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夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


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『夢操の檻』 第5章:泥の中の重力と、青き夢守の島

カクヨムでも重複投稿しています

物語をお楽しみください

1. 慈愛の毒と、鋼の矜持

「レオン! またそんなボロ布みたいな顔の少年を連れ回して。さっさとこっちに寄こしなさい!」


鋭い声が飛んできた。振り返ると、山積みになった救急箱の陰から、一人の女性が腕まくりをして歩み寄ってくるところだった。 白衣の裾には、拭いきれなかった古い血痕が染み付いている。


「彼女はマリア。このチームの『命』を繋ぎ止めている軍医だ」 レオンの紹介を無視して、マリアはアキトの頬を無理やり掴み、瞳孔を覗き込んだ。


「ひどいね。涙で角膜が腫れてる。……いいかい、少年。ここでは泣くのは自由だけど、水分不足で倒れられるのは迷惑なんだよ。」 吐き捨てるような言葉。けれど、彼女がアキトの腕に貼った鎮痛パッチからは、じわりと優しい熱が伝わってきた。


「マリア、あまり新入りをいじめるな。そいつの『牙』が折れちまうだろう」 背後から、火花を散らしながら低い声が響いた。 そこには、巨大な溶接マスクを跳ね上げた女性が立っていた。彼女の筋肉質な腕には、数えきれないほどの火傷の跡がある。


「私はエレナ。武器の仕立て屋さ。……あんた、リナって子の形見は持ってるかい?」 アキトが息を呑むと、エレナは冷たく笑った。 「待ってな。そいつをいつか、私の作る銃の部品に組み込んでやる。死んだ奴の恨みってのは、火薬よりも確実な弾道を描くんだよ。あんたがその気になればの話だけどね」


マリアの「生への執着」と、エレナの「死の加工」。二人の女性が放つ圧倒的なリアリティに、アキトは自分が「綺麗事の通用しない場所」に立っていることを痛感した。


2. 盾と、嘘を暴く目

レオンはさらに奥へ進む。そこには、大量のモニターと、分解された重火器が散乱する「作戦準備室」があった。


「おい、ハル! この回路、何度繋ぎ直せば気が済むんだ! 弾詰まりが起きたらどうすんだよ!」 「落ち着けよカイト。それは君の使い方が荒すぎるからだよ。力任せに引き金を引くのが悪いんだ」


言い争っていたのは、二人の青年だった。 眼鏡を指で押し上げながら、ため息をついているのが通信担当のハル。 そして、その隣で自分の身長ほどもある機関銃を振り回している大男がカイトだ。


「レオンさん、これが例の? ……ふうん、思ったより…華奢だね」 ハルがアキトをスキャンするように見つめた。 「僕はハル。新政府の嘘をハッキングして、君たちが信じていた『幸せな夢』がどれだけ安っぽいコードで書かれているかを解析するのが仕事だ。……君、まだリナというプログラムに汚染されてるね。早く消去しないと、次の戦いで死ぬよ」


「なんだと……っ!」 アキトが色めき立った瞬間、カイトがその巨体でアキトを押し込めた。 油と火薬の、噎せ返るような匂い。 「……ガキ。ハルの言うことは正しい。俺はカイト。重火器担当だ」 カイトの瞳には、深い隈と、容易には消えない殺気が宿っていた。


「俺はな、新政府の兵士になった弟を、この手で撃った。あいつは笑いながら、俺を殺そうとしたんだ。……操られている奴らに情けをかけるのは、自分を殺すのと同じだ。お前にその覚悟があるか?ははっ、いい顔だ坊主!」


カイトの問いは、刃のようにアキトの喉元に突きつけられた。 しかしカイトは同時に場を明るくしている気がする。彼らは皆、自分と同じか、それ以上の絶望を乗り越えて、この暗闇に踏みとどまっているのだ。


3. 老将の知恵と、最速の死神

空間の最奥。そこには、古びた木製の机を囲んで、一人の老人が静かに座っていた。 傍らには、二振りの短剣を執拗に研いでいる少女の姿がある。


「……来たか。」 老人がゆっくりと顔を上げた。 「私はジン。」 ジンは火のついていないパイプを咥え、アキトの魂の底を見透かすような眼差しを向けた。


「少年。レオンから聞いたぞ。お前は自分の夢を自覚せず、ただ『目覚めた』。それは祝福ではなく、呪いだ。ここでは誰もがお前の味方ではない。だが、お前が牙を持つならば、我々はお前の手足となろう」


ジンは傍らの少女に目配せをした。 彼女は研いでいた短剣を、一瞬の澱みもなくアキトの鼻先に突きつけた。 「……私はミナ。教育係よ」 アキトと同い年、あるいは少し下だろうか。冷たい、凍てついた瞳。


