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8 竜士育成専門学校 テスト

授業が始まり、勉強に追われる日々が始まった。

ルザロワ達は授業が始まる前と1日の終わりに竜舎に行って竜達のお世話を手伝わなければならない。

整備士候補、ミカ達は一日4回だ。夜の当番は飛行士候補と組まされ、順番に回ってくる。


ルザロワが夜番の時はミカとだが、コナーも付いてくる。

申し訳無いと思いつつ、一回エレンと竜舎で出会ってからずっと頼んでいる。

間が悪くミカが忘れ物を取りに行っている間、竜舎に居る所にやってきたのだ。


エレンも忘れ物を取りに来ただけだと言っていたが、ルザロワに近付いてきた。

「珍しくひとりだね?あれから、待ってるのに全然来てくれない」

「ペアを待ってます。もうすぐ来ます。先輩のご指導には付いていけませんので」


そっと距離を取ろうとして、手首を掴まれた。

『早い!』

慌てて手首を回してエレンの手を外すと後ろにジャンプした。

エレンはそれにも付いて来て飛び込んでくるので、やむを得ず思い切り突き飛ばした。

「うっ!」エレンは2メートル位後ろに飛ばされ、転がった。


「もう、近付かないで下さい!僕はあなたと付き合う気はないんです」

やっと言ったが、エレンは横になったまま動かない。

「エレン、先輩?」

また、力を入れ過ぎた?どうも、ルザロワは怪力の持ち主らしいのだ。気を付けてはいるが咄嗟に手加減できなかった。


「先輩!」思わず駆け寄って跪いた。

目を閉じていたエレンは瞬きすると素早くルザロワを

抱き込んだ。

「うわぁ!」

「詰めが甘いよ」エレンは耳元で言ってそのまま耳を舐めた。

「いやあ」ルザロワはゾッとして離そうとしたらひっくり返されて押さえ込まれた。


「そんな顔しないで、付き合おうよ。今度から優しくしてあげるからさ!勉強や実技も手伝うよ?」

「結構です!離して下さい!」


「何してんだよ!」

「あら」

走って来たコナーとミカによってエレンはルザロワから引き離された。

ルザロワはほっとして起き上がった。

エレンは二人を振り払うと「ルザロワ、またね〜」と言いながら去った。


「ごめん、無理、私だけじゃあの人、対処できない」ルザロワは蹲ったまま頭を抱えた。

「あの人、一年から成績トップ独走中だって。なのに生活態度全般が悪いって…」ミカが恐る恐る言った。

「何人も恋人いるらしいよ」

「え〜私は要らないじゃないですか」

「最悪だな!」


「コナーありがとう、後はミカと当番するから帰って寝て?明日も早いし」

「もう来ねえだろうな?」

3人分かれて辺りを見たが、いないようだった。


もう真夜中近い。

コナーは欠伸しながら帰っていった。

ルザロワはいつの間にか3つも外されていた前のシャツのボタンをミカに直され赤面した。


「あの人、本当に動きが速くて、付いてくの必死だったんだ。さすが学年No. 1だ」

「付いてけるだけで凄いよ!」


ハプニングはあったが、エレンはこれ以降は大人しく、はならず、会うと必ずちょっかいかけてくる…


初めてのテストは無事終わり、3日間の休みに入る。

赤点保持者は休み明けに追試なので居残りだが、部屋のメンバーは1から4位まで不動だった。

休みの間はウィル以外帰省する。


ルザロワは気が進まないが、無理を通したこととヘイリングに言われているので、帰ってみることにした。


「え、荷物は?制服で帰るの?」

ミカに聞かれてルザロワは首を傾げた。

「服は家にあるし、一泊しかしないから勉強は帰ってきてするから、何もいらないよ?」

「そうなんだ、僕達居ないのに、エレン先輩は大丈夫?」

「ウィルに頼んどいた」コナーが親指を上げて机に座って本を読んでいるウィルを指差した。

「ええ!よく承知したね」

「この3日間の夕飯おごるって」

「僕が出すよ、そんなの!」

「まあ、いいって事!じゃあな」


荷物を持ったコナーが先に出た。

「帰ってきたらコナーに奢るからね!」

後ろ姿にルザロワは声を掛けた。


「やれやれ」

「外まで一緒に行く?」ミカがルザロワの袖を掴んで言った。

「え、うん、いいよ」ルザロワはミカの仕草が何故か可愛く思えてキュンとした。 


ミカはその外見からモテるのだが、誰もが断られている。

生真面目なミカだから、整備士の資格を取るまでは色恋は後回しなんだろうな、と思う。毎晩遅くまで勉強している。


「僕はあっちの停留所からの竜車に乗るから」

