『夢操の檻』 第七部:鋼のワルツと空っぽの器
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物語をお楽しみください
1. 泥と鋼の日常
ニューソウルの「清潔な嘘」に浸かっていたアキトにとって、旧政府基地での生活は、全身の皮を剥がされるような生々しさに満ちていた。 朝五時、基地内に響き渡る無機質なブザーが鼓膜を叩く。マリアに強制的に流し込まれる苦い栄養剤を飲み干すと、そこからは一日中、鉄の匂いと砂埃にまみれる時間が始まる。
「ほら、また腰が引けてる! ダンスパーティーのつもり?」
訓練場の乾いた土の上。アキトは、目の前で軽やかにステップを踏む少女、ミナの姿を追うので精一杯だった。 彼女が振るう訓練用の木刃が、アキトの二の腕を容赦なく叩く。
「……っ、く……速すぎるんだよ!」 「速いんじゃない、あんたが遅いの。予備動作が大きすぎて、次の動きを宣伝してるようなもんよ!」
ミナは猫のようなしなやかさで距離を詰めると、アキトの懐に潜り込み、彼の足を鮮やかに払った。背中から地面に叩きつけられ、肺から空気が押し出される。視界が白む中、上からのぞき込んできたミナは、不敵な笑みを浮かべていた。
「立って。次は射撃。三秒以内に標的を全部抜かなきゃ、昼ご飯は抜きよ!」
ミナの様子はどこか楽しげだった。
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2. 奇妙な共鳴
数週間の試行錯誤を経て、アキトは自分の「形」を見つけつつあった。 カイトが好む重火器は、無骨で鈍重。エレナが差し出した様々な武器の中から、アキトが選んだのは、極限まで肉抜きされた自動拳銃と、刃渡り二十サンチほどの双子の短剣だった。
「あんた、本当に身軽なのが好きなのね。それなら軽装兵がぴったりよ」
訓練の合間、冷えたコンクリートの床に並んで座り、銃のメンテナンスをしながらミナが呟いた。
彼女は自分の短剣を熱心に研いでいる。その指先は驚くほど細く、繊細だ。けれど、その手はすでに無数の戦いを潜り抜けた証である小さなタコや傷跡に覆われていた。
「……いや」
アキトは手にしたハンドガンの重みを確かめ、ふと自分の引き締まった両足を見つめた。
「重いものに縛られて、地面に張り付くような感覚も……それはそれで、心地いい気がするんだ。なんなら、いつか動けなくなるくらい重いほうがいいのかも、なんて……」
「え? 動けなくなるって……あんた、何言ってんの?」
ミナが怪訝そうに眉をひそめる。アキト自身、なぜそんな不吉な未来を予感したのか分からず、慌てて首を振った。
「あはは、冗談。でも、矛盾するみたいだけど、誰よりも軽くありたくもあるんだ。どこへでも行けるように。……例えばさ、空気を踏みつけて、そのまま空を歩いていけるような、そんな空中散歩ができたら、そりゃあ綺麗だろうなと思って」
そう言ってアキトが何気なく空中で掌を握り込んだ瞬間、ほんの一瞬だけ、手の中の空気に何か変化が起きた。
「……?」
かすかな違和感にアキトが手を開く。手を開いたり閉じたりしてみても特に変化はない。気のせいだったのだろうか?
ミナは手を止め、アキトをじっと見つめた。
「……どこまでも、ね。変な奴。でも、あんたのその感覚は、ちょっと特別かも」
二人の間には、教官と生徒という関係を超えた、友達としての連帯感が生まれ始めていた。 厳しい訓練の合間に、ハルがこっそり持ち出してきた保存食のチョコレートを分け合ったり、カイトのいびきのうるささを笑い合ったり。アキトにとって、それはリナを失った傷口を、少しずつ「今を生きる熱」で塞いでいくような時間だった。
しかし、アキトにはもう恋をする気がない。というより、恋ができなかった。愛する人を失った時のショックはよくわかっている。二度とあんな思いをするつもりはなかった。
「アキト、あんたがもっと強くなったら……いつか、私が外の世界を案内してあげる。新政府のホログラムじゃない、本当の森や、本当の海をさ」
ミナの言葉は、未来への仄かな希望のようにアキトの胸に響く。 その時までは。
ご覧いただきありがとうございました。
今回は、旧政府基地での泥臭くも温かい『日常』、そして指導係であるミナとの少しずつ縮まる距離感を描きました。
厳しい訓練の中でアキトが選んだ「双子の短剣と自動拳銃」。彼が語った「重さ」と「軽さ」への矛盾した想いや、「空気を踏みつけて歩く空中散歩」という無邪気な憧れ……。
そして、アキトが掌を握り締めた瞬間に起きた『手の中の空気のかすかな違和感』。
まだアキト自身も気づいていない、彼の本当の『 夢』の片鱗が、ほんの少しだけ顔を覗かせた回となります。これがこれからどんな形で覚醒するのか、ぜひ注目していてください。
未来への仄かな希望を胸に、アキトはさらなる地獄の訓練へと身を投じていきます。
「アキトの予兆にゾクッとした!」「ミナとのコンビが最高すぎる……けど切ない!」と思ってくださった方は、ぜひ下方の【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)】で応援していただけると、アキトの能力が爆速で目覚める凄まじい執筆のエネルギーになります!
牙を研ぎ澄ます少年の運命を、次回もどうぞお楽しみに!




