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夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


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『夢操の檻』第十二部:杭なき少年の、鋼の牙 第4話

カクヨムでも重複投稿しています

物語をお楽しみください

5. 弾丸の軌道、あるいは飛翔の予兆

それから、さらに数週間が瞬く間に過ぎていった。 島に吹き付ける潮風が少しずつ冷たさを増していく中、特訓場に響く金属音は、明らかにその「質」を変えていた。

「ふぅ……。やっぱり、運動した後のこれ、最高だね」


コンクリートの瓦礫に腰掛けたアキトは、ハルたちが差し入れてくれた冷たい水のボトルを喉に鳴らし、ぷはっと息を吐いた。


「あんた、本当によく飽きないわね。アタシなんて現役の時から、訓練の後は泥みたいに眠ることしかできなかったわよ」


隣に腰掛けたミナが手にした携帯食料の包みを噛みちぎる。

「だって、戦えるになるのが嬉しくてさ。あ、ミナ、それまたその怪しい味のプロテインバー? よくそんなゴムみたいなの毎日食べられるね」


「なによ失礼ね。これでも旧政府軍の最高級品よ? ……まぁ、正直に言うと、たまには本物の、お肉とか食べたいけどさ」


「あはは、もしまた動物を見かけたら狩っとくよ」


そんな他愛ない会話を交わしながら笑い合う。2人の間には、上官と部下という垣根を越えた、年の近い姉弟のような、あるいは背中を預け合える戦友のような、心地いい空気が流れていた。


「よし……。じゃあ、ミナ。ちょっと今の僕の成果、見ててよ」


アキトはボトルを置くと、まだ生身の左足に残るかすかな痺れを払うように立ち上がり、軽くステップを踏んだ。 並び立つコンクリート柱のジャングルへと視線を定める。


もう、最初の頃のように爆発の勢いに振り回されて無様に転がるアキトはそこにはいなかった。 生身の左足で地面を滑るように滑走し、敵の射線を躱すようにジグザグに鋭く踏み込む。右の鉄足が一歩を刻むたび、制御プログラムがアキトの意図を正確に読み取り、滑らかにモーターを駆動させていた。


「ハッ……!」


アキトは正面の柱に向けて、まずは基本の回し蹴りを放つ。 ブレのない完璧なフォーム。しなやかにしなる生身の左足を軸にして、チタン製の右足が強烈な一閃を描いた。


――ドゴォンッ!!!


乾いた破壊音と共に、分厚いコンクリート柱の根元が綺麗に消し飛ぶ。上半身の軸は一ミリもブレていない。ハルとエレナの技術を、アキトは完全に自分の肉体として飼い慣らしていた。


「うん、完璧。もうアタシから教えることは何もないわね」 ミナが満足そうに頷く。だが、アキトはまだ残圧を解除しなかった。


「ううん、ここからが本番。……実はさ、ハルやエレナ、それからリナにも内緒で、一人でこっそり練習してた技があるんだ」


「え? みんなに内緒って……」


ミナが怪訝そうに目を丸くした瞬間、アキトの姿勢が低く構えられる。


(体勢は極限まで低く。深く沈み込め──)


アキトは頭の位置を地表すれすれまで下げると同時に、左の掌をコンクリートの床へと強く突き立てた。腕を、強固な臨時の「軸」として地に固定する。右足を外側へ大きく伸ばしたその構えは、まるで地を這う獣のようだった。


(今!ブースター、一気に回す……!)


左手を軸に、反時計回りの強烈な回転を始動。それと同時に、右足のふくらはぎの点火スイッチを脳内で叩く。


「キュリリリリリリッ!!!」


爆発的な推進力が後方へ吹き荒れる。だが、アキトの身体は前へは吹き飛ばない。左腕という頑強な錨で地面に固定されているため、その莫大なエネルギーはすべて「その場での超高速回転」へと変換された。


コンクリートを削る不気味な駆動音を響かせ、アキトはコマのように猛烈に回り始める。


(この見た目なら、誰もが『猛烈な足払い』だと思う。敵の意識も、ガードも、全部下段に釘付けにできる……!)


熟練の戦士でもこの視覚的フェイントからは逃れられない。完全に誘い込んだ。

(──今だ、軸をリリースする!!)


回転速度が最高潮に達した瞬間、アキトは地面を掴んでいた左手を一気に突き放した。 行き場を失い、限界まで溜め込まれていた膨大な遠心力と推進力が、一瞬で「斜め上」の空間へと爆発的に解き放たれる。


回転から一転、アキトの身体は重力をあざ笑うように、天空へ向かってキリモミ回転しながら滑空した。 超高速スピンの全エネルギーが、右足へと一点集中していく。狙うのは、柱の上部。敵がいるとすれば、顎の下からすべてのガードを強引に抉り抜く軌道。


――バリバリバリバリバリィィィッ!!!