「あんた、リナを助けたかったんでしょ? でも結果は、彼女を殺させた。弱さは罪なの。ここでは、一秒の迷いがチーム全員の命を奪う」


ミナは短剣を鞘に収め、吐き捨てるように言った。 「明日から、あんたの体を、鍛え、作り変える。覚悟しておきなさい」


4. 泥の中の灯火

基地の案内が終わる頃、アキトの心は、出会った五人の強烈な個性に圧倒されていた。 レオンへの信頼。マリアの罵倒。エレナの冷徹。ハルの皮肉。カイトの怒り。ミナの殺気。 そして、ジンの静寂。


彼らは、ニューソウルという「偽りの楽園」では決して出会うことのなかった、生身の人間たちだ。 彼らは人を殺す苦しみを知っている。友を失う痛みを知っている。 だからこそ、彼らの言葉には、剥き出しの鉄のような重みがあった。


「……レオン」 アキトは、前を歩く男の背中に声をかけた。 「俺は……。強くなれるかな。あいつらみたいに」


レオンは立ち止まり、振り返った。 その姿が、地下の非常灯に照らされて不気味な影を落とす。レオンの夢、真実を知る由はない。


「……強くなる必要はない。ただ、生き残れ。生き残って、お前を弄んだあいつらに、本物の『現実』を見せつけてやれ」


レオンは再び歩き出し、アキトを宿舎へと促した。 背後で響く声、それは、リナの甘い囁きよりもずっと、アキトの冷え切った心を温めていた。


アキトは右手を強く握りしめた。 リナ。君の温もりは、もうこの手にはない。 けれど、この泥まみれの地下で、僕は初めて、自分の足で立ち上がるための「重力」を見つけた気がした。


基地の喧騒は、夜が更けても止むことはなかった。


5. 人間らしい生活

翌朝、レオンに連れられ、地下の基地から初めて外に出た。久しぶりの陽光。目がくらむ。『ようこそ我々の基地。「夢守の島」へ。君を旧政府軍に歓迎する。』目が慣れてくると、そこには自然が広がっていた。


透き通った青空。草花が咲き乱れる森。サファイヤのように深く濃い海。荒廃した都市と人口のニューシティーしか見ていなかったアキトはすべてにひきつけられていた。特に空。あの空に飛び立てたらどれほど気持ちがよいのだろう。


ある日の午後、訓練場の埃っぽい空気の中に、レオンが一人の少女を連れて現れた。


「……今日から、ミナがお前の実戦指導を行う。」


あの時剣を突き付けてきた少女、彼女が腰の短剣を抜いた瞬間、その場の空気が一変した。

「……」


ミナの姿が視界から消えた。 「――ッ!?」 アキトは反射的に身を沈めた。鼻先を、鋭い銀光が通り過ぎる。速い。重火器を扱うカイトや、重厚な指揮を執るジンとは全く違う、速度。 ミナは軽量武器の専門家であり、その動きは舞踏のように美しく無慈悲だった。


「あら、意外。ニューソウルの『お坊ちゃん』にしては、マシな反応ね」


ミナの瞳には、冷たさの裏に隠しきれない好奇心が宿っていた。それからの数日間、アキトは彼女に徹底的に叩き込まれた。刃を交え、共に汗を流す時間は、悲劇を忘れるための唯一の救いだった。

ご覧いただきありがとうございました。


今回から、物語は待望の新章『泥の中の重力と、青き夢守の島』編へと突入します!


軍医のマリア、武器鍛冶のエレナ、ハッカーのハル、重火器担当のカイト、そして老将ジン。それぞれが簡単に拭えない絶望と過去を背負いながら、暗闇に踏みとどまっている生身の人間たち。彼らの言葉の一つ一つが、アキトの冷え切った心を少しずつ温めていく描写には、執筆していて思わず熱が入りました。


そして後半、アキトの前に広がった「本物の大自然と、透き通った青空」。

偽物の街しか知らなかったアキトが空を見上げるシーンは、彼のこれからの運命に深く関わる大切な一歩となります。


ラストは、指導係となったミナとの息をもつかせぬ実戦訓練!

刺々しかった彼女が、アキトの反応を見て見せた「小さな好奇心」……。これから二人がどんな戦友になっていくのか、ぜひ期待していてください!


「新キャラたちが全員魅力的すぎる!」「ミナとの訓練、これからの展開がワクワクする!」と思ってくださった方は、ぜひ下方の【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)】でアキトとチームの背中を押していただけると、毎日の更新がさらに爆速になります!


次回、アキトの牙がさらに研ぎ澄まされる第6話もお楽しみに!

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