『夢操の檻』 新政府軍 第4章:崩れる天秤、正義の暴走
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1. 邂逅――鏡合わせの「家族」
ヘリを降り、隠密に偵察を行っていたをユーリが感じていたのは、潮風と共に漂う重苦しい沈黙だった。 島には数機のヘリと、複数の急設テントが並んでいる。そこには、新政府が「テロリスト」と断じた者たちがいた。
だが、草むらから覗くユーリの目に映ったのは、想像していた「狂信的な武装集団」の姿ではなかった。
そこには、目の回りに深い隈を作り、疲れ果てた表情で包帯を巻く女性と、両目を白い布で覆い、仲間に肩を貸されながら歩く男の姿があった。
「……あいつらは、どこへ行ったんだ」
男の声は低く、目は潰れている。
「アキトも、レオンもだ。あの攻略戦の後、煙のように消えちまった。……リーダーを失って、俺たちは誰についていけばいい。俺たちはこれからどこへ向かえばいい」
物陰からその様子を窺っていたユーリは、息を呑んだ。
彼らは戦果を誇るテロリストなどではない。ただ、行方不明になった仲間と、信頼していたリーダーに裏切られた小質感、傷だらけの人間たちだ。
ユーリたちから見ればレオンは偉大な上官で、腕利きの潜入スパイ。
しかし、旧政府の人々から見れば、ただの裏切り者なのだろう。
「……シルヴィア、デオ。待ってくれ」
ユーリは無線に囁く。
「彼らは戦う意欲を失っている。話し合えば、アキトの行方が解けるかもしれない。強行突破の必要はないはずだ」
ユーリの心には、先ほどの村で見せた「救済」への疑念がまだ棘のように刺さっていた。これ以上の無益な流血は、新政府が掲げる『至福の秩序』には相応しくない。
「甘いことを言わないでください、分隊長」 無線の向こうで、シルヴィアの冷徹な声が響く。
「レオン司令の指示は『器の回収』および『敵拠点の無力化』です。彼らが情報を隠匿している可能性は九十八パーセント。合理的な判断を下すべきです」
「坊っちゃん、話し合いで解決するなら苦労はねえよ」 デオの野太い声が続く。
「見ろよ、あの盲目の野郎の腰にある得物を。あれは飾りじゃねえ。人数も多くないし、手負いだぞ?……やるなら今だ」
「待て! 指示を待てと言っている!」
ユーリの制止は、届かなかった。
2. 弾じける火花、瓦解する秩序
沈黙を破ったのは、デオの放った威嚇射撃だった。
「おい、野良犬ども! 動くんじゃねえぞ。大人しくお前らのリーダーの行き先を吐け!」
広場にいた旧政府軍たちが凍りつく。 「新政府……!? なぜ、ここが……」 疲れ切った様子の女が叫ぶ。
瞬間、周囲のテントから武装した兵士たちが飛び出してきた。
「敵襲だ! 迎撃しろ!」
交渉の余地は、その瞬間に消え失せた。
「シルヴィア、やめさせろ!」
ユーリの叫びを無視し、シルヴィアは無機質な手つきでデータパッドをスワイプした。
「EIN、目標、敵武装勢力の完全無力化」
十機の純白の悪魔――EINが、一斉に駆動音を上げた。 「ピピッ」 黒いセンサーが黄金に染まり、その腕から高圧のスタン弾と殺傷用弾丸が雨あられと降り注ぐ。
「……っ、やるしかないのか!」
ユーリもまた、EINの陰に身を隠しながら、護身用のエネルギーピストルを構えざるを得なかった。
自分の理想が、仲間たちの好戦的な「正義」によって塗り潰されていく。
だが、幸か不幸か計算外のことが起きた。 島に残っていたのは、目の前の一つの隊だけではなかったのだ。
「……まだいたのか、他の連中が!」
デオが舌打ちした。 離れた洞窟の陰や、崖の影から、攻略戦に参戦していた他部隊の生き残りたちが、次々と姿を現したのだ。その数は、五十、百……。
いくら新政府の最新兵器『EIN』といえども、数の差は歴然だった。 旧政府軍の兵士たちは、退路を断たれた窮鼠の如き強さを見せた。
彼らにとって、この島は安息の地であり、散っていった仲間の墓地でもあった。そこを脅かす「白い悪魔」たちは、何としても排除すべき仇敵。
「囲まれてるぞ! シルヴィア、EINを散開させろ!」
ユーリが叫ぶが、シルヴィアの返答はない。 ふと横を見ると、シルヴィアが、瓦礫の陰で倒れていた。
こめかみから鮮血が流れ、データパッドは粉々に砕けている。狙撃されたのか、爆風に煽られたのか。
「シルヴィア! シルヴィアッ!!」 ユーリが駆け寄るが、彼女はピクリとも動かない。
透き通るような白い肌が、砂埃と血で汚れていく。その瞳が、合理性という名の光を失っているのか、それともただ気絶しているだけなのか、今のユーリには判断がつかなかった。




