20 竜士特殊処理隊 要人警護の手伝い
集合の時間に竜舎前に行くと、誰もいなかったので、控え室に行くべきだったかと悔やんでいると、ギリギリになって、キリー、コップ、ヒュー、ザールがやって来た。
この任務は5人なので、トムとマイクは既に来ているが留守番だ。彼ら竜整備士は、直前の竜の状態確認をする。
普段の整備は交代制で、世話人もいるので24時間だが緩い当番制が組まれている。
本来なら偶数隊が、その前の奇数隊専用の竜整備隊なのに、ここでも13番隊はあぶれて、変則的な隊員構成になっている。
「せめて、普通の隊に所属させてからにして欲しかった。何が正しいのか探りながらだから、精神的にきつい」
マイクから配られた竜識別用カンテラを持ち上げて、ルザロワは弱音を吐いた。
「上から警備とかできんのか?」
コップがヒューと話している。
「警戒してますよって、行動に示しているだけです。犯人が走って逃げたら追跡できる」
「そんときゃ、竜で潰してやる」
「駄目です」ルザロワはすかさず言った。
「生存確保が原則です。ほら、騎乗!」
「へえへえ」
新しいパートナーはアスナという名前の竜だ。少々気が荒く、興奮して鼻息が荒い。
「そんなに気合い入れなくて大丈夫だよ?上を飛んでるだけなんだから」
ルザロワはアスナの鼻の頭を撫でた。
「アスナは気が荒くて、乗り手の態度が悪いと振り落とそうとするので、気をつけて!」
トムは手綱を渡すと心配そうに言った。
「さり気無く、嫌がらせは続いてるみたいだな」
キリーが苦々しい顔で言った。
「嫌がらせ、なの?」
「新卒に難しい竜を当てがうのは、立派な嫌がらせだろう⁈」
「僕は前に試しに乗ったら振り落とされた」
ザールが言ったが、皆内心『いつも誰にでも態度悪いもんな』と思っていたがあえて言わなかった。
「なんか、君らの言いたい事はわかった。まあこんな僕でも、受け入れてくれる竜はいるから、良いけど?」
ザールは、全体的にほっそりとして優美なタラチネと言う竜に、さっさと乗った。
「皆乗りました?出発します。行くよ、アスナ」
アスナは咆哮を上げながら飛び立った。
「元気いっぱいだけど、これが乱暴って事??」
ハルペルが、細やかな優しい性格だったから、アスナは乱暴な飛び方になるが、普通はこんなものではないだろうか?
中央警察署に到着した。
警察署の建物の上が竜発着場になっている。
「お疲れ様です!」
「よろしく頼みます!」
出迎えた竜整備士に挨拶して下へ降りていく。
まだ十分前だったが、あらかた警察官達が揃っており、階段から降りて外に出ると、一斉に視線がルザロワ達に向いた。
ルザロワ達は司令官らしき男に近付いた。
「竜士特別処理隊から参りました」
「本日はよろしく。本日の責任者ヨドノカだ」
「私、第13分隊隊長のガードナー以下5名です。よろしくお願いします」
ルザロワとヨドノカは握手した。
「本日、首相が、公邸からミューアホテルに会食に出かける。相手は、ヘイリング公爵だ。無事に送り届けるから、上から見といてくれ」
うえっと声を上げそうになるのを我慢した。首相とディナーなんてさすが公爵。
下手したら、その隣に自分もいるかもしれなかった。
「了解しました。すぐ飛びますので失礼致します」
「よろしくな」
魔石ブザーを受取り、ルザロワ達は、走って建物の上まで行った。
「走ることはないだろう!」ヒューが文句を言った。
「早くしないと意味無いだろう?」
「走るの早い」ザールが呟く。
「良い印象を与えないと。また仕事の時、13分隊を指名してくれるかもしれないでしょう」
「いいよ面倒だし」キリーが言ったが
「あなたが一番悔しがってたくせに、何言ってんですか。ミュラー隊長を見返す機会を見逃してはいけません」
と嗜めた。
竜に騎乗すると、次々に飛び立った。
