『夢操の檻』 新政府軍 第1章:白亜の檻と、無垢なる狂信
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1. 完璧な朝、秩序の空
巨大都市『ニュー・プロビデンス』の朝は、常に寸分の狂いもなく、美しく明ける。
ユーリは、純白のシーツから身を起こした。室温は睡眠と覚醒に最適な二十二度に保たれ、微かに香るオゾンが肺を清潔に満たしていく。
窓に近づき、ブラインドを開けると、そこには淀み一つないコバルトブルーの空が広がっていた。 雲の形、太陽の角度、鳥が飛ぶ軌道に至るまで、すべては環境制御AIによって計算し尽くされた「ホログラムの空」である。奇麗だ。
「おはようございます、ユーリ分隊長。本日のバイタルは完璧です」 AIの穏やかな音声と共に、朝食がベッドサイドのテーブルにせり上がってくる。
提供されたのは、淡いピンク色をした栄養液と、町で焼かれた合成小麦のパンだ。ユーリがそれを口に運ぶと、味覚野が刺激され、「焼きたてのパンと、甘いベリーのジャム」の味が口いっぱいに広がった。
実際にはただの無味乾燥なタンパク質の塊である。それでもユーリは、この完璧にコントロールされた食事に心から感謝していた。
旧政府のテロリストたちは、飢えに苦しみ、奪い合い、血を流して「本物のパン」を求めているという。なんて愚かなのだろう。ただシステムに身を委ねれば、誰も傷つくことなく、永遠に満たされた夢を見ることができるというのに。
鏡の前に立つ。白地に金色のラインが入った、新政府精鋭部隊『ホワイト』の制服。十七歳という若さでありながら、ユーリの白皙の顔立ちには、新政府への強い忠誠と、淀みない正義感が宿っていた。
透き通るような淡い金の前髪を整え、彼は自らの「完璧な一日」を始めるために部屋を出た。
2. 鋼の守護者、あるいは冷徹なる番人
ニュー・プロビデンスの大通りは、まるで美術館のように静謐だった。 行き交う市民たちの顔には、一様に穏やかな微笑みが浮かんでいる。彼らは皆、新政府によって「深く、幸福な夢」を与えられた清栄の市民たちだ。争いもなく、嫉妬もなく、ただ与えられた幸福の中で静かに呼吸している。
その平和を物理的に担保しているのが、街の至る所を巡回している二足歩行型警備ロボット『EIN』。
流線型の白い装甲に身を包み、頭部には表情のない黒いスリット型のセンサーだけを持つその機械は、市民の安全を守る盾である。
ユーリが歩みを進めていると、前方で一人の初老の市民が、ふと立ち止まった。 その市民の顔から、ほんの数秒だけ微笑みが消え、眉間に微かな「不安」の皺が寄った。何か、過去の凄惨な記憶が夢のレイヤーを突き破りそうになったのだろう。
「……ピピッ」
瞬間、十メートルほど離れた場所に立っていたEINの頭部センサーが、市民の心拍数の異常と顔面筋の強張りを検知して赤く点滅した。
音もなく滑るように市民の背後に近づいたEINは、その首筋に冷たいマニピュレーターを添え、微弱な電気を打ち込んだ。
「……あ、ああ。いい天気ですね」 市民はすぐに「不安」を忘れ、再び空虚な微笑みを取り戻して歩き出した。 EINは何事もなかったかのように、再び街角の彫像のように直立状態に戻る。
市民の「わずかな不安」すら許さず、速やかに排除・修正する。それは平和の守護者であると同時に、自由という名の毒を封じ込める檻の番人でもあった。
(完璧なシステムだ。こうして、人の心から『悪意』が取り除かれていく)
ユーリはその無機質な背中に敬礼を送ると、歩調を速めて本部棟へと向かった。自分の中に新政府への疑いが芽生え始めていることなど微塵も気が付いていなかった。
第一章『白亜の檻と、無垢なる狂信』をご覧いただきありがとうございました!
前回、アキトがすべてを失い、大切な義足まで壊されて絶望の海へ流されるという最悪の引きを迎えましたが……今回からなんと、物語の舞台は新政府軍の巨大都市『ニュー・プロビデンス』へと移ります!
アキトのいた泥臭く厳しい島とは真逆の、完璧にコントロールされた美しすぎるディストピア。室温、空の色、鳥の軌道、さらには味覚や市民の「一瞬の不安」すらAIとロボット『EIN』によって即座に修正される世界です。
そして新たな視点キャラクターとなるのが、新政府の精鋭部隊『ホワイト』に所属する17歳の少年、ユーリ。
彼は悪意でシステムに従っているわけではありません。むしろ、「争いも飢えもないこの世界こそが至高であり、本物の自由を求めて血を流す旧政府こそが愚かで可哀想な存在だ」と、120%の純粋な善意と正義感でこの街を愛しています。この「無垢なる狂信」こそが、ユーリというキャラクターの最大の魅力であり、恐ろしいところでもあります。
ちなみに、ユーリの制服の胸元や街のロボットたちに刻まれているのは、新政府『New Dream』の頭文字である「N」と「D」が寸分の狂いもなく一体化した、白と銀の幾何学シンボルマークです。
完璧な世界を疑わないユーリ。しかし、そんな彼の心の奥底にも、本人が気づかないレベルで「新政府への疑い」のノイズが少しずつ混ざり始めており……?
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次回、ユーリが本部棟で受ける「ある任務」とは──? お楽しみに!




