表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/56

『夢操の檻』カナン編 第2章:準備(後編) ― 嵐の前の静寂と休息

カクヨムでも重複投稿しています

物語を是非お楽しみください

1.嵐の前の静けさ

攻略まで残すところ三週間。


島を覆う熱気は、熱狂からより深く、鋭いものへと煮詰まっていた。


ユーリは自作の装備の調整を終えると、少しの休息を兼ねて、島で共に過ごす仲間たちの様子を見て回ることにした。


まず向かったのは、指揮官用の大型テントだ。そこではジンが、島外の別部隊の指揮官たちと頻繁に通信を繰り返していた。


「……ああ、こちらの準備はできている。数は少ないが、兵を揃えた」


ジンの横顔には、深い疲労が刻まれていた。


感覚を鈍らせないためかたまに訓練場に立つこともあるが、かつての覇気はどこか影を潜め、年老いた狼のような哀愁が漂っている。


この部隊を束ねるという使命感が、彼の肩に重くのしかかっているのが見て取れた。


対照的に、訓練場の奥で銃声を響かせているミナは、もはや「人間」であることを捨てたかのようだった。


「……」


無言で的に向かい、狂気じみた連射を繰り返す。


その顔は復讐心で険しく歪み、周囲を寄せ付けない圧倒的な殺気を放っている。


レオンの裏切りを知ったあの日から、彼女の中で何かが決定的に失われ、代わりにより鋭利な何かが産声を上げたのだ。


(……今のミナには話しかけられないな)


ユーリは遠くから彼女の背中を見つめ、そっとその場を離れた。


気分を変えようと砂浜の方へ向かうと、そこには別部隊の男たちが集まっていた。


「おい、ユーリ! お前も混ざれよ!」


誘われた先では、男たちが砂埃を上げながらラグビーのような球技に興じていた。


「い、いや、僕はいいよ……」


ユーリは思わず一歩後ずさった。


なぜかって?


目の前に並んでいるのは、全員が鋼鉄のような厚い胸板と、丸太のような腕を持つムキムキの「大男」たちだったからだ。


「なんだよ、遠慮すんなって! 身体を動かすのが一番の訓練だぜ!」


笑いながら肩を叩かれるが、その衝撃だけでユーリの身体が浮きそうになる。彼らの腕は自分の胴ほどもありそうだ。


あの中の大半が自分と同じ「軽装兵」だとは、とても信じられない。


彼らが戦場を駆ければ、それだけで地響きが起きそうだ。


ユーリは愛想笑いを浮かべながら、這々の体でその場を逃げ出した。


次に訪れたのは、ハルとエレナがこもっている秘密基地だ。


つぎはぎの巨大なテントと、その横にある洞窟からは、昼夜を問わず火花が散り、激しい金属音が響いている。


「そこ、もう少し出力上げてくれ! 関節の駆動域が足りない!」


「分かってるわよ、うるさいわね!」


テントから漏れ聞こえる二人の言い合い。


好奇心を刺激されたユーリは、何度も中を覗こうとしたが、そのたびにエレナに「果報は寝て待て!」と追い返されてしまった。


最後に、ユーリは衛生兵であるマリアのテントへと向かう。


心を落ち着かせて散策するのも悪くない。小鳥のさえずりに小川のせせらぎ。幼い頃に読んだ絵本の中に入ったようだ。


「マリア、いるかい?」


「あら、ユーリ。入っていいわよ」


中に入り、挨拶をした瞬間にマリアが吹き出した。


「ふふ、何その頭。髪が伸びすぎて、ゲリラ戦の達人みたいになってるわよ」 「えっ、そうかな……」


手渡された鏡を覗き込み、ユーリは絶句した。


そこには、かつての「分隊長ユーリ」の面影など微塵もない、薄汚れた少年が映っていた。


金色の髪は油と砂埃でぐしゃぐしゃに伸び、布の切れ端で作ったヘアバンドで適当に縛っているだけだ。ここ数週間、身体を洗う暇も惜しんで訓練に没頭していたツケが、一気に押し寄せてきた。