鼓膜をブチ裂くような金属の絶叫が特訓場に響き渡る。 螺旋を描いて突き上げられたアキトの鉄足は、分厚い柱の内部を削岩機のように激しく削り飛ばし、瞬く間に木っ端微塵に粉砕した。遅れて、ブースターの凶暴な風圧がソニックブームとなって周囲の硝煙を吹き飛ばす。


空中には、ブースターの残光が描いた美しい光の螺旋が、まるで竜巻のように残像として浮かんでいた。


その光の輪が消えぬ間に、アキトはブレることなく滑らかに、スタイリッシュな動作で地面へと着地してみせた。生身の左足は一ミリの揺らぎもない。


「本当に……とんでもないわね」


ミナがゆっくりと歩み寄ってきて、アキトの頭を少し手荒に、けれど心底誇らしそうにくしゃくしゃと撫で回した。


「普通の蹴りをマスターするだけでも数ヶ月はかかりそうだったっていうのに、ブースターを強引に横方向の推進力に変えるなんて。……あはは、ハルが知ったら飛び跳ねて喜ぶでしょうね『よくぞ僕の傑作をかっこよくしてくれたね!』って」


「へへ、でしょ? でも、これならミナの背中も, ちゃんと守れそうでしょ?」

アキトが顔を上げて悪戯っぽく笑うと、ミナは一瞬だけ不意を突かれたように目を見開き、それから笑みを浮かべてアキトの額を軽く小突いた。


「生意気言わないの。アタシを守るなんて、百年早いわよ……。でも、そうね。これなら、あんたの背中を追いかけるアタシのほうの訓練が、もっと必要になりそうだわ」


肩を並べて笑い合う二人の距離は、数週間前とは比べものにならないほど、深く、固い信頼で結ばれていた。


笑い合いながら、アキトはふと、遠くの崖の上でこちらを見つめているレオンの視線に気づいた。 彼は何も言わず、ただ静かに巨木の切り株に座り、水平線を見つめている。手首のハンドバンドの幾何学模様が、夕陽に照らされて不気味に沈んでいた。


(……レオン。あなたが何を隠していても、僕はもう止まらない)


アキトは右足のボルトにそっと触れ、それから崖の上の影に向けて、不敵な笑みを浮かべた。 この右足と、脛のスパイク、ふくらはぎの推進機。 これらはもう、ただの装備じゃない。死も、絶望も、そしてこれから直面する世界の歪みさえも、すべてを跳ね返すための僕自身の「体」だ。


「よし、もう一回! ミナ、次はあっちの大きな岩を狙うよ!」


「いいわよ、とことん付き合ってあげる。ほら、次は着地でよろけないように、体幹を意識しなさい!」


アキトの弾んだ声と、ミナの叱咤するような、けれど温かい声が夕暮れの島に響き渡る。 鋼の義足が地面を叩くたび、その音は以前よりも力強く、確かな未来を刻んでいるようだった。

第十一部『脆き肉体と、爆ぜる鉄足』、これにて完結です!


ラストとなる第五章では、数週間の過酷な特訓の成果、そしてアキトが仲間たちにすら内緒で磨き上げていた「秘密のテクニカルな大技」を解禁しました!


地を這う超高速のコマ回転で相手の下段へ意識を釘付けにし、一気に軸を解放して斜め上へとキリモミ回転しながら突き抜ける螺旋の蹴り。その軌道やブースターの残光、ソニックブームの爆風まで、なるべくイメージしてもらいやすいように時間をかけて執筆しました。


ミナが「ハルが知ったら飛び跳ねて喜ぶでしょうね」と笑うシーン。不器用でドライに見えるハルですが、自分の作ったプログラムをこんな風にクリエイティブに、そして最高にカッコよく使いこなされたら、絶対に天才プログラマーとしての血が滾って大喜びするはず。そんなチームの絆が垣間見えるお気に入りの一幕です。


しかし、そんな高揚感とミナとの固い信頼の裏で、夕陽に照らされる崖の上のレオン。

彼の腕にある不気味な紋様を見つめ、アキトは「あなたが何を隠していても、僕はもう止まらない」と、世界の歪みに立ち向かう不敵な笑みを浮かべます。


鉄の足を手に入れた少年が、全てを跳ね返すために見据える未来。

──それこそ、空でも。


「アキトの蹴りがカッコよすぎる!」と思ってくださった方は、ぜひ次章への最高の応援として、下方の【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)】をポチッと押していただけると大歓喜します!


次回、アキトはピンチに陥ります、、

新章・第十二部も、どうぞお楽しみに!!

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