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夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


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『夢操の檻』第十二部:杭なき少年の、鋼の牙

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物語をお楽しみください

1. 鋼の墓場――遺された「盾」と「鎧」

島の中央、かつての物資集積所だった広場は、今や「鋼の墓場」と化していた。 ニューマザーズ攻略戦で命を散らした兵士たちが、最期まで身に纏っていた装備。主を失い、持ち帰る者もいなかったそれらが、地面に乱雑に、そして山のように積み上げられていた。


アキトは、ミナに促されるままその山へと足を踏み入れた。


「……ひどい」


思わず声が漏れた。並べられた装備のどれもが、戦いの凄惨さを物語っていた。 ある胸部装甲には、巨大な砲弾の直撃を受けた跡がクレーターのように深く刻まれている。また別の肩当てには、持ち主のものだったろうか、乾いた赤黒い染みがべったりとこびりついたままだった。


そこには、数えきれないほどの「選択肢」があった。


新政府の制式採用機を奪取した高機動型のハーフプレートから、旧政府の技術者が執念で作り上げた、人型を保つのがやっとのような超重装甲の鋳造鎧まで。

「好きなものを選びなさい」


隣に立つミナの、いつもより少し低い声が格納庫に響いた。だが、それは単なる装備選びではなかった。どれだけの血が吸い込まれたか分からない鉄の山を前にすることは、誰の「遺志」を背負って戦場に立つかという、息の詰まるような重苦しい儀式そのものだった。


アキトは、まだ冷たい金属の感覚に慣れない右足を引きずりながら、膝をついて一つ一つの装備に触れていった。

指先に伝わるのは、冷え切った鋼鉄の質感と、どれだけ拭っても落ちないこびりついた硝煙の臭い。


ある盾は、あまりに重厚で、アキトが両手で力を込めても数センチしか持ち上がらない。またある鎧は、複雑な油圧シリンダーが組み込まれ、常に微かな機械油の匂いを放っていた。誰もがアキトに、あのニューマザーズで肉の壁となって散っていった重装兵たちの後を継ぐことを望んでいるようだった。


だが――アキトの指先は、その重厚な鎧の山を通り過ぎ、格納庫の隅にある別の一角へと向かった。


「……これだ」


アキトの手が止まったのは、他の重装甲に比べて驚くほど薄く、しなやかな曲線を帯びた、漆黒の軽量複合装甲だった。

装飾は一切なく、ただ「動き、躱し、肉薄する」ことだけを目的に研ぎ澄まされた、無骨ながらもどこか美しい軽装兵の装備。表面には掠めただけの無数の弾痕が刻まれている。しかし、致命的な強打はすべてその滑らかな装甲の傾斜によって受け流されていた。


「アキト、あんた……重装兵の装備を選ばないの?」

後ろからミナの戸惑うような声が聞こえる。

「重装兵の装備はね、重ければ重いほどいいのよ。あんたの右足……ハルが調整したその鋼の義足は、どんなに重い鎧を纏っても、決して折れることはないわ。あんたは今、その一万人の犠牲の上に立った、最も堅固な『杭』になれるはずなのに」


「僕は、杭にはならない」

アキトは静かに、けれど明確に拒絶した。漆黒の胸部プレートを持ち上げる。驚くほど軽い。これなら、あの戦場で感じた、身体が泥に沈むような焦燥感に囚われることはない。


「僕は軽装兵のまま、肉弾戦で戦う。みんなの盾になるんじゃなくて、敵の懐に誰よりも早く飛び込んで、全部叩き潰す」


アキトは立ち上がり、そのままハルとエレナが作業を続けているデスクへと歩み寄った。

そして、鉄屑の山から拾い上げておいた、ある「パーツ」を二人の前にコト、と置いた。それは、重装兵の足場固定用に使う、鋳鉄製の頑丈な大型スパイクだった。


「ハルさん、エレナさん。お願いがあるんだ」

アキトは自分の右足――炭素繊維とサーボモーターでできた美しい義足を指差した。

「このスパイクを、僕の義足のすねに直接つけてほしい。それから……エレナさんの技術で、このふくらはぎの隙間に『爆発の勢いで弾かれるように加速する仕組み』を仕込めないかな」


ハルとエレナが、驚いたように顔を見合わせた。

「アキト、それって……」

エレナが口を開く。

「蹴りの速度『弾丸』にする気? ブースターの爆発的な推力で一気にトップスピードまで加速する……。理論上は可能だけど、軸になる生身の左足や体幹にかかる負荷はとんでもないわよ。一歩間違えれば、あんたの身体がバラバラに吹き飛ぶわ」


「大丈夫です。ハルさんの設計とエレナさんの技術なら、僕の神経の動きとブースターの点火タイミングを、完璧に同期させられるって信じてるから」

アキトが真っ直ぐな目でハルを見つめると、ハルは一瞬だけ呆れたように息を吐き、それからフッと、いつもの頼もしい微小を浮かべた。


「……まったく、無茶な注文をしてくれるものだ。でも、アキトの神経アダプターの最適化なら、僕の得意分野だ。その義足が持つポテンシャル、100%引き出すコードを組んでみせるよ」


「よし、決まりね! ハルがそう言うなら、アタシのメカニックとしての腕の見せ所じゃん!」

エレナが作業用のゴーグルをパチンと鳴らし、不敵に笑った。

「新政府の奴らが腰を抜かすような、世界にたった一つの一風変わった『超高速の鉄足』、アタシたちが最高のクオリティで作り上げてあげるわ!」


「ありがとう」


アキトはもう一度、手元にある漆黒の軽量装甲を見つめた。

それはハルとエレナの技術、ミナの想い、そして失った右足という代償が、最悪ではなく「最高」の形で縫い合わされた、自分だけの新しい牙だった。


右足を一歩踏み出す。

「コツ」

まだ冷たく、しかし確かにハルたちの温かい意志が詰まった金属音が、暗い格納庫の床に力強く響き渡った。


今回も読んでいただきありがとうございました!

テスト2週間前なので投稿頻度が下がるかもしれません。物語を楽しみにしている方、申し訳ございません。

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