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夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


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『夢操の檻』 第二部:楽園の共犯者

カクヨムでも重複投稿しています


SFや終末世界、ディストピアが好きな人におすすめです

1. 疑似太陽の下で

ニューソウルには、本物の太陽は届かない。巨大なドーム状のシールドが有害な光線を遮断し、代わりに天井に張り巡らされた無数のLEDが、計算された「完璧な一日」を演出している。 アキトにとって、その人工的な光は、かつて荒野で浴びた凶暴な日光よりもずっと優しく感じられた。


「アキト、見て! 今日は『春の陽気』に設定されているのよ。風も少し花の香りがするでしょう?」

リナが、並木道を弾むような足取りで歩きながら振り返る。彼女のベージュのワンピースの裾が、人工のそよ風に揺れた。


アキトは彼女の背中を追いかけながら、胸の奥が熱くなるのを感じていた。ここに来てから二週間。アキトの仕事は、リナと共に街の市民たちの「幸福度」を確認して回ることだった。


「本当だ。……外の世界じゃ、砂埃の匂いしかしなかったのに」 「もう、外のことは忘れていいのよ。これからは、ここがあなたの現実なんだから」

リナは立ち止まり、アキトの腕に自分の細い腕を絡ませた。 ふわりと、石鹸のような、清潔で甘い香りが鼻をくすぐる。


アキトは心臓が跳ねるのを必死に抑えた。彼女の肌のぬくもりが、シャツの袖越しに伝わってくる。それは、独りぼっちで死を待っていたアキトにとって、自分がまだこの世界に繋ぎ止められている唯一の証拠のように思えた。


2. 午後の図書室

その日の午後は、仕事が早く終わった。 リナは「とっておきの場所を教えてあげる」と言って、街の北端にある古い時計塔の下へとアキトを連れて行った。そこには、新政府が収集したテロ以前の紙の書籍が保管されている『旧世代図書室』があった。


薄暗い室内には、古びた紙とインクの、少し焦げたような匂いが充満していた。 「ここにはね、12年前の物語がたくさんあるの」 リナは書架の間をすり抜け、一冊の絵本を手に取った。


「見て、アキト。これは『人魚姫』っていうお話。恋をした人魚が、自分の声を犠牲にしてまで人間に会いにいくの」 アキトはリナの隣に座り込み、色褪せたページを一緒に眺めた。 「……声を失ってまで? どうしてそんな無茶なことをするんだろう」


リナはページを捲る手を止め、少しだけ寂しげな、でも慈しむような瞳でアキトを見つめた。 「たぶんね、その人にとって、声よりも大切なものが『相手の隣にいること』だったからじゃないかしら。……アキトなら、どうする?」


「僕……?」 アキトは考え込んだ。荒野にいた頃の自分なら、生き延びるためなら何だって捨てただろう。でも今は違う。 「僕は、声を失ってもいい。……もし、それで君とずっと一緒にいられるなら」


口にしてから、アキトは自分の言葉の重さに顔を赤らめた。 リナは驚いたように目を見開き、それから、これまで見たどんな笑顔よりも柔らかく、人間味のある笑みを浮かべた。 「……ありがとう、アキト。私も、同じ気持ちよ」

彼女の指先が、アキトの手の甲に触れる。 その瞬間、二人の間に流れる時間は、新政府の監視も、歪んだ世界の現実もすべて消し去った。


ただの十六歳の少年と少女としての、純粋な恋だけがそこにあった。


3. 星なき夜の約束

ある夜、アキトの部屋のチャイムが鳴った。 開けると、そこにはパジャマ姿のリナが立っていた。彼女の瞳はいつもより少し沈んでいて、不安げに揺れている。

「リナ? どうしたんだ、こんな時間に」 「……なんだか、怖くなったの。明日起きたら、全部消えてるんじゃないかって。アキトも、この部屋も、私のこの気持ちも……」


アキトは迷わず、彼女の細い肩を引き寄せた。 リナの体は驚くほど軽かった。抱きしめると、彼女の小さな鼓動が自分の胸にダイレクトに伝わってくる。 トクン、トクン、トクン。 少し速いそのリズム。アキトは確信した。彼女はプログラムされた人形なんかじゃない。自分と同じように、怯え、愛を求める、生身の人間なんだと。


「消えないよ。僕が消させない。……リナ、僕の夢が決まったよ」 アキトは彼女の耳元で囁いた。 「僕の夢は、君を守ることだ。この街で、君と一緒に、ずっと笑って生きていく。それが僕の、たった一つの夢だ」


リナはアキトの背中に腕を回し、強くしがみついてきた。 「……アキト……。私も、あなたを離さない。何があっても」

その夜、二人は窓の外に広がる「偽物の夜景」を眺めながら、夜が明けるまでこの世界のことを語り合った。 外の世界では、今も「夢」を失った人々が泥水を啜り、徘徊している。


新政府がどのような手段でこの平和を維持しているのか、その不気味な噂も耳に入っていた。 でも、アキトはそれらすべてから目を逸らした。 目の前の少女がくれる温もりさえあれば、世界がどれほど歪んでいても構わない。 アキトはニューソウルという名の「甘い毒」を、自ら進んで飲み込んでいた。

続編も是非読んでください。

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