「……ひどいな。あの頃の自分とは、別の人みたいだ」


「切ってあげるわ。そこに座って」


マリアはユーリを連れて近くの川へ向かった。ひんやりとした水で髪を洗われる。指先が地肌を優しく刺激し、溜まっていた疲れが溶け出していく。


そういえば、最後にゆっくり身体を洗ったのはいつだったか。無意識に川に浸かっていたあの月を眺めた夜だったか。


テントに戻ると、マリアは手慣れた手つきでハサミを構えた。


チョキ、チョキ、チョキ……。


耳元で響くハサミの音が、心地よいリズムとなってユーリの意識を奪っていく。


「ーリ、ユーリ!……終わったわよ、起きて」 いつの間にか眠っていたらしい。


目を開けると、マリアは片付けのためにどこかへ行ってしまっていた。


ユーリは恐る恐る鏡を覗き込んだ。


「……おぉ」


鏡の中にいたのは、ぼさぼさの少年ではなかった。


綺麗に切り揃えられた金髪。整えられた襟足。


そこに映っていたのは、あの日、ニューシティーの朝に鏡を見ていた「分隊長」としての自分だった。


失われていた誇りが、鏡の中から自分を見つめ返している。


「……マリア!」 感動のあまり、戻ってきたマリアに思わず抱きつこうとしたが、彼女は優しげな仕草でユーリの額を押し返した。


「お礼なら言葉だけでいいわよ。……似合ってるわ、ユーリ分隊長」


「……ありがとう、マリア。本当に」


その夜、ユーリはカイトのテントを訪れた。


「よお、ユーリ!なんか雰囲気が変わった気がするな。どうしたんだ?」


「えっ、分かるの?髪を切ったんだよ。まさか少し見えるようになったとか⁉」


「ははっ、まさか。匂いと、空気の揺れ方だよ。見えないが…いい感じじゃないか。自信に満ちた音がする」


カイトは両目を失ってから、周囲の状況を鋭敏に察知する能力を得ていた。


彼は自分の傷跡を「武勇伝さ」と笑い飛ばし、少しも悲壮感を見せない。


「俺はこの顔、気に入ってるんだぜ。強そうに見えるだろ?」 彼の明るさに、ユーリは救われる思いだった。


自分だったら悲しみに押しつぶされてしまうだろうに。


それからの時間は、「あの日」を目前に控えるまで飛ぶように過ぎていった。


毎日同じ訓練をして、紅茶を飲み鏡を眺め寝る。


そんなことを繰り返しているうちに攻略七日前になってしまった。


この島からニューソウル跡地までは、ヘリで丸二日は飛ばなければならない。燃料補充と操縦手の休息を考えると三日はかかるだろう。


やはり大きな争いごとは怖い。


しかし出撃が近づくにつれユーリたちは興奮が止まらなかった。


三日後はハルとエレナの集大成のお披露目だ!


2.スチールの仲間たち

そこからの毎日は恐ろしく長く感じた。


全員が挙動不審だ。


神経質に太陽の位置を確認し、意味のない動作を繰り返す。


自分もわざわざ服を着替えるのに長い時間をかけるように意識している。


「あぁ、早く明日にならないかな」そんな独り言が島全体から聞こえていた。


永遠とも思われる長い時間が過ぎ、いよいよ出発当日。


ジン、カイト、そして他部隊の大男たちは、この時を待ちわびていた。


ジンは落ち着いた面持ちでタバコをふかしているがやはりその視線は期待に満ちているようだ。(エレナ以外の女性陣はどこか退屈そうに爪を磨いていたけれど。リナは……いない。)


ハルが芝居がかった足取りでテントから現れる。


「紳士淑女の諸君! 我らが魂の結晶、Salvage-EIN――略して『S-EIN』のお披露目だ!」


洞窟の奥で無数の赤い光が一斉に灯り、その鉄の怪物は始動した。


ガシャン、ガシャンと、重厚な歩行音が近づいてくる。


一台、また一台と、暗闇から姿を現した。


ハルがわざとらしい口調で解説を始めたがそんなもの誰の耳にも入らない。


最初に踏み出したのは、ユーリがかつて破壊した機体の改良型のようだ。


装甲の継ぎ目は完璧に塞がれ、露出していたコードも見事に隠されている。



「すごい……」 ユーリは息を呑んだ。

次に出てきたのは、太陽光を反射する白装甲の高速型、本家EINを彷彿とさせる。


そして、重装兵の厚い装甲を無理やり継ぎ足した、黒い重量型。


ほかより軽い足取りで出てきたのは軽装兵の装甲を流用した細身の機体。


そしてハルのお気に入りだという、ケーブル剥き出しのジャンク型。(防御能力こそ絶望的だが、新政府の技術を盗んだステルス機能が使えるらしい。)


細身で人間に近いシルエットの斥候タイプ。


中でも目を引いたのは、最後に現れた「S-EIN指揮機」だ。


他よりも一回り大きく、その胸部には誇らしげに旧政府軍の紋章が刻まれている。そして驚くべきことに、左腕は戦車の砲塔がそのまま移植された威圧感の塊だった。


「全部で二十機か。短期間でよくこれだけの数を……」


ジンが感心したように声を漏らす。


並んだ二十機のS-EINは、整然と直立していた。


夕刻。大きな輸送ヘリ二機に、S-EINたちが積み込まれていく。


ユーリはヘリに乗り込む前、一度だけ島を振り返った。


この島を、もう見ることはないかもしれない。


自分もカイトのように、何かを失うかもしれない。あるいは、このまま帰れないかもしれない。


燃えるような夕日が、穏やかな海を朱色に染め、島をやさしく包み込んでいた。 その景色を、ユーリは心に焼き付けた。


別れの時を遮るようにハッチが閉まり、激しいプロペラ音が無常に響く。


闇へと浮上するヘリの中で、ユーリは自作の白い装甲をきつく締め直した。

ご覧いただきありがとうございました!


決戦を直前に控え、島を包む独特の緊張感と焦燥感。

髪を切り分隊長としての自分を取り戻したユーリ、そして「あの日」を待つ兵士たちのソワソワとした日常を描きました。


そしてついに訪れる出発の日。

洞窟の暗闇から一斉に灯る赤い光と共に現れた、ハルとエレナの集大成『S-EINエス・アイン』20機!

各種パーツを繋ぎ合わせた無骨な巨砲指揮機や重量型、ステルス機たちが、反撃の牙として立ち並びます。


燃える夕陽を背に、闇の空へと浮上する輸送ヘリ。

自作の白い装甲を締め直し、ユーリたちはついに決戦の地「ニューソウル跡地」へと旅立ちます。


ここから物語はいよいよ最終決戦「カナン攻略編」へ突入します!

「S-EINのお披露目シーンで鳥肌立った!」「出撃前の緊張感がすごい…」と感じてくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【星評価★★★★★】で応援していただけると大変励みになります!次回からの激闘をどうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