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夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


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『夢操の檻』第十二部:杭なき少年の、鋼の牙 第2話

カクヨムでも重複投稿しています

物語をお楽しみください

2. 破壊の咆哮、沈黙の守護

次にアキトが手を伸ばしたのは、武器の山だった。


そこに並ぶ大口径のライフルや、重装兵たちが好む巨大な盾には惹かれるが、これじゃない。アキトが選んだのは、ごくシンプルな、軽装兵用の漆黒のコンバットナイフと、拳を保護する最低限の薄いグローブだけだった。


「本当に、それだけでいいの?」


作業デスクからそれを見ていたエレナが、心配そうに眉をひそめる。

「うん。重い武器を持ったら、せっかくの蹴りの邪魔だろ?」

アキトは静かに笑い、新しく生まれ変わった右足を見つめた。


すねには頑丈なスパイクがボルト止めされ、ふくらはぎには推進ギミックが仕込まれた無骨な義足。ハルとエレナが、アキトの無茶な願いを叶えてくれた「絆の結晶」だ。


アキトは深く腰を落とし、その鉄足に意識を集中させる。ハルが心血を注いでくれた制御プログラムがアキトの神経と重なった瞬間、ふくらはぎの隙間から、ギュウゥゥゥン……と野獣のような圧縮音が響き渡る。


「よし……これなら……!」


焦燥感に突き動かされるように、アキトは広場に転がっていた新政府軍のヘリの残骸に向けて、右の蹴りを放とうとした。


「待てアキト! 初めて動かすし、まだ安全性も――」


ハルの静止の声が響くのと、アキトが強く踏み込んだのは、ほぼ同時だった。

ドン、と足元で激しい重い爆発が弾ける。

瞬間、アキトの右足は、物理法則を無視したような超加速で前方にぶっ飛んだ。


「――っ!?」


視界が上下に激しくブレる。速すぎる。2人の技術は完璧だったが、それを受け止めるアキトの生身の体幹と軸足が、その暴力的な推進力に全く追いつかなかった。


蹴りを放つどころか、アキトの身体は空中で不格好に一回転し、ヘリの装甲板に激突する手前で、地面のコンクリートへと猛スピードで叩きつけられた。


強烈な痺れが全身を走る。


「がはっ……、ぁ……ッ!」


アキトは泥と火薬の匂いが染み込んだ地面を何度も転がり、鉄のにおいが鼻孔を突く。ズボンの裾が破れ、左足の膝からは赤黒い血が滲み、全身が打撲の激痛を訴えている。右足の義足だけが、主のコントロールを失ってピクピクと虚しく痙攣していた。


「アキト!!」


エレナが作業工具を放り出し、駆け寄ってくる。

「バカしてんじゃないわよ! 一歩間違えれば身体がバラバラに引きちぎれるって言ったでしょう! 骨が折れててもおかしくないわよ!」


「……う、あ……」


アキトは脂汗を流しながら、激痛に耐えて呼吸を絞り出した。

ハルも慌てて駆けつけ、アキトの体を支えながら、眼鏡のブリッジを指で押し上げた。その瞳には、珍しく怒りと痛ましさが混ざり合っている。


「……気持ちが焦るのは分かるけどさ。生身の身体と鉄の足を馴染ませるには、もっと段階を踏まないと君の肉体が先に壊れるよ。カイトがこれを見たら、冗談なんか言わずに怒るレベルだね」


カイトの名が出た瞬間、アキトの胸がズキリと痛んだ。

両目を失い、今も暗闇の救護テントの中にいる、あの不器用な先輩。みんなが命を繋いでくれたのに、自分はまた焦って、こんな無様な無茶をしている。


アキトは自分の右足の冷たい重みと、左足の生々しい痛みを噛み締めながら、自分が背負ったものの大きさを、改めて自覚した。


「……ごめんなさい。でも、僕……早く戦えるようになりたいんだ。もう大事な人を失いたくはない」


ハルは小さくため息をつき、アキトの泥だらけの頭を少し乱暴に、けれどどこか愛おしそうにクシャッと撫でた。

「……分かってるよ。プログラムの調整なら僕が何度でも付き合う。だから、そんな死に急ぐみたいな真似はしないで、少しずつ僕たちに歩調を合わせなよ」


「アタシも、あんたの体格に合わせてブースターの出力をもう少し弄ってあげるわ。……次は絶対に、失敗させないからね」

アキトはエレナに肩を借り、救護テントへと足を引きずる。


「お、おいアキト!」


肩越しに耳を立てる。


「初めて会った時、君のことを……リナのことを悪く言って済まなかった。」

「いいんだよ、‘‘自称‘‘天才プログラマーさん!」


初めてハルと笑いあう。

ハルとの距離が少し縮まった気がした。

________________________________________

3. 潮風に混じる不信

訓練の合間、アキトは無意識に視線を「上」へと向ける。 崖の上、かつてこの島を見渡しでいたであろう巨木の切り株に座るレオンの背中。 彼はいつも、その場所に一人でいた。


