『夢操の檻』カナン編 第3章:世界集結(前編) ― 鋼の鼓動と、七色の軍勢
モチベの問題で1週間ほど空いてしまいました。すみません<(_ _)>
カクヨムでも重複投稿しています
物語をお楽しみください
1.世界の戦士たち
島を飛び立ち、激しい嵐の中を十八時間。
輸送ヘリの機内は、プロペラが空気を切り裂く重低音に支配されていた。
外は荒れ狂う海と、叩きつけるような雨。だが、その閉鎖された空間の中で、ユーリはかつてない奇妙な安らぎと高揚を感じていた。
ふと隣を見ると、固定用のクランプに繋がれたS-EINの一機が、ガラガラと首を動かし、小さな覗き窓から外を眺めていた。
ハルのプログラムによるものか、あるいはエレナが組み込んだジャイロセンサーの悪戯か。その動作は、まるで初めての旅に胸を躍らせる子供のように「人間臭く」見えた。
「……お前も、外が気になるのか?」
ユーリが話しかけると、S-EINは無機質なカメラアイを一瞬だけこちらに向け、また窓の外へと戻した。
ただの機械。意志などないガラクタの継ぎ接ぎ。
けれど、このヘリに乗っているのは二十九名の人間だけではない。この二十機の鋼鉄の仲間たちも、皆と同じ「夢」を宿した立派な戦友なのだ。そう思うと、ユーリは自分の装備の白い装甲をそっと撫で、彼らの隣で静かに目を閉じた。
ちょうど一日飛んだ頃か、燃料補給と休憩のために孤島に着陸した。
ハッチが開くとさわやかな潮風が吹き渡る。
「ふー……」
皆ヘリから降りて大きく伸びをしている。
長い飛行の間ずっと同じ体勢でいたのだから体はガチガチに凝っていた。
ジンは地図を難しい顔で読み入っているし、ハルは大切なEINとなにかごにょごにょしている。ミナは殺気立っていてとても近づけたものではない。
ほかも思い思いに休息をとっているようだった。
このままじっと座っているのももったいないと思い海沿いの崖を散歩することにした。
波の音がシャラシャラと耳に響く。
確かに体はリラックスしているかもしれない。
しかし頭の片隅には高い確率で対峙するであろう部下たち、そしてジンについて考えていた。
彼らとは戦わずに作戦を終えられないのだろうか。
そもそも、なぜ新政府は夢を与えているのか?
攻略が終わって何になるのだろう。
風に吹かれながらしばらく考えていたがわからない。自分には分かる物ではないことを悟り、ジンの招集令に答えた。
特に会議もせずヘリに乗り込む。
ゆっくりと閉まり始めるハッチの隙間から飛び出してしまいたい衝動を抑えていた。震えが止まらない。
2.聖地ニューソウル
「……おい。ニューソウルが見えたぞ」
朦朧とする意識の中、パイロットの声が目を完全に覚まさせた。
彼はアキト救出作戦の時からの生き残りであり、普段は別の基地にいる古参の男だ。
その声には、これから始まる決戦への凄絶な覚悟が混じっていた。そして何故か故郷に戻ってきたときの懐かしみのようなものも感じられた。
ユーリは窓へ顔を寄せる。
隣のヘリからも、仲間たちが外を覗き込んでいる。 驚いたことに、向かいのヘリの窓からは数体のS-EINが人間と同じように外を凝視していた。
その滑稽で、けれど何故か愛おしい光景に、機内の緊張がわずかに緩む。
そして、眼下にその光景が広がった。
かつての聖地、ニューソウル。
かつて旧政府軍によって蹂躙され、廃墟となったはずのその地は今、皮肉なことに世界中から集まった旧政府軍よって賑わい、埋め尽くされていた。
「なんだ、これ……。こんなに、こんなにたくさん……」
ユーリの喉が震えた。
ヘリが着陸態勢に入り、ハッチがゆっくりと開く。
飛び込んできたのは、潮風の匂いと、数万人いや、数十万人の人間が発する圧倒的な熱気、そして多様な言語の喧騒だった。
島では、自分たちだけが戦っているような気がしていた。
だが、それは間違いだった。
世界は、まだ死んでいなかった。
ハッチを降りて大地を踏みしめる。
そしてまず視界に入ったのは巨大な鉄の群れだった。
「あれは北の地域のやつらだな……ロシアの部隊か?」 ジンの問いに答えるように、地響きを立てて重戦車の列が通り過ぎる。
一台や二台ではない。何十という鋼鉄の獣たちが、誇らしげに紋章を掲げている。
彼らは言葉を介さずとも、その圧倒的な質量だけで自分たちの戦い方を証明していた。
その隣には、視界の果てまで広がる人、人、人の波。
「中国の部隊ね……。五千、いや八千はいるかしら」 エレナが呆れたように、しかし声を上ずらせて呟く。
広場のほとんどを埋め尽くすその軍勢は、規律正しいというよりは、一つの巨大な生き物のような生命力に満ちていた。
パラパラとはためく数々の文様。その数は暴力であり、正義だった。
一方で、ヨーロッパの部隊は驚くほど心安げだった。 全員が寸分違わぬ制服に身を包み、針の穴を通すような統率の取れた動きでテントを設営している。
多人種が入り混じる自分たちの雑然とした様子とは対照的な、磨き上げられた伝統の美しさがそこにはあった。
そして、ユーリの目を釘付けにしたのは、日本の部隊だった。
