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4 始まり ヘイリング公爵家と運命の邂逅

ヘイリング一族の本家であるエドガーの邸宅には、代々の風習として跡取りが10歳を迎えるとヘイリングに所縁のある歳の近い少年達が集められ、共に生活をしていた。

全員が高度な知識を学び、優秀な者は将来的にヘイリング財団で働き、本家の上級使用人や警備員などにも採用された。


その中にいたのが、ジルベッタ・ヘイリングだった。茶色の波打つ髪と青みがかった黒い目が特徴の静かな少女だった。

本家との繋がりを渇望する父親に送り込まれた子供達の1人だった。


しかし、彼女の母親はヘイリングの遠い親戚である父親の屋敷の単なるデフレンド人の使用人だった。それも妻がいるのにも関わらず、無理矢理愛人にさせられた。ジルベスタを身籠った後は本妻を恐れて、出産後に屋敷を去り一人で育てていた。


本家からの打診で本妻の子供が居なかったが、都合よくジルベッタのことを思い出し、言いくるめて子として認知すると本家へ送り込んだ。

「いいか、エドガー様に取り入って気に入ってもらえれば、良い暮らしができる。お前は母親に似て綺麗なだけが取り柄だ。存分に使え」


ジルベッタは父親の全身を舐める様な視線と脅しに耐えられず了承するしかなかった。このまま残っていても、母の代わりに愛人にされそうな雰囲気が濃厚で、母の身柄も心配だったのもある。


たどり着いたヘイリングの屋敷は広大で、20人近くいる親戚は個室を与えられ何不自由のない生活を送っていた。

子供達はお互いにおおむね友好的で一緒に学んだり、遊んだりしていた。


愛人の子、しかもデフレンド人である事から差別されて忌避する子もいた。ジルベッタは積極的には他の子たちと交流はしなかったが、概ね平穏に過ごせていた。


一方でエドガーは当初自分のために集められた親戚と積極的には関わらなかった。人付き合いが苦手な様で、父親に言われて仕方なくという感じだった。


外見の人間離れした美しい容貌はいつも無表情で生気がない。透き通った緑の目は何も写さず、人形のようだった。ヘイリングの血筋に多い輝く金髪は後ろで1つに括られており背中の半ばまである。


誘われてボードゲームをすると、圧倒的優位差で勝つのだが、嬉しそうな感情も見せず、請われると最初からもう一度やってみせてアドバイスをする。

勉強にしても、嫌々だろうが先生役をすると、とてもわかりやすく説明し、どの教科も頭がずば抜けてよかった。


覚えの悪い子には徹底して冷たい対応をしていたにも関わらず、次第に子供達は彼を慕い、敬った。


誰もが彼に気に入られようとする一方で、ジルベッタは父親から散々言われていたが、自分よりよほど美しい彼では興味も湧かないだろうと諦めていた。


全く子供らしい所がなく、無表情で理路整然な淡々とした口調も彼を苦手と感じ、距離を取っていた。


ある日自由時間に庭の隅でかわいい変わった草花を見つけ、摘んでいいものか迷っていた。後で聞いてみようと、しゃがんで持ってきたスケッチブックを広げて花の絵を描いていた。


