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7 竜士育成専門学校 竜との触れ合い

エレン・マクガイヤは先導して竜舎へ向かった。途中竜舎横の鞍置き場に寄って自分のを取る。


「乗るのにコツとか有りますか?」ルザロワは目を輝かせて鞍を見た。

「そうだな、その内わかるよ。ミルン!」

竜舎でエレンは竜に呼びかけた。

クウ、と一匹が応えた。


エレンは躊躇無く近寄るとポンっと竜ミルンの頭を叩いて言った。

「今日もご機嫌だな、ミルン、良い子だ。俺の後輩を紹介するよ。ルザロワとコナーだ。ちょっと相手してやってくれよ」


緊張している二人をミルンの前に促した。

「やあ、私はルザロワ、よろしくお願いします」

「コナーだ。よろしくな」

なるべく落ち着いて言った。


ミルンは二人を交互にフンフンと匂いを嗅いで、クウ、と鳴いた。グルグル喉を鳴らしている。

「良かったな、気に入られたみたいだ。喉撫でてやれ」

二人はホッとしてミルンの喉を撫でてやった。


「怖がって十分なコミュ取らないで、いきなり鞍乗せたりするから機嫌悪くなるんだよ。最初の『挨拶』は入念にな。って散々な目に遭ってから言われんだよ。ほんっとに人が悪い教官ばっかだからな、気を付けろよ」