辺りを哨戒して、取り敢えず怪しい者を見かけなかったので、引き続き警戒をし続けた。
「首相が出ます」
「了解、竜、異常無し」
ルザロワが返事した。
公邸に竜車が待機していたが、首相が乗り込んで動き出した。
他の隊員の位置を確認すると、ザールは先に飛んで、会食予定のホテル近くの建物の屋上に降りている。
マイクとヒューは並んで左右を見ている。最後尾を旋回しながらキリーと共に警戒する。
ここまで警戒するのは、BMから首相の襲撃予告が絶えないからだ。
ホテルに着くと、玄関前で誰かが待っていた。
「エディだ!」
白っぽい茶色のスーツで佇むヘイリングは、珍しく一人だった。いつも影のようにいるビルが見当たらない。
単なる会食だからか。
ルザロワは傍まで行って旋回した。だいぶ遠かったが、ヘイリングと目が合った。一瞬微笑んでいた。
二人はすぐホテルに誘導され、入って行った。
周囲の地上の警戒は警察がするので、ルザロワ達は
あとは帰りの警備だけだ。
5階建てのホテルの周りを飛ぶと、上昇した。その場に止まるには時間が有り過ぎるので、ザールとキリーをホテル屋上に残して近くの竜停留所に行く。
キリーとはお互いに緊急の時に音が鳴る魔石入りブレスレットをしている。
待ち時間の間、ヒューにソード勝負を挑まれ、軽く打ち合った。
「結構良い線いってる。もっと練習あるのみです」
と打ち込みを全て払い除けながら言ったら「余裕かよ⁈」と言って拗ねてしまった。
上司と部下の関係は一朝一夕では成り立たないと、ルザロワは内心溜息をついた。
ばさっばさっ。
竜停留所にいるよその竜が急に羽ばたいた。
ルザロワ達がそちらを見ると、竜が停留所の屋根の下より前に出て羽ばたいている。
え?囲いから出ている!
「コップ!手綱を取れ!竜が飛び立つ!」
近くに居たコップに言いながら近寄った。
コップは全速で行ったが、間に合わず竜が飛び立ってしまった。
「クソッ」
ルザロワの目に他の影が写った。
「人が乗ってる!」
どうやら竜の背の陰の方から飛び乗ったようだ。
「待て、今夜は飛行制限中だぞ!降ろせ!」
一応言ったが、その間に自分の竜に飛び乗った。
コップとヒューも続いた。
「やられた!陽動か?本命か?」
コップが叫んだ。
「まだ食事が終わってない。陽動だろう、回り込んで叩き落とす!」
ルザロワは、竜に鞭打った。
鞭と言っても竜の皮膚は硬いので打撃が伝わるだけだが、緊急性が高く、急いでいる時に使う。
特殊処理隊の竜は一般の竜より、早い。追い付くとソードを抜いてスティックを伸ばす。
「竜を降ろせ!」
言いながら体当たりする。双方バランスを崩すので少々危ないが、ルザロワは気にしない。
当たった時に、電撃モードで相手の腕に触れる。
「痛っ!」一瞬手綱から手が離れる。
反対側からヒューが迫り、もう一方の腕も思い切り叩いた。
「ぎゃっ」
「ちょっと!きつ過ぎる!」
骨にひび入っただろな、とルザロワは顔を顰めた。
ルザロワが竜の体制を整えるために一旦離れると、ヒューが割り込んできて、ヒョイと相手の竜に飛び移った。
「取り敢えず、下ろしますね」
優雅に相手を拘束して手錠をかけるとそのまま乗り手を空中に放り出した。
「わー!!」
「ヒュー⁈」
乗り手は、胴体を拘束していえた紐が鞍と繋がっていたので勢いよく竜からぶら下がっった。
「もう!脅かさないでよ」
「上で暴れられたら困るっしょ」
「そうだけど…」
中央警察署まで行くと、ヒューは竜をゆっくり降下させた。ルザロワはそれを見届けると、コップを連れてホテルの方へ飛んだ。
ホテルではまだ警備が続いていて、屋上に降りるとキリーが駆け寄った。
「どうしたんですか?」
「竜停留所で、不審な人物が飛び立ったのを追いかけた。ヒューが拘束して警察署に連れて行きました。私達もここに来た方がいいかなと思ったんですけど」
コップは上で旋回していたので