「何してるんだ?」後ろから声をかけられた。

花に夢中で全く気配を感じてなかったので驚いて振り返った。


珍しく金色に輝く髪を括らず伸ばしたまま無表情で佇むエドガーがいた。

「この花が気に入ったのですが、切り取ってもいいかどうか分からないので、取り敢えずスケッチしようと」


エドガーは無遠慮に彼や持ち物を眺めていたが、ツカツカと近寄ってきた。

ジルベッタは初めて会話した事に緊張していると、彼のそばを通り過ぎて花の前に来ると無造作にちぎった。

「別にいいさ。幾らでもあるし」

差し出された花を受け取って「ありがとう」と言って微笑んだ。

常日頃の無表情から冷たい人だと早合点してたのだ。


「花が好きなのか?」相変わらず読めない表情で言った。

「そうですね。ハーブとか興味あります」

少し間をおいてエドガーは「よかったら」と言ったがそのまま無言になった。


ジルベッタは「はい」と言って辛抱強く次の言葉を待った。

彼が口に出すのに人より間が空くのは、父親から言動の慎重さを強く求められているせいもある。


「図書室に、ハーブの図鑑がある」

漸く目を逸らしながらも言った。

「私が見てもいいのですか?」と驚いた。


紙の本は新しく刊行されることがなくなって久しい。過去の貴重な本は、家の一角の図書室と呼ばれる部屋に集められているのは知っていたが、鍵がかけられており、入室できないと思っていた。


「僕と一緒なら誰でも入れる。借りることもできる」とエドガーは頷いた。

「今からでも行けるが?」

ジルベッタは喜んで「お願いします」と思わず彼の手を取った。

エドガーは一瞬はビクッとしたが、しっかりと握り返し、そのまま屋敷の方へ向かった。


潔癖症で触れられるのを嫌がると聞いていたが、彼はいつまでも手を離さなかった。時々不思議そうに繋いだ手とジルベッタを見比べる。ジルベッタもエドガーを見たが、彼は少し不快そうな表情ながら何も言わないので、そのまま連れ立って行った。


図書室はジルベッタの想像以上に本に溢れ、目的のものを探すのに彼の助けが必要だった。

「後で花束にして届けさせる」

彼が本を見つけるとぼそっと小さな声で言うと部屋から去っていった。

彼の心遣いがとても嬉しかった。


こうしてジルベッタはエドガーの“お気に入り”になり、他の“お気に入り”の子供達数人と普段から側に居るようになった。



それから時は過ぎ、子供達はそれぞれ進路が決まって去って行き、“お気に入り”に残るのは前から彼と共にいた従兄弟のビルと、ジルベッタだけになってしまった。


ビルと呼ばれるフィリップ・ステカフォードはエドガーの父の弟の妻の連れ子でエドガーより5歳年上だ。血の繋がりは無いが、初めて会った時、エドガーが気に入り手元に置いている。

今では彼の個人秘書として付いている。


ジルベッタは大学院で研究室を持つエドガーの助手として植物学を学んでいた。給料を貰える様になったので他の子供達の様に別に居を構えようと思ったが、エドガーは手放さなかったのだ。


「シュガー、庭園でお茶しよう。ビルも呼ぶから」

週末の休講日、3人での昼食後に部屋に戻っていたジルベッタに連絡が来た。

ジルベッタは憂鬱な気分で庭に向かった。エドガーは既に来ていたがビルの姿はなかった。


「おいで、シュガー」

エドガーは自分の椅子を後ろにずらすと手を伸ばした。ジルベッタはフラフラと彼の方へ引き寄せられる。

彼はジルベッタの腰に手を回して自分の膝の上に上げた。

腰に回した両手で抱きしめられる。


はあ、と吐息をついて後ろ向きに座ったジルベッタの首筋に髪の毛の上からキスをする。

「いつもいい匂いだ、私のシュガー。食べてしまいたい」

腰に回っていた手がジルベッタの身体を撫でながら下がってきた。ジルベッタはぶるりと身震いした。


「あの、ビルは?」

「もうすぐ来ると思うよ」耳元で優しく囁かれた。

「本当ですか?」

彼の触り方が神経を過敏にし、声が震えた。


「ビルが来るなら、やめて下さい」

彼の“アイシテル”行為が始まってからビルのジルベッタに対する視線があからさまに変わった。侮蔑と嫉妬の入り混じった表情はジルベッタに自己嫌悪を起こさせるのに十分だった。

エドガーはお互いに悪感情を抱かせるかの様に2人をそれぞれ弄んだ。


「終わったら呼ぶ」手は止めずに楽しそうに言う。

ジルベッタ思わず声を漏らした。

「駄目です、エドガー様」

心底逃げたいと思っているのに身体が動かない。


「アイシテルからいいんだ。君は本当に可愛い。シュガーだけだよ、こんな事したくなるのは」エドガーはいつも言う。

「でも、ビルが見たら」

「シュガー?ビルは仕方ないんだ。彼には僕しかいないし、彼とするのはストレス発散の為だけだよ?アイシテルのは君だけだ」


性的興奮が否が応でも昂ってくるが、羞恥と情けなさで涙が溢れる。

いつから彼にこんなことまで許していたのだろう?


