21 竜士特殊処理隊 第一分隊の助っ人依頼
「少しは、ミュラー隊長の我が第13分隊に対する印象は良くなったのでしょうか?」
ルザロワは控室横の隊長控室にやって来たエレンに尋ねた。
「そうだな、また仕事を頼みに俺を寄越した位はな」
エレンは事務机の上に書類を置いた。
ルザロワは書類を読む間、マイクにお茶の用意を頼み、エレンには前のソファーに座ってもらった。
仕事内容は、食糧倉庫から別拠点への配達だった。今回は飛竜で行く。
「うちの隊員が2名流感にかかって隔離されてしまった。その代わりに2名派遣してほしい」
「大隊長はここを派遣会社だと思ってらっしゃるのか?」
「そうだな、ミュラー隊長の依頼を許可したのは大隊長だしな」
「ですよねー、まあ、私と部下で行きます。まだ、部下だけだと、そのまま帰って来ないかもしれません」
「喧嘩になって懲罰房行き?」
「うん、残念ながら、そうなる確率高い」
「それでは、ルザロワと部下一名で行きますと報告しておく」
「お願いします」
依頼書類にサインするとマイクが持ってきた紅茶を飲んだ。
「ここは、変わった紅茶の淹れ方をするんだね」
エレンがカップを掲げながら笑い出した。
「え⁈」ルザロワは慌てて立ち上がるとエレンの方へ行った。
エレンの持っているカップを見ると、底に紅茶葉が半分くらい沈んでいた。
「ご、ごめんなさい!マイク!いや、誰⁈」
自分のが普通に入れられていたので油断した。相変わらず隊員達から地味に嫌がらせは続いている。
キリーからはこの前ソードで挑まれ、しかも雷撃モードだったが、此方からはわざと攻撃せず、来る雷撃を全て打ち返し、魔石が壊れるまで受けきった。
その後普通の警棒となったソードで攻撃してあちこち叩いてやったら、ようやく負けを認めた。
それからキリーだけは大人しく命令を聞くようになったが、他の隊員達は虎視眈々と嫌がらせの機会を狙っている。マイクは他の隊員に脅されてやむ無く加担しているのだろう。
「申し訳ありません。指導不足です」
「仕方無いなあ、依頼は無しで」
「え、そんな、これしきの事で⁈サインしたから受け取って下さい」
ルザロワは驚いてエレンに詰め寄った。
「捕まえた!」
エレンはルザロワを囲い込むと抱きしめた。
「もう!何するんですか⁈そんな事してる場合じゃ」
「全然会ってくれないし、もう限界だ!相手して?」
「だから、仕事は?」
エレンは、はぁ、と軽くため息をついてルザロワの額にキスした。
「こんなので大丈夫?ルザロワが苦労するだけだ」
「いいんだ、私が隊長になるなんて異常です。長くは居られないでしょう。だから、少しでも早く、13分隊の印象を良くしたいんです。みんな、優秀で、やればできる人達なんです!」
ルザロワは両方の手を抜くとエレンの首に掛けた。
「だから、私の為にも協力して?」
エレンはルザロワがそのまま引き寄せる前にキスした。
「色仕掛けで誘ってるの?」
ルザロワは顔を赤くして「うん、そうです」とかろうじて聞こえる声で言って俯いてしまった。
「似合わない事して。可愛いな」
クスッと笑うと、ルザロワの顎を掴んで顔を上げさせた。
「どっちにしても、後で僕の部屋に来いよ?」
「今すぐは無理です」
「じゃあ、夕飯後」
ルザロワは仕方無く頷いて、エレンから少し離れようとした。
「おい、あいつが来たらしいが、今度は何だ…」
ノックも無しにドアを開けたキリーが中に入ろうとして二人を見て足を止めた。
ルザロワは慌ててエレンを押しのけたが、エレンはルザロワの片手を捉えるとその手の甲に口付けた。
「よろしく、ガードナー隊長」
思い切り不穏な目つきのキリーの横を、平然と通り過ぎて出て行った。
「マクガイヤ副隊長のご依頼は何でしたか?」キリーは投げやりに訊いた。
「輸送の応援で2名寄越せって。私と誰かで行こうと思う」
「じゃ、俺で」
「副隊長はここで待機でしょう」
ちっ、と舌打ちして忌々しそうに言った。
「コップなら積載が得意だ。あいつで良いか?」
「キリーが言うなら安心です。本人に言っといて。もしくは説得して下さい」
「了解」
「第1に混ざりたかった?」
「いや、別に」
キリーはニヤリと笑うと
「で、第1からの依頼の見返りは、隊長の身体か?」
と行ったのでルザロワは顔を赤くした。
