表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/56

『夢操の檻』 ユーリ編 第9章:鏡の破片と、満月の重力

カクヨムでも重複投稿しています

物語をお楽しみください

1. 赦しの毒、あるいは人間への帰還

ヘリが島に降り立ったとき、ユーリはまだ、夕焼けの残光の中にいた。


三人の命。


自分が伸ばしかけた手を引っ込めたせいで、あの炎の中に消えていった命。その重みが、ユーリの両肩を押し潰そうとしていた。


「……すみません。僕の判断が遅れたせいで、三人も……」


キャンプに戻った直後、ユーリは生き残った三十五名の志願兵たちの前で、地面に額を擦りつけるようにして謝罪した。


新政府であれば、無能な指揮官として即座に更迭され、あるいは「不要な感情による効率低下」として再教育の対象になる。


だが、返ってきたのは、乾いた笑いと温かな溜息だった。


「よせよ。あんたが一番先に走って道を作ってくれたから、俺たちは三十五人も生き残れたんだ」


「死んだあいつらだって、あんたを責めちゃいない。……それが戦場だ。気にするな」


彼らの言葉は、鋭い針のようにユーリの胸を刺した。


新政府にはない、残酷なまでの優しさ。


失敗を許されることが、これほどまでに苦しいとは知らなかった。自分たちが「テロ組織」と呼んで排除しようとしていた人々の方が、ずっと人間らしく、ずっと「命」の痛みを理解している。


その事実に、ユーリの自尊心は粉々に砕け散った。


体の汚れを気にする余裕もない。砂埃にまみれ血の染みた制服のまま気絶するように眠りについた。


夜。


ユーリは気づけば、川の中に立っていた。


冷たい水が膝を、腰を、そして胸を濡らしている。


「……あれ?」


無意識に汚れを落とそうと布を擦っていたが、ふと我に返ると、自分は制服を着たまま川に浸かっていた。


動揺という言葉では足りない。


自分の心がどこにあるのか、ユーリ自身にも分からなくなっていた。


「……はは、何やってるんだ、僕は」 暗い川面に映る自分の顔が、ひどく滑稽に見えて、一人で声を上げて笑った。


混乱はもう過ぎる。


頭を占領しているのは、明日、自分たちが攻め込むことになる「故郷」のことだった。


そこには、分隊長になるために競い合い、放課後の食堂でくだらない夢を語り合った親友がいる。


自分に銃の構え方を、そして「新政府の正義」を叩き込んでくれた、父親のような教官がいる。


よく通っていた植物園で、合成香料ではない本物の花の匂いを教えてくれた愛想の良い老夫婦がいる。


そして――あの戦場で別れたデオとシルヴィア。 彼らは戻っているのだろうか。デオは僕の代わりに分隊長になったのだろうか。


「……戻っていてほしくない。どうか、僕と戦う場所にいないでくれ……」


願えば願うほど、悪い想像だけが濁流となって押し寄せる。


自分の情のせいで、また誰かを見捨てるのではないか。自分の迷いのせいで、この島の優しい人たちが死ぬのではないか。


ふと顔を上げると、月が真上にいた。


さっきまで水平線近くにあったはずなのに、いつの間にこれほど高く昇ったのか。


「……空」


あの洞窟に行った時のような、奇妙な感覚がやってきた。


体が、羽根のように軽い。


浮力とは違う何かが、ユーリの体を空へと引き上げようとしている。


この世界が変わってから、空を見るたびに、自分の中の「重力」が書き換えられていくような予感があった。


ユーリは震える体で川から上がり、布切れで体を拭いた。


エレナがこしらえてくれた簡易的なストーブに火を灯し、その微かな熱に縋るようにして再び眠りについた。

『赦しの毒、あるいは人間への帰還』をご覧いただきありがとうございました!


前回の失策と仲間を見捨てた罪悪感に苛まれるユーリ。

しかし、帰還した彼を待っていたのは叱責ではなく、残された35名の志願兵たちからの温かい感謝と赦しの言葉でした。


効率と成果だけで評価されてきた新政府では決してあり得なかった「人間らしい優しさ」。失敗を許されることがかえってユーリの心を鋭く抉り、彼を深い孤独と罪悪感へと突き落とします。


暗い夜の川で無意識に汚れを落とそうとするユーリの脳裏をよぎる、明日攻め込むことになる「故郷」の思い出。親友、教官、そしてあの戦場で別れたデオやシルヴィア。


「僕と戦う場所にいないでくれ」と祈りながら見上げる月。

洞窟での体験と同じく、彼を地球の重力から引き上げようとする不気味な浮遊感がユーリを包み込みます。


人間らしさを取り戻したからこそ味わう、耐え難い痛みと苦痛。

傷だらけのユーリは、ついに自らの故郷へと足を踏み入れることになります。


「続きが気になる…」と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【星評価★★★★★】で応援していただけると励みになります!次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