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夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


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『夢操の檻』 第十一部:払った代償と、希望の重さ

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物語をお楽しみください

1.鋼の墓標と化した孤島

ヘリが島に着陸する際の衝撃が、アキトの疲弊した脳を揺らした。 ハッチが開くと、潮の香りに混じって、焦げた鉄と生臭い血の匂いがなだれ込んでくる。

夢守の島は、今や旧政府軍の巨大な集結地へと変貌していた。


アキトは機から這い出すようにして地面に降り、その光景に息を呑んだ。 島を埋め尽くすのは、びっしりと並んだ無数のヘリの群れ。夕闇に沈みかけた空の下で、それらはまるで獲物を待つ鋼の巨鳥のようであり、あるいは無惨に翼を折られた墓標のようにも見えた。


いたるところで、衛生兵の怒号と、負傷者の呻き声が重なり合っている。整備士たちは血に汚れた機体の修理に追われ、その合間では、冷たくなった仲間の遺品を前に立ち尽くす兵士たちの姿があった。華々しい「勝利」の裏側にある、泥臭く、救いのない現実がそこには広がっていた。

________________________________________

2. 数値という名の絶望と戦果

アキトは、ふと目に入った野戦指揮所のモニターから、今回の作戦の「中身」を耳にすることになった。ハルが冷静に、しかしどこか虚無的な声で報告を読み上げている。


「……重装兵、投入千五百名。帰還……二百十八名。残りは未帰還、または戦死確定」


アキトの足が止まった。八割を超える死滅。あの鋼の壁となって自分たちを守ってくれた巨漢たちは、文字通り「肉の盾」として死の底に沈んだのだ。


軽装兵は四千七百名のうち、三千八百名以上が生き残ったが、それは重装兵の犠牲の上に成り立つ不均衡な数字だった。ヘリの操縦士や衛生兵たちも、一割以上の仲間を失っている。空を埋め尽くすほどあったヘリの群れも、百機近くが火球となって消えた。


だが、ハルの報告は残酷な「成功」を告げる。 「奪還した市民は四千七百名。……その中に、夢が判別不能な『器』を持つ者が十三名。予測を大幅に上回る戦果です」


十三人。アキトと同じ、未知の可能性を持つ子供たち。 千人以上の熟練兵の命と引き換えに、彼ら「兵器の種」を手に入れた。組織の天秤の上では、この交換は「大勝利」とされるのだ。アキトは吐き気にも似た不快感を覚え、その場を離れた。

____________________________________

3. 丘の上の誇りと、忍び寄る毒

アキトは引きずる右足の痛みを堪え、島の中心にある小高い丘へと登った。 そこからは、島全体が見渡せた。びっしりと敷き詰められたヘリのローターが、沈みゆく太陽の光を反射して、鈍い銀色に輝いている。ミナと訓練した訓練場も、いつもの食事場も全部が埋め尽くされている。


ふと、別の隊の兵士たちが興奮気味に語り合う声が風に乗って聞こえてきた。 「聞いたか? ニューマザーズだけじゃない。同時刻に行われた他の二つの拠点攻略も成功したらしい。全世界で、一万三千人以上の仲間を確保したんだってよ!」 「マジか……。それだけありゃあ、新政府をひっくり返せる。俺たちの死んだ仲間も、報われるな」


一万三千人。


その数字の大きさに、アキトは目眩を覚えた。世界が、確かに動き出している。自分がその巨大な歯車の一部として機能したのだという事実が、ほんの一瞬だけ、誇らしさとなって胸を焦がした。

(……僕も、無駄じゃなかったんだ。リナ、僕、少しは……)

泥にまみれた顔に、本当に久しぶりの、小さな灯火のような笑みが浮かんだ。


――だが、世界は、少年が前を向くことさえ許さなかった。


唐突に、その高揚感が消し飛ぶ。

右足に、煮え繰り返る火箸を直接骨の芯に突き立てられたような、凄まじい激痛が走った。


「……っ! あ、あぁ……ッ!!」


浮かべたばかりの笑みは一瞬で苦悶に歪み、アキトは丘の泥の上に無惨に崩れ落ちた。


アキトは崩れ落ち、震える手でズボンの裾を捲り上げる。

そこにあったのは、もはや人間の肉体とは思えない惨状だった。弾丸が掠めただけのはずの傷口はどす黒く壊死し、そこから太ももにかけて、不気味な紫色の筋が血管に沿って這い回っている。


毒だ。 新政府の弾丸に塗られていたのか、あるいはあの戦場の汚泥に含まれていた致命的な細菌か。 恐怖が、痛みを超えてアキトを支配した。足が、自分の意思を離れてピクピクと痙攣している。 「マリアさん……マリアさん……!!」 アキトは脂汗を流しながら、這うようにしてマリアのいる救護テントへと向かった。

ご覧いただきありがとうございました。


いよいよ物語は第11部『払った代償と、希望の重さ』へと突入いたしました!


海上要塞を落とした旧政府軍。しかし夢守の島に広がっていたのは、華々しい勝利とは程遠い、焦げた鉄と血の匂いが漂う「鋼の墓標」のような現実でした。


投入された重装兵の8割以上が戦死するという凄惨な数字と引き換えに、アキトと同じ『器』を13名、世界全体で一万三千人もの仲間を確保したという冷酷な戦果。組織の天秤の上ではこれが「大勝利」とされるディストピアの歪さと、その巨大な歯車になれたことに一瞬だけ誇りを感じ、「リナ、僕、少しは……」と小さく微笑んでしまうアキトの16歳らしい健気な心理描写にこだわりました。


しかし、そんな微かな希望をあざ笑うかのようにアキトを襲う、右足の壊死と不気味に防衛線を突破して這い回る紫色の毒。


自分の足が意思に反して痙攣する恐怖の中、マリアの名を叫びながら泥を這うアキト。この右足の「毒」が、ここから彼の運命を決定づける最悪のターニングポイントへと繋がっていきます。


「一瞬笑った直後の絶望がエグすぎる……」「紫色の血管の描写が不穏すぎて続きが気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ下方の【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)】を押して応援していただけると、書き進めるエネルギーになります!


救護テントへ這いずるアキトを待つ、さらなる過酷な現実。次回もどうぞお楽しみに!

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