『夢操の檻』第十二部:杭なき少年の、鋼の牙 第3話
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4. 義足の轟音、仲間の支え
レオンへの不信が残る中、アキトは泥をすするような特訓の日々へと身を投じた。 生身の左足の包帯もまだ取れないうちに、アキトは再び島の荒涼とした特訓場に立っていた。 横には、腕を組んで厳しい視線を送るミナの姿がある。
「いくよ、ミナ!」
アキトは鋭く息を吐き、漆黒の軽量装甲に包まれた身体を低く構えた。 狙うのは、十メートルほど前方に置かれた、肉厚なコンクリートの防壁の残骸。
ハルが数夜徹夜して書き直したプログラムと、エレナがアキトの体格に合わせて出力をギリギリまで絞り調整してくれたふくらはぎのブースター。アキトは再び神経を緊張させる。
「シュウゥ……!」
ふくらはぎの隙間から、空気を焦がすような凶暴な圧縮音が響き渡る。 アキトは生身の左足で思いきり地に踏み込み、同時に右の鉄足を前方へと突き出した。
ドンッ!!!
足元で激しい爆発が弾ける。 次の瞬間、アキトの身体は弾丸のような速度で前方にぶっ飛んだ。 視界が超スピードで後ろへと流れる。数日前なら、この強力な推進力に振り回されて空中分解するように転がっていた。
だが、今回は違う。アキトは恐怖をねじ伏せ、空中で無理やり体幹をひねり、右の膝を突き出すようにして防壁へと肉薄した。
――バリィィィィィ!!!
強烈な金属の破壊音が轟く。 義足の脛に取り付けられた大型スパイクが、爆発の推進力を一点に集中させてコンクリートの防壁へと突き刺さり、その分厚い塊を中央から蜘蛛の巣状に真っ二つに叩き割った。
しかし、着地の瞬間、やはり凄まじい反動がアキトを襲った。 生身の左足がその衝撃を支えきれず、アキトの身体が斜め後ろへと大きく傾く。また地面に叩きつけられる――そう覚悟した、次の瞬間だった。
「おっと……! ほら、やっぱりまだ軸足の踏ん張りが甘い!」
強い力で、後ろから身体をガシッと抱きとめられた。 支えてくれたのはミナだった。ミナはアキトの脇をがっちりと支え、自分の身体を盾にするようにして、アキトにかかる突撃の残る衝撃を一緒に受け止めてくれたのだ。
ミナの髪から、潮風と微かな硝煙の匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。
「……あ、ありがとう、ミナ」 「お礼を言う暇があったら、ちゃんと自分の足で立ちなさい。ハルとエレナが起こるよ」
ミナは苦笑しながらも、アキトが完全にバランスを取り戻すまで、その温かい手でアキトの肩を支え続けてくれた。不器用だけど、そこには確かに優しさが滲んでいた。
アキトは額の汗を拭いながら、真っ二つに割れたコンクリートを見て、荒い息のまま笑った。 「……すごい! 前はただ吹っ飛ばされたのに、今回はちゃんと芯に当たった!」
「ええ、驚いたわ。本当にすごい適応力ね」 ミナがアキトの肩から手を離し、呆れたように、けれどどこか嬉そうに呟いた。
「強くなっていっているのは嬉しいことだけど、まさかスパイクをそんな風に使うなんてね。アタシの想像を超えてるわよ」 砂塵が舞う中、ミナがアキトの横に並び、しみじみと割れた防壁を見つめた。その瞳には、明らかな驚嘆と、それ以上の深い信頼の色が浮かんでいる。
「重装兵がそのスパイクを使うのは、普通は地面に杭を打って、敵の猛攻をその場に立ち止まって『耐える』ためなの。それをまさか、突撃の威力を敵の身体に直接ぶち込んで『引き裂く』ために使うなんて……。本当に、とんでもない軽装兵だわ」
「この義足、踏み込めば踏み込むほど、爆発の力を真っ直ぐ前に伝えてくれるんだ。まるでこの鉄の足が、僕の味方をしてくれてるみたいだよ」 アキトは義足のブースターの残圧をプシューと解除し、軽くステップを踏むように一歩踏み出した。
膝を曲げ、重心を低く保ちながら、義足のスパイクで敵を牽制し、いつでも爆発的なステップを踏める構え。 それは、重装兵のような圧倒的な破壊力と、アキト本来の軽快なセンスが融合した、全く新しい、凶暴ながらもどこか美しい「ダンス」のようだった。
「カイトが見たら、悔しがるだろうな。『俺の出番がなくなった』ってさ」 アキトの冗談に、ミナもフッと柔らかく、大人びた笑みを浮かべた。
「そうね。あの大男なら、目を包帯でぐるぐる巻きにしたまま『俺の突撃の方が綺麗だった』って、絶対に張り合ってくるわ」 ミナはアキトの顔をじっと見つめ、それからそっと、アキトの漆黒の肩当てに手を置いた。
「アキト。あんたに、重装兵たちの重い盾を背負わせようとして……ごめんね」 ミナの声は、風に消えそうなほど優しかった。
「あんたは、一万人の犠牲の上に立つ『杭』になんでならなくていい。あんたの言う通り、誰よりも早く敵の懐に飛び込んで、全部引き裂いてやりなさい。アタシが、あんたの背中はいくらでも支えてあげるから」
ご覧いただきありがとうございました!
第十一部・第四章をお届けしました。
2章での大失敗から数日、ボロボロの体で泥をすすりながらも、アキトが必死に鉄の足を自分の肉体へと飼い慣らしていく泥臭い特訓の日々を描きました。
「スパイク」を、突撃で敵を引き裂くために使うアキトの型破りな戦闘スタイル。そして、着地でよろけたアキトをがっちりと受け止め、かつて「盾を背負わせようとしてごめんね」と不器用に、けれど心から謝るミナとのシーンは、2人の距離が上官と部下を越えて「本物の戦友」になった瞬間として書きました。
「あんたの背中はアタシが支えてあげる」というミナの言葉を背負い、アキトの強さはさらに加速していきます。
「ミナの不器用な優しさに泣いた!」「アキトの新しい戦闘スタイルが最高にカッコいい!」と思ってくださった方は、ぜひ下方の【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)】で応援していただけると嬉しいです! 執筆の最高のエネルギーになります!
次回、数週間の特訓を経てさらに進化したアキトが、ハルたちにも秘密にしていた「大技」を披露します。5章の怒涛のクライマックスもどうぞお楽しみに!




