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夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


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『夢操の檻』 第一部:灰色の空と虹の街 第3話

カクヨムでも重複投稿しています




SFや終末世界、ディストピアが好きな人におすすめです

4. 案内人リナ


「ようこそ、ニューソウルへ」


機械的なアナウンスが響く。


ゲートをくぐった直後、アキトはあまりの眩しさに目を細めた。 そこは、荒野とは完全に切り離された別世界だった。 舗装された道路を、無音の自動車が走り抜けていく。空中にはホログラムの広告が踊り、豊かな街路樹が風に揺れていた。そして何より、そこを歩く人々には「表情」があった。


呆然とするアキトに、一人の少女が近づいてきた。 ベージュ色の清潔なワンピースを身に纏い、透き通るような肌をした少女だ。


「驚くのも無理はないわ。外の世界とは、空気の流れ方が違うもの」


彼女は柔らかく微笑んだ。その笑顔は、完璧なまでに美しかった。 「私はリナ。あなたの案内係を務めるわ」


「リ、リナ……。僕は、アキト。ここはどういう場所なんだ?」


長い間使っていなかった声帯は凝り固まっていたが声を絞り出す。


「ここはね、アキト。テロの汚れを逃れ、本当の夢を持つ人だけが集まる場所よ。新政府が管理する、世界で最も安全なシェルターの一つと言ってもいいわ」


リナはアキトの手をそっと取った。 その手の温もり。荒野で凍えきっていたアキトにとって、それは救いの光そのものだった。 「さあ、まずはあなたの体を綺麗にしましょう。その後、お仕事とお部屋を案内するわね」


5. 清潔な檻


案内されたのは、街の中層階にある「市民寮」の一室だった。 ドアを開けた瞬間、アキトは息を呑んだ。 真っ白な壁、柔らかな感触のカーペット、そして窓から見える美しい夕焼けのホログラム。 広い、とは言い難いが、荒野の瓦礫に寝そべっていたアキトにとって、そこは王宮も同然だった。


「この部屋が、今日からあなたの家よ。シャワーを浴びて、そこのクローゼットにある服に着替えて。一時間後、下の食堂で待っているわ」


時計を確認する。9時05分、時間を気にしたのは何ヵ月ぶりだろう。その単純な行為だけでも生きていることを実感できる。


リナが去った後、アキトは夢中でシャワーを浴びた。 お湯が肌を叩く。垢と汚れが流れ落ち、自分が「人間」としての輪郭を取り戻していくのを感じた。 用意されていたのは、肌触りの良い青いシャツと、仕立ての良いズボンだった。鏡の中に映る自分は、まるで別人のようだった。


食堂へ行くと、リナが待っていた。 目の前に並べられたのは、見たこともないほど彩り豊かな食事だった。ステーキ、新鮮な野菜のサラダ、そして甘い香りのするスープ。 「食べて。それは合成肉よ。見た目はいまいちかもしれないけど、あなたが今まで食べてた物よりはるかにマシよ。力をつけなきゃ、明日からのお仕事が大変よ」


アキトは貪るように食べた。 「あの……。仕事って、何をするんだ?」 「あなたの適性を見た結果、まずは『市民調査員』のアシスタントをしてもらうことになったわ。街の人たちが、どんな夢を持っているのかを聞いて回るお仕事。簡単でしょう?」


「夢を……聞く?」 「そう。この街、いや世界で重要なのは、みんなの『夢』なの。夢のおかげで秩序があるんだから…。とりあえず、みんながどんな夢を持っているかを知ることは、とても大切なことなのよ」


リナは、アキトを見つめて微笑んだ。 その瞳は、一点の曇りもなく輝いている。 「アキト。あなたも早く、自分の夢を見つけられるといいわね」


6. 綻びの予感


翌日から、アキトの「ニューソウル」での生活が始まった。 リナに付き添われ、アキトは街の人々に話を聞いて回った。


公園でチェスを指している老人。 「私の夢? この街の平和が永遠に続くよう、新政府の教えを広めることだよ。毎日が充実していて、本当に幸せだよ」


パン屋を営む中年女性。 「私の夢は、このパンを食べてくれるみんなが、この街に感謝を忘れないようになること。それ以上に素晴らしいことなんて、ないでしょう?」


誰もが、迷いなく答えた。 誰もが、幸せそうな顔をしていた。子供も、老人も、若者も。 だが、アキトの心には、針の先ほどの小さな違和感が刺さっていた。


「みんな……同じことを言っている気がする」


ある日の夕暮れ、リナと一緒に噴水広場のベンチに座っていたとき、アキトは思わずそう呟いた。 「え?」 リナが小首を傾げる。


「いや、みんな夢を持っていて、それは凄いことなんだけど……。なんというか、みんなの夢が、みんな『街のため』とか『新政府のため』なんだ。もっとこう、自分勝手な願いとか、そういうのはないのかなって」


リナの瞳から、一瞬だけ光が消えたような気がした。 しかし、彼女はすぐに、先ほどよりもさらに深い笑みを浮かべた。


「ふふ、アキトは面白いことを言うのね。みんなが街の幸せを願うのは、自分がこの街の一部だから。それが一番効率的で、一番幸せな『夢』の形なのよ」


リナの手が、アキトの手に重ねられる。 「あなたも、すぐに分かるわ。この街で暮らしていれば……」


リナの手は温かい。心が休まるような温もりだ。 でも、その温かさは、どこか機械の放熱のような、一定の温度を保ちすぎているような不気味さを、アキトの肌に伝えていた。



続編も是非読んでください。

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