『夢操の檻』 新政府軍 第3章:亡霊の航跡と、秘匿された航路 第2話
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3. 亡霊を追う翼
「シルヴィア。この地図の座標を解析しろ。……敵の本隊は、この島を中継して母国へ帰還するつもりだ」
ユーリの命令に、シルヴィアが眉を潜める。 「分隊長。その地図は偽情報の可能性があります。敵がわざと残した罠だとしたら……」
「いや、違う。この機内に残された遺品を見ろ。……これは、罠を仕掛ける余裕すらなかった者たちが、死に物狂いで残したものだ。それに、見てみろ、この地図の裏を」
ユーリが地図を裏返すと、そこには小さな子供の字で、歪な「鳥」の絵が描かれていた。 それを見た瞬間、ユーリの胸を、説明のつかない感情が突き上げた。 テロリストの拠点に、子供の絵?
新政府が教える「悪の巣窟」には存在してはならないはずの、無垢な温もりがそこにあった。
「……デオ、シルヴィア。我々もヘリを調達する。1週間以内にここに残された機体の中で、飛べるものを探せるか?」
「おいおい、坊っちゃん。自分たちの最新鋭の水陸両用ジープを置いていくのか?正直言って空の上じゃ、俺も役に立たねえぞ」
デオが肩をすくめるが、その瞳には戦士としての鋭い光が宿っている。
「ジープじゃ時間がかかりすぎる。それに、新政府の機体で近づけば、哨戒網に引っかかる前に敵に察知される。……毒を食らわば皿までだ。彼らが調達したこのオンボロで、彼らの航路を辿る」
シルヴィアは一瞬の沈黙の後、短く「了解」と答えた。 彼女は合理主義者だ。不確かな地図であっても、それが唯一の手がかりであるならば、追うべきだと判断したのだろう。
一時間後。 ニューマザーズの廃墟から、一機の旧式輸送ヘリが、黒煙を吐き出しながらふらふらと浮上した。 新政府の白亜の軍服を着た若きエリートたちが、血と油にまみれた「敵の翼」に身を任せ、暗い海へと飛び出していく。
「待っていろ、アキト」
操縦桿を握るユーリは、窓の外に広がる荒れ狂う海を見つめた。 彼の中の正義は、まだ折れてはいない。 拉致された少年を救い出し、この汚れきった現実から引き剥がして、あの美しいニュー・プロビデンスの空の下へ連れて帰る。 それが、自分の使命だ。
だが、ヘリの座席の下に落ちていた、血に汚れた一本のベルトを見つめた時、ユーリの心に微かな予感が走った。 もし……もし、レオン上官の言ったことがすべてではなかったら? もし、あの少年が、自らの意志でその重い鋼を纏っているのだとしたら。
ユーリの乗ったヘリは、地図に記された「死者の航路」をなぞるように、北北西へとその機首を向けた。 水平線の向こう、暗雲が立ち込める場所に、彼が救うべき、あるいは「戦うべき」旧政府軍の影が待っている。