二人は鞍付けのやり方をエレンに習って、取り敢えずルザロワから乗ってみることにした。

「ミルン、よろしくね」

ルザロワは()()()()挨拶してから片側が梯子状になっている鎧に足を掛けてよじ登った。


「うわあ」

ミルンは取り立てて大きな竜では無かったが、背中までの高さが約3メートル、上に乗ると4メートル近い高さから見ることになる。背筋が自然と伸びる。

「素敵だよ、ミルン!」

「喜んでないで早く安全ベルト締めろ!」いつまでもキョロキョロしているルザロワに、エレンが呆れて言った。


「は、はい!これですか?」鞍の後ろから伸びる2本のベルトを取ると前に回し、もう一本腰にするベルトに取り付け、腰のバックルを閉めた。


「よし、歩くぞ」

エレンは手綱を取って廊下への仕切り棒を外した。

「良いんですか⁈」

「大丈夫だよ」

ミルンは引かれるまま大人しく歩き出した。


竜舎から出ると、ミルンは軽く羽ばたいた。

「凄い!大きい翼だね」

ルザロワが見惚れていると

「ちょっと、手綱持ってて?」

エレンは気軽にルザロワに渡した。

「え?どうやって持てば良いんですか?」


エレンは片手を上げて、ミルンに指をそれぞれ折り曲げたり開いたりするのを見せ、楽しそうに大声で言った。

「飛べ、ミルン!」

ミルンは嬉しそうに鳴くと飛翼を羽ばたかせた。


「嘘でしょ、先輩!」ルザロワは急いで降りようとして、ベルトを締めていたことに気付いた。

「あ」

「ルザロワ!駄目だ、掴まれ!もう浮いてる!」

コナーが怒鳴った。

「嘘ー⁈」


ミルンはそのまま、ほぼ垂直に高く浮かび上がると飛び出した。

「うわあ!」ルザロワは浮遊感に思わず首の方へしがみついた。

「ルザロワ!」

コナーが叫ぶも、あっという間に見えなくなってしまった。


「先輩!ルザロワは操縦とか、全然知らないのにどうすんだよ!」

エレンに食ってかかるも、エレンは涼しい顔で

「いやー、普通は飛んでくれないんだけどなあ、よっぽど気に入られたんだろ。良かったな」

「何呑気な事言ってんですか!ルザロワが振り落とされたらどーすんだ!」


「ベルトしてたし、ミルンが認めた子ならそんな事しない。その辺一周したら帰ってくるから、お前も心積りしとけよ」

「え?」

「次お前の番だからな」

「ええー!」


暫くしてミルンはしれっと帰ってきた。

コナーはしがみついたままのルザロワにホッとした。

「大丈夫か!ルザロワ!」


「今地上?」

フラフラと上半身を起こすルザロワ。

「そうだ、偉いぞ!気を失わなかったのか。降りていいぞ。」

エレンはミルンの手綱を取ると可笑しそうに言った。

ルザロワの手が震えてベルトが外せないのを見かねてコナーがよじ登って外してやった。


先に降りたコナーに抱え込まれるように降りたルザロワは、口を抑えるとよろめきながら離れていく。

「ルザロワ⁈」

「あー、やっぱり気持ち悪くなったのか。吐きに行ったんだろ」


コナーが後を追うと、エレンの言う通り少し離れた溝のそばで、へたり込んで吐いてるルザロワがいた。

「大丈夫か!怪我とかは?」

「無いです。風圧が、凄くて、うえ、昼食べ過ぎたら、ダメですね」


「どうする?コナー?君は止めておくかい?」

エレンは揶揄うように後ろから声を掛けた。

ルザロワはビクッと肩を振るわせた。


コナーはルザロワの様子を見て、ちっと舌打ちした。

「乗るに決まってんだろ!次に吐くのは俺だ!」

「コナー、無理しないで、最初からコレが目的でしょう」

ルザロワは咳込みながら言った。

「わかってるさ。でも、今更引けない!行ってくる」


代わってミルンに乗ったコナーは歯を食いしばって、同じように飛んで行った。

「あいつ、根性有るな」

エレンはわざとらしく手でひさしを作ると見送った。


フラフラと立ち上がったルザロワに

「あそこに水飲み場有るから口濯いでこい」

とエレンは言って指差した。

「どうも」

何とか言ってルザロワはそこまで行くと口を濯いでため息をついた。


気合を入れてエレンの元へ戻ったがコナーはまだ戻っていなかった。

「下は見れたか?もたれていいぞ」

エレンはルザロワの肩に優しく手を回して引き寄せた。

「見ましたが急激に気分が悪くなってすぐへたってました」

「正直でよろしい。すぐ慣れるさ。ご褒美」

エレンはルザロワの額にキスした。


「え?」ルザロワは迫ってきたエレンを押し除けようとしたが、こんどは強引に口にキスされた。

「な、何ですか、いきなり!」

エレンは真面目な顔で言った。

「貴重な俺の休み時間を使って、指導してあげたんだ。ご褒美位貰わないとな」

「いや、思い切り楽しんでたでしょう⁈止めてください」


