『夢操の檻』 新政府軍 第3章:亡霊の航跡と、秘匿された航路
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1. 蹂躙の爪痕
「……ひどいな。これが、人間がやったことか?」
ニューマザーズに到着し、ジープを降りたユーリは、呆然と周囲を見渡した外から見れば平和ないつもの都市だ。
しかし、中に入るとそこは混沌。
巨大な力によって内側から押し潰されたようにひしゃげている。ヘリの残骸が散らばり、焦げた何かが散らばる。その黒い塊は人に見えなくもない。
アスファルトの地面には、戦車の走行痕など比較にならないほど深い「轍」が刻まれ、建物の壁面は激しい銃撃によって蜂の巣にされていた。
ユーリをさらに戦慄させたのは、守備についていたはずのEINたちの残骸だった。 新政府の誇る最新鋭の警備ロボットが、まるで子供の玩具のように真っ二つに引き裂かれ、あるいは首をへし折られて転がっている。
「……信じられん。EINの装甲を破壊したのか?」
後方に立つデオが、転がっているEINの頭部を蹴り飛ばしながら吐き捨てた。
「坊っちゃん、レオン司令が言ってた通りだ。旧政府の連中……いや、あの『改造されたやつら』ってのは、まともな生き物じゃねえな。この破壊の規模は、個人のそれじゃない」
ユーリは黙って、深く抉れた壁の弾痕に触れた。
EINの残骸よりも味方の兵よりも、武装も貧相な旧政府軍の兵の死体が多い。ユーリはそのことに気が付いていた。
レオンからは「テロリストに拉致され、改造された少年・アキトを救出せよ」という命を受けている。
だが、目の前の惨状を見れば見るほど、自分の「正義」が揺らいでいくのを感じた。
この破壊の跡から感じるのは、拉致された被害者の悲鳴ではない。 地を這い、泥を啜り、それでもなお立ち上がろうとする者の、凄まじいまでの「執念」と「怒り」だ。
「……分隊長、感傷に浸っている時間はありません。本隊の痕跡を追います」
シルヴィアの冷徹な声が響く。彼女はすでに数名の部下を連れ、港湾・大通りエリアに遺棄された旧政府軍のヘリの残骸の調査を始めていた。
2. 残された遺品、奪われた翼
港湾エリアには、攻略戦で撃墜された、あるいは放棄された数十機のヘリが横たわっていた。
そのほとんどが旧式の、新政府から見れば博物館行きの骨董品ばかりだ。
ユーリは、一際大きく、不自然な形で大破した一機の輸送ヘリに歩み寄った。 機体には何かのマークが描かれているが、その周囲には無数の弾痕と、激しく衝突したような凹みが無数にある。
「聞き込みの結果が出ました」
シルヴィアがデータパッドを片手に報告する。
「生存していた清栄市民数名から記憶を抽出したところ、敵部隊は攻略後、複数のヘリに分乗して北の海上へ離脱したとのことです。しかし、その中の一機――まさにこの機体ですが、離脱に失敗し、重要な物資を遺棄したまま爆破された形跡があります」
ユーリはヘリの機内へと足を踏み入れた。
鼻を突くのは、焦げた配線の臭いと、濃密な血の匂い。
足元には、誰のものかもわからない「包帯の切れ端」や、ひしゃげた「薬の空瓶」が散乱している。
それらはすべて、この場所で誰かが誰かの命を繋ごうと必死に足掻いていた証だった。
(彼らは、ただのテロリストじゃない。……仲間を守るために戦っていたのか?)
先ほどの村で見かけたパンを分け合う姿が、機内の惨状と重なる。 その時、ユーリの目に、操縦席のコンソールパネルの下に挟まった、煤けた一枚の紙が留まった。
「……これは?」
それは、デジタル化されたこの時代には珍しい、物理的な「地図」だった。 ただの地図ではない。そこには手書きの座標と、複雑な海流のデータ、そして新政府の哨戒網を縫うように引かれた、一本の「隠された航路」が記されていた。
地図の端には、走り書きでいくつかの数字と、地名らしき文字があった。 『――補給地点:夢守の島。本隊合流ポイント。』
「……見つけた」 ユーリの指が、その「孤島」を指すバツ印の上で止まった。
『蹂躙の爪痕』をご覧いただきありがとうございました!
ついに攻略された都市ニューマザーズへと乗り込んだユーリ。
そこで彼が目にしたのは、レオン司令の言う「テロリスト」の姿ではなく、最新鋭ロボットEINを真っ二つに引き裂くほどの凄まじい「执念」と、旧式のヘリのなかで誰かの命を繋ごうとした「人間の温もり」でした。
前回の「パンを分け合う姿」と今回の「医療品の残骸」。
これらはすべて、新政府の「完璧な夢(管理)」が、ただの暴力によって成り立っていた事実を指し示しています。
アキトの心を、残骸を通して初めて直視したユーリ。
「拉致被害者を救出する」という大義名分は、地を這い、泥を啜り、それでもなお立ち上がろうとする者の執念と、家族を守ろうとする強烈な愛の前で、いかに無力で傲慢な正義なのか。
そしてついに見つけた、アキトたちの合流ポイント『夢守の島』の地図。
ユーリの信じていた白き正義が、拭い去ることのできない葛藤を混じらせた瞬間です。
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次回、ユーリが地図を頼りに向かう、アキトたちの合流地点とは──。お楽しみに!




