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夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


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『夢操の檻』 第十一部:払った代償と、希望の重さ 第2話

カクヨムでも重複投稿しています

物語をお楽しみください

4. 救護所の阿鼻叫喚

マリアのテントは、死臭と薬品の匂いが渦巻く地獄だった。 いたるところに四肢を失った兵士が横たわり、血に濡れた包帯が山をなしている。


その一角で、カイトが治療を受けていた。両目を白い包帯で覆われた彼は、アキトの足音と荒い呼吸を瞬時に察した。 「……よお、アキトか。なんだよ、随分と情けねえ息遣いじゃねえか」 カイトは無理やり、いつもの傲岸不遜な笑みを作ってみせた。だが、その声は微かに震えている。


「カイト……僕は……」 「安心しろ。目が見えねえってのも、案外悪くねえぞ。余計な絶望を見なくて済むからな。……お前も、どっか一箇所くらい失くして、俺とお揃いになるか? 」

冗談で場を和ませようとするカイトの言葉が、今のアキトには鋭い刃となって刺さった。

________________________________________

5. 宣告

「……アキト? 何やってるの、こっちに来なさい!」 アキトの姿を見つけたマリアが駆け寄ってきた。彼女の顔は、今日一日の絶望をすべて吸い込んだかのように青白く、土色の隈が浮き出ている。


マリアはアキトを担ぎ上げるようにして診察台に寝かせ、その右足を見た。 瞬間、彼女の瞳に絶望的な光が宿り、次の瞬間には激しい怒りとなって爆発した。

「……バカ! あんた、本当にバカね!!」 マリアの叫び声が、テント内の喧騒を一瞬だけ黙らせた。


「なんでもっと早く言わなかったの! 毒が……神経毒が、もう膝の上まで回ってるじゃない!」

「マリアさん……これ、治るんだよね? 薬とか、解毒剤とか……」 「そんなもの、もう効かないわよ!」


マリアはアキトの胸ぐらを掴み、涙を流しながら叫んだ。

「この毒は、細胞を内側から溶かすの。一分一秒ごとに死が上に向かって這い上がってきてる。


このままじゃ、あと数時間で心臓まで届くわ。そうしたら、あんたは終わりよ」


マリアの手が震えながら、メスへと伸びた。 「……切断するわ。それしか、あんたをこの世に繋ぎ止める方法はない」


「切断……? 足を……失くすの?」 「義足になるわ。……でも、生きていれば、また歩ける。死んだら、空を見ることもできないのよ」


マリアの非情な宣告。 夢で感じた、あの軽やかな「空」の浮遊感。 それとは正反対の、あまりにも残酷で、物理的で、取り返しのつかない現実。 アキトは遠のく意識の中で、自分の一部が奪われる恐怖に、ただ子供のように泣きじゃくることしかできなかった。


静寂。 それが、これほどまでに重く、耳障りなものだとは知らなかった。

目が覚めたとき、最初に感じたのは「不在」だった。布団を蹴り飛ばそうとした右足が、自分の意志を無視して、ただ冷たく、動かない塊としてそこに存在していた。 アキトは、震える手でシーツを剥いだ。


そこにあったのは、かつてのしなやかな肉体ではない。鈍い輝きを放つ炭素繊維と、複雑なサーボモーターが組み込まれた鋼鉄の造形物。ハルが心血を注いで調整したというその義足は、機能美の極致とも言える美しさを備えていたが、アキトにとっては自分の尊厳を削り取られた痕跡にしか見えなかった。


「……そっか。もう、戻らないんだな」


ポツリと漏らした言葉は、無機質な病室の壁に跳ね返り、誰に届くこともなく消えた。 立ち上がろうとすると、右足の付け根に鋭い不快感が走る。義足と生身の境界

――そこには、絶望と希望が無理やり縫い合わされたような、醜い手術痕が刻まれている。床を叩く音は、かつての柔らかな足音ではない。



「コツ、コツ、コツ。」



乾いた、硬質な金属音。それがこれからの自分の歩むリズムなのだと、アキトは自分に言い聞かせた。

「……重いな」


独り言は、風にさらわれて消えた。右足は以前よりも確実に「重い」。しかし、その重さこそが、今の自分を繋ぎとめていてくれる唯一のでもあった。

ご覧いただきありがとうございました。


アキトの運命を大きく変える、あまりにも残酷で、取り返しのつかないターニングポイントとなる回でした。


毒が膝の上まで回り、生きるために右足を切断せざるを得なくなったマリアの涙ながらの非情な宣告。そして、両目を失いながらもアキトを気遣って「お揃いになるか?」と冗談を言うカイトの不器用な優しさが、かえってアキトの心に深く突き刺さる心理描写にこだわりました。


術後、目覚めたアキトを襲う、右足の「不在」の感覚。

布団を蹴ろうとした足が冷たい金属の塊に変わっている絶望と、床を叩く「コツ、コツ」という硬質な金属音のリアリズム。アキトの生身の少年としての尊厳が削り取られた瞬間を、生々しく描いています。


そして、アキトの足についている最新鋭の義足。これは、ハルがアキトの命を繋ぎ止めるために、自分の睡眠や体力をすべて削り、心血を注いで神経接続の調整を行ってくれた「仲間たちの絆の結晶」そのものです。


仲間たちの温かい救い。しかし、それと引き換えに失ってしまった生身の肉体。

義足の重さを引きずり、少年が「コツ、コツ」と新しい足音を響かせながら再び歩き出す次回。アキトの運命はどうなっていくのか……。


少しでも続きが気になると思ってくださった方は、ぜひ下方の【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)】をポチッと押して応援していただけると、ここからさらに加速するアキトの過酷な運命を書き抜く、最強のエネルギーになります!


次回もどうぞお楽しみに!

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