「ルザロワは入学式で目をつけてたんだ。俺は進行係だったんだけど気付かなかった?」

「え⁈あの時は緊張して周り見てなくて」

「そうか、じゃあ、今日声をかけてくれてありがとう」


エレンはルザロワを抱きしめると更に舌を絡める深いキスをしてきた。

「んー!?!」突き飛ばせそうだったが、先輩だし、騒ぎを起こしたくなくて固まってしまった。

「お前〜何してんだ!ミルン!エレンをルザロワから離せ!」

急降下してきたミルンは嘴のように尖った口でエレンの頭を突いた。

「うわっミルン、何すんだって、コラ止めろ!」


ルザロワはこの隙にエレンから逃れると、コナーはまだエレンを追いかけて突いてるミルンから飛び降りてルザロワに駆け寄った。

「コナー!良かった、無事に帰ってきて!」

ルザロワはコナーを見て安心したが、コナーは怒り心頭に発っした。


「俺がちょっと居ない間に、何いちゃついてんだよ」

「誤解だよ!先輩がいきなり!」ルザロワは急いで袖で口元を拭った。


「わかってる!エレン先輩?どこから計画してた?」

ようやくミルンを宥めたエレンは笑い出した。

「最初からだよ。よく、僕に指導を仰いでくれた!もう二人ともベテランだよ!僕が保証する!」


「もう、帰っていいよ」と笑いが止まらないエレンを置いて、コナーは憤然としながら、色々ショックで足元が覚束無いルザロワを連れて寮へ帰った。



「くっそー、酷い目にあった!アイツ奴!今度会ったら逆さ吊りにしてミルンに乗せてやる」

ルザロワはベッドに横になってぐったりしながらも微笑んだ。


「まあ、でも、僕等一年生で一番先に竜で飛んだんですよ。補助無しで!」

コナーはベッドの前で頭を下げた。

「すまん、ルザロワ、俺が誘ったせいでみすみすエレン先輩の罠に嵌まっちまった」


「コナー!」

ルザロワは慌てて起き上がった。

「君のせいじゃ無いよ!たまたま、あんな先輩に頼んだのが、悪かった…?」

「どうした?」

「いや、どうしてエレン先輩は一人で談話室にいたんですか?そういえば2年生は授業中でしょう?」


コナーはあっと叫んた。

「あいつ、最初から一年が訪ねてくるのを狙って待ってたんじゃ…」

「有りえる。あのエレン先輩なら、否定できません」

二人は同時に盛大にため息をついて、可笑しくなって笑い出した。


「ミルン、竜って賢いですね!僕が気分悪くなったのわかったのか、速度落として、ちゃんと低いところ飛んでくれたり、手加減してくれてましたよ」

「俺の言う事聴いたしな」

「あれはミルンがヤキモチ焼いたのかも」

「いい気味だ」

コナーはせせら笑った。


ルザロワは額に手を当てた。

「途中飛んでる爽快感を感じて気持ちいい時もあったけど、下を見たらすぐ気分が悪くなって…情け無い。しがみつくのが精一杯だった。コナー凄いな」


「俺も、似たようなもんだ。気を失いそうになってふと下を見たら、ルザロワがエレンに抱きつかれてるのが見えたから必死だったんだ」

「ごめんなさい、入学初日に先輩を突き飛ばしていいものか躊躇ってしまった」


「え、そんなの、うーん、」

「でしょう?嫌だな、今後も絡んで来るでしょうね」

「断固として断れよ!」

「勿論です。先輩だから一年辛抱すれば、大丈夫」

「お前、そんな呑気なこと言ってたら、あっという間にセフレにされるぞ」


「せふれ?」ルザロワは首を傾げた。

下町の言葉だろうか?セフレにされる?どう言う意味だろう?あまり良いものではなさそう。


「恋人では無く?」

「恋人になりたいのか⁈」コナーが驚いて言った。

「え、絶対嫌です!あんな意地悪な人!」

ルザロワは慌てて言った。

「ホント、関わらない方がいい」

「なるべく会わないようにします」

「俺も気を付ける。なるべく一人にならないようにしろ」

「まだ入学したばかりだから、一年も注意深くエレン先輩を避けなきゃならないとか嫌だなあ」

ルザロワはその長さに気が遠くなった。


「夕飯まで寝てていい?凄く疲れた」

「ああ、明日から実習もあるしな。予習は夜にやりゃいいだろ。起こすよ」

ルザロワはまだ本調子ではなかったのか、すぐに寝てしまった。


ミカとウィルが帰ってきた。

ウィルは教科書を持つとまた直ぐ出て行ったが、ミカはベッドを見てルザロワが寝ているのに気付いて近付いた。


「ルザロワ?寝てるの?どこか具合悪いの?」

「あー、大した事は、あるかも。先輩にちょっかいかけられて、落ち込んでんだ。後単純に疲れてる。夕飯行く時起こしてくれって」


「え、何それ?いきなり何したの?」

コナーはため息をついた。

「俺が軽率だった。詳しくは夕飯時に話す。もしくはルザロワからも訊いてくれ。シャワーしてくるから見ててくれないか?ルザロワはある先輩から目をつけられてる。当分一人にさせないでほしい」