「貴族街の手前?」

「うん、叔父が手前の商会に勤めてて、その近所に住んでるんだ。そこを間借りしてるから」

イクォリティ社の末端の実際にある商会で、デフレンド人相手の小売店だ。イクォリティ社との繋がりはデフレンド人には知られていない。

ビルがガードナーの実家と指定している。


「僕は正反対だからなあ、ここでお別れか」

「うん、じゃあ、また三日後に!」

「待って」

ミカはルザロワを引き留めた。

「エレン先輩には気をつけてね。部屋に入れたり、行っちゃダメだよ」

「当たり前です!そこまで不用心じゃ無いよ」

「心配なんだ、ルザロワ、優しいから」


ミカはルザロワの頬をかるく押さえると、そのまま軽くキスした。

「ミカ?」

「先輩よけ!じゃあね!」


ミカはカバンを持ち直すと走って行ってしまった。

「え?」

ルザロワは一瞬の事で理解が追いつかなかった。

「えー⁈」

ぼっと音がしたかと思うほど顔が熱くなった。


ルザロワは居ても立ってもいられなくなり、走って停留所まで行った。

「ミカ、私のこと好き、なのか?」

ぼーっと考えた。

「そうなら、いいな」

休み明けに確認しようと決意した。



貴族街ギリギリの停留所を降りて歩き出すとまもなく横に魔石車が付いて来た。

「シュガー」

ルザロワは思わず飛び退いた。

「失礼致しました。ビルです。お迎えにあがりました」


ルザロワは仕方なく乗り込んだ。魔石車はほんの一部の貴族しか所有していない。目立ちたくなかった。

「帰る時間教えてなかった?」

「だからお迎えに」

「ずっと待ってたの⁈」

「エディの命ですから」

「ビル」


ビルはふふっと笑った。

「失礼しました。実際は校門を見張らせて、あなたが出て来た時に知らせるように」

「そこまでしてエディの命令をきかなくていい。私は必ず帰るんだから!」


ミカとのやり取り、キスもを見られていたと知って思わずイラっとした。

「一泊だけと伺ってますが?」

「テストの点数が思わしくなくて、かろうじて1位だったから、帰って復習する時間を取る為です。それに文句言われるとわかってて、長居したく無いです」

「賢明なご判断です。エディは2、3日前から挙動不審です」

「脅かさないでよ、ビル」

「エディの午後の予定は有りません」

「止めてったら!」

ルザロワは大きなため息を吐いた。


邸について部屋で置いてあった着替えてから、談話室に行こうとして、服の肌触りの良さに気付く。

前は何とも思わなかったが、今はまだ、こちら側にいる人間だと知らせてくれる。


「さっさと終わらせよう!まずは報告!」

ルザロワは気合いを入れようとわざと大きな声で言った。


談話室に行くと、既にヘイリングが待っていた。

「ただいま帰りました、エディ。お変わりなく」

向かいのソファに腰を下ろした。

「そうだな、シュガーがいない事以外は普通だった」

「…慣れて下さい。次は当分先ですので」


ビルが淹れてくれた紅茶を飲んで卑屈にならないよう応えた。

「昼はミューアホテルのシェフが振る舞ってくれる」

「それは、楽しみです」

公爵家が昔から贔屓にしているホテルだ。此処じゃなくてホテルで夜景を見ながら食事できたらいいのに。

実際は人の目があるから無理だが。


ルザロワは学校の事を淡々と話した。

今は竜に乗って歩いて方向を自由に変える訓練を行っている。

テスト明けに、実技の確認があって、、それで合格点をもらえるといよいよ飛行士として飛ぶ訓練に移る。

整備士は、一番デリケートな羽の手入れをさせてもらえる。


エレン先輩に誘われて初日に飛行する竜に乗ったことは内緒だ。屈辱的でもあるし。


ヘイリングは、「ソードを使用した訓練は無いのか?」と訊いてきたので、

「それは竜飛行士特殊処理隊に入隊予定の者が、卒業の半年前から訓練を受講できます。平時はソードのみの打ち合いは電撃を入れずに個人的におこなうだけです」

「シュガーはここにいる時に既に習得しているな?」

「はい、一応。でも対人経験がほぼ有りませんので、打ち合いに参加しています。放課後のクラブ的なものでしょうか?素人の人には、請われて指導のようなものをしてます。一年生では僕が一番強いみたいなのですが、2年生で強い人がいます。その人には勝てた事がありません。他の二年生なら五分五分なのですが」


エレン先輩だ。この前無理矢理相手をさせられて、負けてしまい、喫茶室に連れ込まれてコーヒーを奢らされた。他の人の目が合ったので無体な事はされなかったが、それから対戦を避けている。


