『夢操の檻』 敵視点編 第5章:虚飾の正義、泥濘の真実
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1. 切り捨てられた「正義」
不意に、周囲が白い帳に包まれた。 足元も見えないほどの濃密な白煙。誰かが放ったスモーク弾だ。
「……っ、なんだ!? 」
誰かが叫ぶが、その声は頭上から響く巨大なローター音にかき消された。厚い雲を突き抜け、眩いサーチライトが霧を切り裂く。その機体の輪郭、新政府の救助機だ。
「坊っちゃん! ケージだ! 急げ!」
デオの野太い声が響く。彼は気絶したシルヴィアを巨体で担ぎ上げ、天から降りてきた吊り下げ式の収容ケージに飛び乗った。
「おい!坊ちゃん!ユーリ、何してる! 早く来い!」
だが、ユーリの足は動かなかった。 視線の先、霧の切れ間に見えたのは、自分たちが放った弾丸に倒れた旧政府軍の兵士たちの死体だ。
そして、先ほどの村で「幸せ」という名の廃人に変えてしまったあの母娘の、生気のない微笑みが脳裏から離れない。
「僕の……僕たちのせいで……」
「ユーリ! 捨て置くぞ!」
無情にも、収容ロープが巻き上げられ始めた。デオの叫び声が、次第に高度を上げる機体の音に飲み込まれていく。
ユーリは、ただ地面に膝をついていた。 自分たちが掲げていた「秩序」や「平和」の代償が、この惨状なのか。
救うべき少年のために、これほどまでの命を蹂躙したことが、本当に正しかったのか。レオン上官の言葉は本当に正義だったのか。交戦してくる敵兵だけではなく、抵抗しない人たちまで。
機体は霧の上に消え、音も遠ざかっていく。 完全な静寂が島を包み込んだ。 ユーリは武器を放り出し、うなだれた。
スモークが晴れれば、取り残された自分は、怒りに燃える彼らに八つ裂きにされるだろう。
(……それでいい。それが、僕の報いだ)
霧がゆっくりと、薄れていく。
うなだれたユーリの胸元で、かつて誇りだった白と銀のシンボルマークが、硝煙と泥に汚れて薄汚く曇っていた。
ユーリは硬く目を閉じ、死を待った。五秒、十秒……。 しかし、銃声は聞こえない。肉を裂く痛みも来ない。
不思議に思って、恐るべき「敵」の姿を見るべく、ユーリはゆっくりと顔を上げた。 そこには、銃を構えたまま、困惑したような、あるいは酷く疲れたような表情で自分を見下ろす旧政府軍の人々がいた。
「……なんだ、まだ子供じゃないか」
一人の兵士が、吐き捨てるように言った。 その群衆の中から、一人の女性が歩み寄ってきた。疲れ切った瞳を縁取る隈。白衣のような、煤けた上着を羽織ったその女性は、ユーリの前に膝をついた。
「怪我を。……少し痛むわよ」
彼女が手にした注射器が、ユーリの腕に触れた。
「あ……」
抵抗する気力もなかった。冷たい薬液が体内に流れ込むと同時に、視界が急速に溶け始め、ユーリの意識は深い闇へと沈んでいった。
『切り捨てられた「正義」』をご覧いただきありがとうございました!
テスト期間のため少しの間更新をお休みしていましたが、無事に終わりましたので、本日から投稿を再開します!お待たせいたしました!
復活一発目の今回、救助機に乗ることを拒み、激戦の島に一人取り残されたユーリ。
自分たちが掲げていた「秩序」や「救済」がもたらした凄惨な現実を前に、彼の心は完全にポッキリと折れてしまいました。
怒れるテロリストに八つ裂きにされる覚悟をしたユーリでしたが、霧の向こうから現れた旧政府軍の人々が放ったのは「なんだ、まだ子供じゃないか」という、酷く疲れた大人の言葉でした。
新政府のプロパガンダによって「欲望に塗れた獣」だと教え込まれていた彼らの、あまりにも人間らしい姿にユーリはさらに激しく揺さぶられます。
そしてラスト、新政府が心を殺すために使った「注射(洗脳)」とは真逆の意味を持つ、命を繋ぐための「注射」がユーリに打たれ、意識が闇に沈んでいきます……。
意識を失ったユーリが次に目を覚ます場所とは? そしてアキトたちとどう交錯していくのか。ここからの展開もさらにアクセルを踏み込んでいくのでお楽しみに!
「投稿再開待ってた!」「ユーリのここからの変化がめちゃくちゃ気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【星評価★★★★★】で応援していただけると、これからの執筆の大きな励みになります!次回もお楽しみに!