「わかった!気をつけるよ。後でみんなで一緒にご飯行こう!それでいい?」


「そうだな。食堂で会う確率高いから、周りを固めるしか無い。ごめんな、手間かけさすけど」

「良いんだよ、気にしなくて!」

ミカは手を振って応えた。


コナーがシャワー室へ行ってから暫くしてルザロワの目が覚めた。

「ルザロワ、気分どう?」

「ミカ。うん、だいぶ良くなった。ありがとうミカ、コナーは?」

「シャワー浴びてくるって」

「あ、夕飯までまだ時間ある?僕も浴びたい」

「うん、じゃあ、僕も一緒に行くよ。一人にならないほうがいいんだろ?」


「コナーから聞いた?」

「いや、まだ、ちゃんとは。先輩に目を付けられたって」

「あー、そう、いきなり、抱きしめられてキスされて。入学式で目を付けてたんだって。こっちは全然知らなかったのに」


「抱きしめてキス⁈」

ミカは驚いて叫んだ。

「無理矢理です!嵌められたんだ。コナーと2人で」

「付き合わないよね?その先輩と」

「絶対無い!強引な人は大嫌い!思い出したら腹立ってきた」


ミカはルザロワの左手を取った。

「本当に付き合わないでね」

「当たり前だ!ミカ、あんなのより、ミカの方が数千倍良いよ!いや、比べるのも烏滸がましい。あの人最低だよ」


ルザロワはミカの手を更に上から握って振った。

「ふふ、良かった」

ミカは赤くなって照れ笑いした。

ルザロワも言いすぎたかも、と赤くなった。


ミカは更に近付くと、そっとルザロワにキスした。

「え?」

「上書きしといた。コレでルザロワは今日僕とキスした、で終わる。いいでしょ?」

「う、え?そうなの?」

「そうそう!早くシャワー行こう!着替え用意しよう」

「うん…」

ルザロワはしっくり来なかったが、深く考えるのを止めた。

顔が真っ赤になってるのが自分でもわかった。

上書きって、できるの?


シャワー室で、浴び終わったコナーと会い、中にエレンがいない事を確認してから入った。

夜はみな食堂で食べるが、1年と2年で食べる時間差が有るので、そんなに被らない。

「やっぱり会っちまうな」先に食べ終わっていたはずの2年生がまだ何人も残っていた。その中にはエレンもいて、目が合うとにっこりされた。


「彼は確か、生徒総代でしたよ?成績もずっとトップだって!」

ミカがエレンを見て息を呑んだ。

「僕、入学式の時、代表挨拶で頭がいっぱいで、他の事覚えてません」

「凄い人に目を付けられちゃいましたね、コナーも覚えてなかったの?」

「ルザロワと同じく全然覚えてなかった」


あーあ、と3人はぼやいたが、ウィルは黙々とご飯を食べて「ご馳走様、シャワー浴びてくる」

と席を立った。

図書館へ行ってたウィルを捕まえたが、すぐに去ってしまった。


「あいつ、本当に付き合い悪いな」

「いいえ、逆にコナーとミカを付き合わせてしまって申し訳無いです。私個人の事情なのに。何とかしますから、お二人は気になさらないで下さい」

「駄目だよ!危なすぎる!」

「そうだ、友達は守らないとな!」


残っていた2年生の集団が席を立った。エレンもいる。

「こっちに来るぞ!」

エレンはすうっとそばに近付いてきた。

「やあ、気分は治った?ルザロワ」

「一眠りしたら直りました。お陰でお腹空いたので完食しました。ありがとうございます」


「そう、それなら良かったよ。また指導して欲しいなら、いつでも言って。色々教えてあげられると思うよ?」

「もう、二度と頼まねーよ!」

コナーが言って、ルザロワも頷いた。

「遠慮しなくて良いのに」


ルザロワは平常心を心がけていたが、やはり緊張して手が震えてきた。

ミカがその手をそっと上から握った。

「ルザロワも僕達と一緒に頑張りますので」

「そうです。先輩を煩わすことはもう無いと思います」

ルザロワは顔を少し赤くしながら言った。


「ふーん、そうかい」

エレンはその手をチラッと見たようだったが、そのまま友人達と去って行った。


「あー、怖かったです!二人ともありがとう…」

ルザロワはテーブルに顔を突っ伏した。

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