と言えば不恰好だった。
しかし、そのケーブル一本一本がハルの執念によって調整された「感覚器官」であり、周囲の光を屈折させる特殊なステルス機能を備えていた。
「……お前、ハルのところへ戻らなくていいのか?」
ユーリが問いかけると、ステルス型S-EINはカメラアイをチリチリと震わせ、音もなくユーリの背後へ回った。
言葉はないが、主人の友人であるユーリを守れという命令が書き込まれているのが分かった。
「おい、小僧! 休んでる暇はねえぞ!」
不器用な英語が聞こえる。
原色の戦装束を纏ったアフリカの兵士が、巨大な斧を担いで笑った。彼の身体には、新政府の兵器で焼かれた無惨な傷跡があるが、その瞳には野性的な生命力が溢れている。
「世界中が集まって、このデカい夢を叶えるために奮闘してるんだ。出遅れるなよ!」
「分かってる!」
ユーリは物陰に身を隠し、軽機関銃を構えた。
その時、前方の巨大な円形広場に、新政府の防衛大隊が姿を現した。最新鋭の重装EINが立ち並び、空中には無数のドローンが展開する。
2. 突撃、そして孤独
「行くぞッ!!」
多民族、多国籍の即席部隊が、一斉に突撃を開始した。
アフリカ兵が咆哮と共に斧を振り下ろし、重装装甲を文字通り叩き割る。
日本の斥候が影のように走り、カタナで敵の関節ケーブルを正確に切り裂いていく。
ユーリの身体は、自分でも驚くほど軽かった。
隣では、ステルス型S-EINが死神のように立ち回っている。
ケーブルが周囲の風景を吸い込み、完全に姿を消したかと思うと、次の瞬間には敵の背後に現れ、鋭い爪で動力源を貫いている。
ハルが「一番の自信作」と豪語していた通り、その動きには機械特有の硬さがなく、まるで意志を持つ獣のようなしなやかさがあった。
しかし、カナンという要塞は、彼らの勇戦をも飲み込む強大な檻。簡単に倒させてはもらえない。
「あ……っ!」
ユーリの視界の端で、先ほどまで笑っていたアフリカの兵士が、無情な集中砲火にさらされた。
「おい、しっかりしろ!」
もう手遅れだと分かっていても、目の前の蒸発しかけた肉片に話しかけてしまう。
駆け寄ろうとするユーリを、ステルス型S-EINがケーブルで制止した。
その直後、天井から巨大な防火壁が降りてきた。
「ガシャンッ!」という轟音と共に、ユーリは仲間たちから完全に切り離された。
近くにいたミナやジンはもちろん、日本の斥候も、そして頼もしい相棒だったステルス型S-EINさえも、厚い壁の向こう側だ。
ここにはユーリ一人、そして静寂だった。
登り切ったカナンの天端で始まったのは、世界中の多国籍部隊とS-EINたちが入り乱れる凄絶な市街戦でした。
ロシアの重戦車と意気投合するS-EIN指揮機、イギリス部隊の寸分違わぬ射撃、そして姿を消して立ち回るハルの最高傑作「ステルス型S-EIN」。
しかし、新政府の要塞カナンは、圧倒的な殺傷兵器で彼らを容赦なく磨り潰していきます。
直前まで言葉を交わしていた仲間の無惨な死、そして容赦なく降り降ろされる防火壁。
仲間たちや相棒のS-EINからも分断され、ユーリはたった一人、冷酷な檻の奥深くへと取り残されてしまいました。
孤立無援の静寂の中で、ユーリは何と向き合うことになるのか――。
いよいよ物語は要塞内部の核心へ迫っていきます。次回の展開もどうぞお楽しみに!
続きが早く読みたい!と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価★★★★★】で応援していただけると大きな力になります!