数はそれほど多くなく、ヨーロッパの部隊ほど機械的でもない。
だが、彼らが放つ存在感は異質で、かつ神聖だった。
白と赤を基調とした装束に、本で読んだ「甲冑」を現代的に再構築したような装甲を纏っている。静かに刀を研ぎ、あるいは長大な火器を構える彼らの姿には、死を恐れぬ武人の静寂が宿っていた。
さらに目を向ければ、アフリカ系の部隊が煌びやかな原色の衣装を纏い、一人が何種類もの武器――投げナイフから巨大な斧、最新のライフルまで――を背負って闊歩している。
彼らの瞳は野性的で、新政府というシステムに決して屈しない自由な魂が燃えていた。
「……すごい。本当に、世界中が集まってるんだ」
「何?これだけで感動しているのか?まさか、カナン攻略の仲間たちがこれっぽっちだとは思っていないだろうな。」
そのハルの言葉にユーリは息をのむしかなかった。ここはあくまでこの周辺で活動していた者のみが集まっていること、周辺の海上には同じような招集が何十もかかっていること。
ハルはそれ以上を語ったがユーリはそれ以上をうまく呑み込めなかった。
自分の「白」の装備がこの巨大なうねりの中に溶け込んでいくのを感じる。
自分たちはもう、独りじゃない。 二十九名と二十三機は、十三万という巨大な波の一部になったのだ。
だが、真に圧倒されたのはその先だった。
崩れかけた旧政府軍の司令塔。
その周辺には、他とは明らかに違う「空気」を纏った者たちが集まっていた。
「……能力部隊」
誰かが息を呑むように呟いた。
そこにいるのは、自分で目覚めた者たち。ムソウの理を捻じ曲げる、神の如き力を持つ者たちだ。
雷光を放つ者、空間を歪める者、影に溶け込む者。 彼らの周囲だけ、現実の解像度が上がっているかのように眩い。その異質的な空気に震えを覚えた。
(……飛べる人は、いないんだな)
そういえば前に聞いていた。
どれほど強力な能力者であっても、天を自在に舞う者はいなかった。
その事実に、ユーリの胸の奥がわずかに騒ぐ。
だが、その予感の正体を突き止める前に周りの熱狂の裏ものぞいてしまった。
それは「ムソウ」たち。
夢を失った、或いは、夢を与えられた哀れな‘‘ニンゲン‘‘たちだ。
兵士たちはぞんざいな手つきでムソウを押しのけ自分たちのスペースを確保していた。それがただ夢を奪われただけのムソウならましだろう。
しかし空っぽの心に夢を与えられたムソウは悲惨だった。
持ってもいないパンを兵士に恵もうとして押しのけられる。
倒れたままひしゃげた格好で天を仰ぎ新政府に感謝している。
「あぁ、毎日温かい居場所ときれいな空。そして大きな夢を感謝します………」
これがシティを失った彼らの末路。
与えられる夢の供給源が破壊され、人間にも戻れずムソウにもなり切れない。
新政府軍は何と無責任なのだろう、自分もその一員だったことに心が痛んだ。
強制的に夢を与えられ、人間ではなくなってしまう人たちをこれ以上増やさないよう新政府は完全に滅ぼさないといけないのかもしれない。
その時カイトから連絡が入る。
「ユーリ、戻れ。全部隊の集結が終わった。……全体での作戦発表だ」
カイトの声は、いつになく真剣だった。
ユーリは最後に一度だけ、色とりどりの旗がはためくニューソウルを見渡した。
足の先から指先まで、微かな震えが止まらない。
しかし、その震えは恐怖ではなく、決意だった。
鏡の中にいたあの日の分隊長が、今、自分の中に完全に重なったのを感じる。
「……行こう。僕たちの戦場へ」
ユーリは皆とお揃いの白いマントを翻し、仲間たちが待つテントへと走り出した。
世界が一つになり、新政府という偽りの神を殺すための、巨大な「牙」が完成しようとしていた。
『世界の戦士たち』をご覧いただきありがとうございました!
長い飛行を経て、ユーリたちがついに降り立ったのは旧政府軍の聖地「ニューソウル跡地」。
そこで彼らを迎えたのは、島での孤立感を吹き飛ばすような、世界中から集結した数十万もの同志たちでした。
重戦車を駆るロシア、圧倒的な大軍勢の中国、洗練されたヨーロッパ、甲冑風装甲を纏う日本の武人たち、そして異能を操る「能力部隊」。
窓から外を覗き込む自作の『S-EIN』たちと共に、ユーリは「自分たちはもう独りではない」と強く実感します。
しかしその熱気の裏には、新政府に夢を与えられ壊れてしまった「ムソウ」たちの悲惨な姿がありました。
自分もかつて新政府の一員だった痛みに向き合い、ユーリは恐怖を「決意」へと変えて白いマントを翻します。
世界が一つになり、偽りの神を討つための「牙」が完成しました。
次回からはいよいよ、新政府の本拠地「カナン」を巡る最終作戦会議、そして激闘が始まります!
「ムソウの描写で世界観の深さが増した!」「集結シーンのスケール感がすごい!」と感じてくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価★★★★★】で応援していただけると、執筆の大きな力になります!
次回の更新もどうぞお楽しみに!




