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夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


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『夢操の檻』 ユーリ編 第8章:深淵の空と、凍りついた指先

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物語をお楽しみください

1. 凪の後の孤独

島には奇妙な「静寂」が訪れていた。


千人近い兵士たちで溢れかえっていた広場は、今はただ海風が吹き抜けるだけの荒野に戻っている。


新政府軍を退けた旧政府軍の主力部隊は、それぞれの目的を果たすべく、足早に自国の拠点へと帰還していった。


残されたのは、わずかなテントと、遠ざかるヘリの羽音だけ。


ユーリはその静まり返ったキャンプを、所在なげに眺めていた。自分はここにいていいのだろうか。


かつて「敵」であった自分を、この静寂の中に置いておいていいのだろうか。


「……みんな、帰ってしまったんですね」


「ああ。戦いは終わっちゃいねえが、それぞれの日常ってやつがあるからな」


隣でパイプを燻らせるジンが答える。


しかし、キャンプにはまだ、自分たちの他にも残っている影があった。


「……彼らは?」


「別部隊の連中だ。全部で三部隊、三十八名。マリアの姐さんに傷を治してもらったことに恩義を感じて、『アキトを捜すまでは帰れねえ』って残ってくれたお節介焼きどもさ」


ユーリは、その「三十八名」という数字の重みに、胸が詰まる思いがした。


新政府軍において、救助や捜索はすべて「効率」と「コスト」で算出される。一人一人の命は重視されず、数十万、数百万と四捨五入される。


恩義のために命を懸けて居残るなど、計算式には存在しない。


だが、ここにはそのエラー、すなわち「人間らしい善意」が当たり前のように存在していた。


「……すみません。僕がここへ来たせいで、捜索が遅れてしまった」


ユーリは頭を下げた。


自分の部隊がアキトを回収しようと襲撃したせいで、彼らの足跡を追う貴重な時間が失われた事実は消えない。


しかし、志願兵の一人が笑ってユーリの肩を叩いた。


「気にするなよ、元・分隊長さん。お前がここへ来て、今の自分に疑問を持った。それだけで十分、捜索を遅らせた価値はあるってもんだ」


「……ありがとう、ございます」


新政府では決して聞くことのできなかった言葉。


それはユーリの心を温めるどころか、逆に鋭いナイフとなって、彼の「不甲斐なさ」を抉った。


2. 消えた小舟と、三つの目的地

捜索は、アキトとレオンが最後に目撃された「東の海岸」から再開された。


砂浜には、複数の人間が争い、何か重いものを引きずったような深い溝が刻まれていた。


「……ここがアキトを抑え込み、小舟に押し込んだ跡だ」


ジンが地面を這うようにして痕跡を読み解く。


アキトとレオンが消えたのは同じ日だ。二人が同じ船に乗ったのか、それとも別々に連れ去られたのか。


ハルが、島に残されたジャンクパーツを組み上げて作った、原始的な探査ドローンを起動させた。モニターに映し出されるのは、海流のデータと、近隣の海域図だ。


「海流から見て、漂流したとしてもたどり着く可能性がある島は七つ。……そして、レオンがアキトを連行したとしたら、向かう先は三つに絞られる」


ハルの指が、モニター上の赤い点を指し示す。


一つは、最近建設されたばかりの小さなニューシティー。警備も手薄、攻略は余裕だろう。 もう一つは――。


ユーリは、その座標を見た瞬間、心臓が跳ね上がるのを感じた。


そこは、自分が配属していた場所。



三ヶ月前まで、自分が守るべき「正義の城壁」だと信じていた、自分の故郷だった。



「……そこも、叩くんですか」

ユーリの声が微かに震える。


仲間に「そこは避けてほしい」と言うこともできた。


だが、彼らはアキトを捜すために、自分たちの命を削って残ってくれたのだ。私情を挟んで彼らを危険にさらすことは、今のユーリには許されなかった。


そして、ハルが最後に指した場所。


「最後の一つ。……地図には載っていないが、この海域に存在するはずの、最古にして最強の要塞。ニューシティーのプロトタイプでありながら、今なお最新鋭のステルス機能を備えた城。……名は、『カナン』」


「……カナン?」


約束の地……。


他の都市には無い違和感。一同の中に小さな疑問が浮かんだが、それを追求する理由はなかった。ドローンが捉えたその歪なシルエット。


神々しくも不気味に見える。


ハルたちが作戦を練る間、ユーリはその輪から外れ、一人で海を見つめていた。


(僕の町。……あそこを、僕が壊すことになるのか?)


思い出が、押し寄せる。


死に物狂いで訓練に励んだキャンプ。

たくさんの子供が駆けまわる学校。

休日に通っていたティーサロン。

退勤に友人と歩いた公園の並木道。

厳しくも優しかった教官の横顔。


それらすべてが、今や「標的」に変わろうとしていた。

『凪の後の孤独』をご覧いただきありがとうございました!


静まり返った島で、恩義と情のために残ってくれた「38名の志願兵」。

効率だけで命を測る新政府の価値観のなかで生きてきたユーリは、彼らの温もりに触れ、己の不甲斐なさと罪悪感に胸を痛めます。


そしてハルの探査ドローンが導き出した、レオンとアキトの行き先。

提示された3つの目的地のひとつは、ユーリが死に物狂いで訓練に励み、仲間や教官と歩んだ「自分の故郷ニューシティー」でした。


子どもたちが駆け回っていた学校、休日に通ったティーサロン、友人との並木道。

自分が守るべき正義だと信じていた日常を、アキトを救うために自らの手で「標的」にしなければならないという残酷な運命。


そして浮上する、最古にして最強のプロトタイプ要塞『カナン』――「約束の地」の名を持つ不気味な城。


ユーリたちの選択と、レオンの真実を追う旅路はここからさらに加速していきます!


「ユーリの思い出の描写が増えて葛藤がより切なくなった……」「『カナン=約束の地』の不気味な存在感が気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【星評価★★★★★】で応援していただけると大きな力になります!

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