「そんな訳ないでしょう!エレン、マクガイヤ副隊長と個人的に付き合いがあるだけで、全く関係無い!」
へえ、と全く納得していない相槌を打たれてルザロワは不機嫌になった。
「え、円滑な人間関係も大切なんだ!」
「確かにね。それでは俺とも円滑な関係を築いて下さいよ」
キリーが迫ってきたので、ルザロワは思わず後退りした。
「充分馴れ馴れしいよ!キリーの用は何ですか?」
「そりゃ、マクガイヤが隊長室に入ってったから見に来たのさ」
「はあ?呼びもしないのに来なくていいです」
「運動場から走ってきたのに、つれないな。あいつ苦手なんだろ?」
ルザロワは手を組んで少し考えて、「苦手なのか」と改めて認識したようだった。
「気付くの遅くね?」
「エレンは人をすぐ揶揄うし面白いんだけど、隙が無い。弱味を見せた事がなくて、完璧なんだ。格好良くて好きだけど、強引な所が多くて」
「良くも悪くも隊長は、あいつの手の中だな」
「だよね、困る」
「何惚気てんだよ」
「え、そんなつもりは」
「有り有りじゃねーか!やっぱり、隊長の代わりに俺行くよ!あいつが邪魔する未来しか見えねー。此処を早く辞めさせて第1に引っ張り込みたいんだよ。あいつ野心家だから、自分が隊長になって、ルザロワを副隊長にして良いように使い倒したいんだ」
「まさか、そこ迄は考えて、いそう。まあ、コップも喧嘩っ早そうなんで不安しか無いけど、キリー?あなたも、何言われてもされても、手や足を出したら駄目ですからね!」
「へえへえ、できるだけ我慢すらあ」
「絶対我慢して!!」
その日は仕事が無かったので、控え室へ行って任務の内容を伝えたあと、竜舎に連れて行って飛行練習をした。
帰って夕飯を皆で食べて、部屋に戻ったら間も無くエレンがやってきた。
「忘れてただろ?」
「さあ、どうでしょう?」
と惚けたが、通用しない。
「シャワー浴びてくるからお酒飲んで待ってて」
とワインとグラスとナッツをテーブルに出した。
「どうして明日行くの止めた?」
「残りの隊員が不穏だから、明日は一緒に紅茶の淹れ方を練習してもらう予定です」
エレンは笑って椅子に座った。
「普通に?」
「いえ、エレン流にします」
「俺?」
「厳しくします」
「俺は優しいぞ?」
ルザロワはバスローブを出して手に持つと
「いいえ、厳しい人です。騙してミルンに乗せて飛ばしたの、一生忘れません!」
と言い残してバスルームへ行くと、エレンが更に笑う声を背中で聞いた。
ルザロワが身体や髪を粗く拭いて、バスローブを羽織りシャワー室から出た途端エレンに腕を掴まれた。
そのままベッドに行こうとするので抵抗して文句を言った。
「飲んでてって言ったでしょ?僕も飲みたいのに!」
「じゃ、一杯どうぞ」
と手を離されたので、いそいそとテーブルに行ったらワインが殆ど無かった。
「嘘、もうこんなに飲んだの?さっき開けたとこなんですが?」
「うん、美味しく頂いた」エレンはベッドに腰掛けた。
「えーっ?早過ぎないですか」
と言ってグラスに残りのワインを全部注いだが半分くらいしか無かった。
椅子に座ると、二口位飲んだ。
「本当だ、美味しい。また送って貰おう」と言うと
「俺の分もよろしく」とにっこりされたから、「知りません!」とべーっと舌を出した。
ルザロワは惜しむように飲むとグラスと空いたワインボトルを流しに置いた。
振り返るとエレンが手で呼んでいる。
気は進まないが、身体は期待しているかのように疼いた。
なるべくゆっくりと近付いたが、部屋が狭いのであまり意味が無かった。
エレンは横に座るよう促し、ルザロワが座るとそのままベッドに優しく押し倒した。
「どうしてやろうか?」
「…お手柔らかに」
「エレン、もう、許して」ルザロワは半泣きで訴えた
ルザロワはそっと拘束から逃げようとしたが捕まった。
「もういいよ、疲れた」
「駄目だよ、これからだ」
「いいって言った!え、もう次できるの?」
「そうだな、僕と結婚して?子供は当分諦めるから。返事聞くまで攻める」
「結婚しません」
「するって言うまで攻める」
「え、私に拒否権は無いの?狡いよ、私、エレンと別れた気でいたんだけど⁈あ、やだ」
「何言ってんだ、思い切り受け入れてるだろ」
「ああ、これは、仕方無く」