結局父の言いなりにエドガーにされる事に逆らえなくなった。父の事業はヘイリングから資金を投入され経営改善を受けて最高利益を上げている。



シュガーと言う愛称は、親しくなって直ぐ付けられた。

頻繁に誘われて図書室や彼の部屋で一緒に過ごしたりする内に、彼の自分に対する態度が段々変わってきた。

周囲に誰も居ないと、キスしたり身体を触ってくるようになった。


そうして、ついに図書室の帰りに自分の部屋まで送ってくれた時「好きになってしまった」と言われた。戸惑っていると強引に部屋の中に引き込まれて、なし崩しに身体を奪われた。


ショックで茫然としていると「我慢できなかった。こんな感情、初めてなんだ、君をアイシテルって分かった」と泣きながら縋られた。

彼が周囲の人間に決して心を許していない事を知っていたので絆され、受け入れてしまった。


エドガーがジルベッタに入れ込むにつれ、他の子供たちから公然と嫉妬や妬みを受ける様になった。


彼は守るためと称してジルを一日中そばに置き、生活の全てを管理するようになった。

そして、昼となく夜となく彼の身体を求めた。

他の親戚は全て他の所へ移したり、親元に返した。


そこへ一人事情を知らない、エドガーの従兄弟の子ジェレミー・ガードナーが留学から帰国し、エドガーの研究室に入って一緒に働きだした。


エドガーの『愛している』からと称する息の詰まる様な束縛に心身共に疲弊していたジルベッタは、昔のように気軽に接するジェレミーに安らぎを見出した。

2人は急速に仲を深め、ジルに対するエドガーの行為に我慢できなくなったジェレミーは、隙を見てジルベッタと逃亡した。


逃亡中にジルベッタはルザロワを出産したが、ヘイリングによって傷つけられた精神と出産まで続いた酷い悪阻と難産に鬱状態になって一年経っても回復せず、ついに動けなくなった。

ジェレミーはジルベッタの「ルザロワを渡さないで」との言葉を守り、泣く泣くジルベッタを置いて姿を消した。

それからは完全に消息を断ち、5年が過ぎた。


エドガーはジルベッタを貰い受けたが、もう手の施しようが無いくらい弱っていた。

エドガーは付ききりで看病したが、彼の心を動かす事はできなかった。

「ルザロワはあなたの子じゃない。放っておいて」

死ぬまでエドガーを一顧だにせず、最後は何も言わずに息を引き取った。


エドガーは葬儀の後、後悔と失望からか失神し1週間意識不明に陥った。

ようやく目覚めた時、あまりの深い悲しみに耐えられなかったのか彼の感情が全て失われていた。


しかし、父親は彼に事業を大幅に任せた。それが唯一彼を生かす道だった。

ビルは彼の補佐として彼の無感情な経営方針を陰ながら修正しつつ変わらず仕えた。


私生活においては仕事以外では、何もしようとはせず3度の食事も促さないと食べず、着替えも風呂もビルが介助していた。髪の毛は切らせず伸ばし続けた。かつて彼女から好かれた所だった所以か。


時に感情が爆発して暴力を振るわれたり性欲の捌け口に手酷い扱いを受けたりしたが、ビルは甘んじて受け入れた。


ヘイリングはジルベッタに拒まれた事もあり、ジェレミーとルザロワの行方については死んだ者として興味を失っていたが、ビルはその後も密かに捜索だけ続けた。

彼が目覚めるきっかけになればと思ったからだ。









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