『夢操の檻』カナン編 第4章:世界集結(後編2) ― 鋼のパッチワーク、S-EINの誇り
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3.伝説の男
カイトが視力のない瞳をそちらへ向け、敬意を込めて呟いた。
本名や経歴を知る者は誰もいない。
旧政府が抵抗し始める前から戦い続けているという伝説の指揮官。
彼がゆっくりと手を挙げると、数万人の喧騒が、潮が引くように一瞬で静まり返った。
ヴァルターはマイクを通さずとも、その場にいる全員の鼓膜に直接響くような、重厚で染み渡る声で語り始めた。
「同志諸君。――我々は今日、死を看取りにここへ来たのではない。明日を奪い返すために、ここに集ったのだ」
広域スクリーンに、これまでどの地図にも載っていなかった「カナン」の姿が映し出された。
「……!」
ユーリは息を呑んだ。
これまでの円形のニューシティーとは違う。それは、九つの鋭い角を持つ、巨大な、そして不吉な「星型」をしていた。
「見ての通り、カナンは要塞そのものだ。どの方向から攻めても、星の先端から挟み撃ちを受けるだろう。損害は甚大、撤退は不可能。だが――」
ヴァルターの瞳が、冷徹な青い光を放った。
「我々の兵力は十三万。そして全旧政府軍は五十万超。全方位から同時に攻める。敵の防壁を、数と夢で飽和させるのだ。新政府の総督がどこに潜んでいようと関係ない。根こそぎ、この世界から引きずり出す」
『ypaaaaaa!!』
『Für die Zukunft!!』
多言語の咆哮がニューソウルの大地を揺らした。
ユーリもまた、気づけば喉がちぎれんばかりに叫んでいた。
恐ろしいはずの「星型要塞」。だが、ここには世界中の英雄たちがいる。
そして、幾機ものS-EINたちが、主人の熱に応えるようにガシャリと駆動音を鳴らした。
「ユーリ、俺たちの船が決まったぞ」
戻ってきたジンの声に、ユーリは地図から目を離した。
自分たちの部隊は、決して強力なエリートではない。そのため、船の割り振りは最後の方だった。
しかし、ジンが指差したのは、六十四連装ミサイル砲を四基も搭載した、ハリネズミのような重武装の中型船だった。
「人数不足を補うには、これしかない。火力こそが俺たちの盾だ」
「……すごい。こんなに豪華な兵器見たことない」
夕闇がニューソウルを包む。
いよいよ出港だ。霧の張る夜。雲の隙間から時折覗く三日月が白いマントを淡く照らした。
巨大な輸送船、巡洋艦、そして自分たちのミサイル船。
数千隻の船団が、静かに、しかし確実な殺意を持って、黒い海へと滑り出した。
「……見てよ、ハル。船の明かりが、海の上にもう一つの街を作ってる」
「ああ、見えるよ。みんなの『音』が、一つの大きな歌になってるんだ。勝てるさ、ユーリ」
水平線の向こうに、うっすらとカナンの外壁が見え始める。
朝焼けが水平線を赤く染める頃、巨大な星型のシルエットが、霧の中からその牙を剥いた。
そこには、新政府の美しい白銀の船団と、無数のヘリが待ち構えているのが見えた。 もしかしたら、あの中には、かつての友、デオやシルヴィアがいるのかもしれない。ひょっとしてレオンも……。
ユーリは一瞬だけ目を閉じ、そして見開いた。
もう誰も恐怖していなかった。
全員が白いマントを風になびかせ、ユーリはナイフを朝焼けに照らす。 光を反射する海面に、世界中の船団が一斉に散っている。
カナンを囲む。全方位からの、総攻撃の始まりだ。
「全艦――斉射ッ!!」
実は先日この物語を脱稿しました!
『夢操ノ檻』の推敲も進めつつ2作目のプロット作成を進めています。何かおもろい設定やシチュエーションがあったら是非レビューや感想欄に書いてみてください