最近はコナーと、新たにジョナサン・ケネットが相手だ。

身長が165センチから伸び悩んでいるルザロワと違ってジョナサンは190センチも有るので、いい訓練になる。


ルザロワは身長も低いが、身体も細く、まだ少年の雰囲気が色濃く残っている。

なのにジョナサンのソードを力任せに打ち飛ばしたり、体技で余裕で組み伏せたりするので不思議がられている。

ルザロワは普通に思っていたが、かなり怪力らしい。



ヘイリングはルザロワの話に特に反論はせず、興味深そうに聞いていた。

昼前に、ヘイリングは仕事のチェックをすると執務室に戻った。

ルザロワは茶器を片付けてワゴンに乗せると台所へ持って行った。


台所は昼の準備らしく、コックが数人働いていた。

デフレンド人のコック見習いの子がいたので、ワゴンをその子に預けて去ろうとしたらコックの一人が

「持ってくるだけか、台所にいる者が、片付けりゃいいと思ってやがる」

と毒付いた。


「そんな事はないです。いつもは片付けますが、外部から招いている方々の所に僕が入ると邪魔になるかと思いましたが?」

「デフレの癖に生意気な言い方だなオイ、もういい、さっさと行け、目障りだ」

下働きの子は青い顔をして震えている。

コレは僕に気を遣っているのか、コックを恐れてるのか?まあ、いいや。

ルザロワはその子の肩を軽く叩くとエプロンのポケットにワゴンに乗ってたお菓子の残りを入れてあげた。


「どんな料理が出るのか楽しみです」

ルザロワは自分が体格の悪いデフレンド人下働き扱いされても仕方無いな、と思いつつ去った。




昼に食堂へ行くと、ビルがドアの前にいた。

「ビルも一緒に食べれるの?」ルザロワは二人だけの食事じゃないんだと喜んで言った。

ビルは少し困った顔をした。

「先程はすみません、お茶のセットを片付けて頂いて」

「いえ、いつもの事だし、お礼なんて」

「やはり、あなたでしたか」

「ええっ、僕何かしてしまいましたか?」

ビルは咳払いをして居住まいを正した。

「あなたではありません。あなたに対するコックの態度です」


「ああ、あれ?間違えただけだろう?普通、家人は台所に出入りしないだろうし、デフレンド人の僕がこの家の者だと知らなかっただけだ。しかも今日のコックは外部の人間だしね」

あの子には口止めしといたのにな。お菓子位じゃ駄目だったか。

「あれはクビにさせますので」

「大袈裟です、勘違いでそこまでの罰じゃ無い」

「いいえ、あのような態度をこの家でやらせた事が問題なのです。ヘイリング家の沽券に関わりますので、ホテルにも厳重注意しておきました。我々が何もしなくてもどうせ解雇されるでしょう」


「面倒で注意しなかったが、ヘイリング家の名まで持ち出されると、申し訳ないです。僕が対処すべきでした」

「わかってくだされば良いのです。食事はできております。エディはコックの前で全部処分しろと言ったのですが」

「えっ、できてるんなら頂こうよ!」

「あなたならそう言うかと思いまして待っていただきました」



中に入ると、いつもは居ない給仕人が2人いた。

2人は深々とお辞儀をして、1人がルザロワを席まで案内した。

「ワインはどうされますか?」

「食前酒だけでいいです。後は水で」

「かしこまりました」


ヘイリングが後からやって来た。

「お前は怒って良かったんだ、シュガー」

いつもより冷たい表情をしている。これは、かなり怒ってるな。

給仕人2人が固まった。

ルザロワはにっこり笑って見せ、カクテルグラスを持ち上げた。

「エディ、僕は気にしてません。食事は楽しく頂きましょう?これ、美味しいですよ」


「では一杯だけ。後はワインで。勧めるのでいい」

ソムリエはルザロワの時と違って可哀想なくらい緊張しつつグラスに酒を注いでいた。


食事は文句無く美味しかった。寮の食事もおいしいのだが、やはり、コレがいつもの食事だ。

シミひとつない美しいテーブルクロスに、コーディネートされた花が飾られた広い食卓。顔が映るかと思うほどの磨かれた食器やカトラリー。繊細に盛られた料理が順番に出てくる。食器は給仕人が上げ下げしてくれる。


寮の食事室はクロスも無く、肘が当たりそうなほど隣と近いテーブルに並んで座り、仕切りのついたプレートに豪快に盛られた料理を渡された時は絶句して、何から食べればいいか戸惑ったことを思い出して口角が上がった。今ではすっかり慣れた。


「美味しいです、さすが有名ホテルのランチです」

本当に美味しいのだが、重ねて言わないと、ヘイリングがホテル側に更に無茶を言いかねない。

デザートのケーキを少しずつ味わう。


「あのホテルは売ったほうが良いのではないか?」

ルザロワは紅茶を噴きそうになった。

「お、大袈裟です!たかが1人の為にそこまでする必要はありません。あのホテルではデフレンド人は来ないでしょう?問題ありません」


「ディナーはキャンセルだ。違うレストランに頼んだ」

「はあ、やっぱり。ディナーも楽しみにしていましたのに」

「私が不愉快だ」

「でもランチは付き合ってくださいました。ありがとうございます」

「お前の頼みだからな」


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