『夢操の檻』 新政府軍 第2章:無知なる聖者と、灰色の温もり
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1. 灰色の荒野と、地図にない村
ニュー・プロビデンスの完璧な環境制御ドームを抜け出した白亜の車列は、旧世界の残骸が転がる荒野を土煙を上げて進んでいた。
ユーリは揺れる車内で、窓の外をじっと見つめていた。 空は重苦しい鉛色に沈み、大地はひび割れ、枯れ果てた樹木が墓標のように等間隔で並んでいる。これが、旧政府が引き起こした果てしない内戦と環境破壊の末路だ。
新政府の教育プログラムで何度も見せられた「地獄」そのものの光景だった。
「……分隊長。進行方向およそ三キロ先に、熱源反応があります。規模からして、三十人程度の集落と推測されます」
助手席のシルヴィアが、データパッドから顔を上げずに報告した。彼女の声には、道端の小石を見つけた時と同程度の感情しかこもっていない。
「データベースに登録は?」
「ありません。新政府の『夢』による管理を拒絶し、不法に定住している野良の集団です。……司令部からの事前命令に基づき、速やかな『処分』、あるいは『強制付与』を推奨します」
「……わかった。部隊を停止させろ。まずは私が様子を見る」
ユーリの指示で、車列は小高い丘の裏側に身を潜めた。 後部座席で腕を組んでいたデオが、太い首を鳴らしながら重機関銃のセーフティを外した。
「気をつけろよ、坊っちゃん。夢を持たねえ野良犬どもは、飢えて気が立ってる。隙を見せれば、親だろうが子供だろうが平気で噛みついてくるぜ」
デオの言葉は、ユーリが教わってきた常識そのものだった。 夢を持たない人間は、際限のない欲望に支配され、奪い合い、憎しみ合う哀れな獣である。だからこそ、新政府の管理下で平穏な夢を与えてやらなければならない。
ユーリは高倍率の双眼鏡を手に取り、丘の稜線からそっと顔を出し、眼下の集落を覗き込んだ。 そこで彼が見たものは、彼が5年間信じてきた「常識」を根底から揺るがす光景だった。