(……おかしいんだ)


アキトの脳裏には、あの戦場で見た凄惨な景色が焼き付いている。 熟練の重装兵ですら肉塊となって散り、自分は足を失い、カイトは両目を焼かれた。 骨折なんて軽傷の内だ。


だというのに、最前線で指揮を執っていたレオンには、目立った傷がほとんどない。あっても、数箇所のかすり傷と打撲だけ。 それは、卓越した技術という言葉だけでは片付けられない、何か「異質な守護」を感じさせた。


そして、何よりもあの指輪だ。 死に際の敵兵が、苦し紛れに放った一発。その薬指で鈍く光っていた、古びた幾何学模様の刺繍のような刻印。 それは、今レオンの手首を覆っている、あの黒いハンドバンドの文様と、一致していた。


「……」


不意に、レオンが振り返った。まるで見透かされているような気がして、アキトは反射的に顔を背ける。


「アキト……」


「義足の調子はどうだ」


「……最高ですよ。以前よりもずっと。」


レオンは、アキトの嫌味とも取れる返答を柳に風と受け流し、再び水平線へと目を向けた。 その手首にある紋様が何を意味するのか。ただのアクセサリーなのか、あるいは……。


アキトはまだ、誰にもこのことを話していない。 ハルも、マリアも、そして盲目のカイトも、レオンを信じている。 もしこれが自分の見間違いであれば、仲間を疑うことは最大の裏切りになるだろう。


だが、あの戦場で吸った血の臭いと、指輪の輝きは、どうしても頭から離れなかった。


「……守ってみせるよ」


アキトは誰に言うでもなく、そう呟いた。 この盾で、仲間を、そしてこの歪んだ世界の真実を。この鋼の右足で、自分はどこへ踏み出すのか。


島を包む夕闇は、刻一刻と濃くなっていた。 アキトは、義足のボルトを愛おしそうに撫でながら、沈みゆく太陽をじっと見つめ続けていた。

鋼の墓場に、乾いた笑い声が響いた。


数週間前までの絶望が嘘のように、アキトは目の前に積み上げられた無骨な鉄の山を前にして、どこか高揚した気分でいた。


失った右足の代わりに手に入れたのは、ハルが「最高傑作」と豪語する、カーボンとチタンの義足。

これがあれば、どんな場所でもしっかりと戦うことができる気がする。




それこそ、空でも。

ご覧いただきありがとうございました。


今回は、アキトの新しい戦闘スタイル(軽装肉弾戦)への挑戦と挫折、そして物語を揺るがす大きな「不信」を描きました。


ハルとエレナが心血を注いでくれた「爆発ブースター付きの義足」。ですが、どれだけ技術が完璧でも、繋いだばかりの生身の身体がその暴力的な速度に追いつけず、派手に失敗して泥をすするアキトの生々しい挫折にこだわりました。


だからこそ、その無茶を本気で心配して怒ってくれるエレナや、不器用に不満を口にしながらも「何度でも調整に付き合う」と言ってくれるハルとの、男同士の少し距離が縮まった和解シーンは、個人的にも書いていて凄く思い入れ深いものになりました。


しかし、そんな温かい光の裏で、崖の上のレオンを見上げるアキトの胸に宿る冷たい「疑惑」。

凄惨な戦場で傷一つないレオンの異質な守護と、敵兵の指輪と同じ手首の文様。この謎が、今後の彼らの運命をどう狂わせていくのか……。


ラスト、みんなが締め込んでくれた義足のボルトを愛おしそうに撫でながら、アキトは新しい一歩を踏み出します。


「ラストの『それこそ、空でも。』が印象的。」と思ってくださった方は、ぜひ下方の【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)】をポチッと押して応援していただけると、ここから第十二部へ向けてアキトの過酷な、けれど熱い戦いを書き抜く最強のエネルギーになります!


鉄の足を手に入れた少年が、次なる戦場でどう跳ね回るのか。

どうぞ続きをお楽しみに!

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