「ヒューの乗ってた竜がまだその辺にいたら、中央警察署まで誘導してください」
と頼んだ。
「ヒューめ、面倒な事押し付けやがって!」
コップは怒りながらも戻って行った。
ルザロワは下にいた警官に、不審人物がいたので警戒を促してから戻ってきた。
「みんな私の言う事よく聞いてくれるね」
「よく聞くように言ったからな」
キリーはしれっと言った。
「どうして、今までミュラー隊長に言われてみたいだったんですか?」
「直ぐ挑発に乗ってやったからな」
「そろそろ会食終わるかな」
ルザロワはため息をついたあと、再び騎乗した。
ザールは竜に持たれて寝てたので、キリーに起こすように言ったら
「起きてます。ここ待機で良いですか」
とザールは目を開けたが、そのままの体勢だった。
「せめて騎乗してください!」
ルザロワがブスッとして言った。
ザールは「はーい」と言って騎乗したがその上で横になってくつろいでいる。
ジリリリリ
ホテルの警報が鳴った。
ルザロワ達は出入り口の上に止まっている。
「さっきの、乗せる奴が出て来るかも!」
「成程」
案の定男が出てきて上を見上げたが、ルザロワ達だけだったので当てが外れたようだった。
少し抵抗があったが、すぐに警官に捕まり連れて行かれてしまった。
「終了かな」
「だろうな」
ルザロワはそばの道路に竜を下ろした。
ヨドノカの所へ行くと
「不審者はBMの者だった。確保してくれて良かった。ホテルにいた狙撃者を回収する役目だった」
「狙撃者⁈え、ヘイリングは、首相は⁈」
つい、エディと言いそうになった。
「二人とも無事だ、ウチのが二人負傷したが軽傷だ」
「ああ、良かった」
「これで手伝いは終わりだ。ありがとう」
「いえ、少しでも役に立てたならよかったです」
ルザロワはほっとして騎乗し、キリーとザールを促して竜停留所まで行った。
コップとヒューがそこで待っていたので、合流して帰投した。
「ヒュー、あまり無茶しないで下さい。思わずヒヤッとしました」
「あれ位大した事ないっす」
帰ると、ジャスコナート大隊長の執務室へ報告へ行った。
「アスナはどうだった?」
とまず訊かれたので、こいつが指示したのだと察して、ムッと、いやかなりむかついた。
「普通です。夜なのに嫌がらず、張り切って任務についてくれました」
実際そうだったので正直に言う。ジャスコナートはちょっと眉を顰めたが、すぐ笑顔に戻った。
BMを捕まえたと言うと驚かれた。
「ヨドノカが不平を言わなかったのも珍しいな」
ジャスコナートはつまらなさそうに言うと、次の命令書を寄越した。
もう帰って良いと言ったので、とっとと出て行った。
「ジョジャに何か言われたか?」
控え室に行くと、キリーに真っ先に訊かれた。
「じょじゃ?」
「ジョン・ジャスコナートの略」コップが言って笑った。
「アスナの事を訊かれたから普通ですって言っておきました。」
「やっぱり!」トムが大声で言った。
「今日は機嫌良かったな」
「珍しいよな、アスナすぐ怒るのに」トムはうんうんと頷いた。
「え、えー⁈皆知ってて私を乗せたの?」
ルザロワが言うと皆目を逸らした。
「ほほう、そうでしたか。何もなくて残念だったね」
ルザロワはうっそりと笑った。
「トム」
ルザロワはトムの頭を掴むと無理やり自分の方に向かせた。
トムとルザロワだとトムの方が若干背も肩幅も大きいが、頭を掴んだ手に逆らえなかった。
「アスナは全然快適だったよ、整備士のおかげだ。ありがとう」
「イイエ、ドウイタシマシテ?」
「そうだ、その快適な乗り心地、トムにも体験させてあげましょう」
「え?」
ルザロワはトムの腕をガシッと組むと、引きずるようにしてドアに向かう。
「え、あの僕は整備士で、乗るのは専門の方に」
「大丈夫、専門の飛行士の私が一緒に乗るから」
ルザロワは有無を言わさず竜舎に連れて行く。
「え、マジか?」
「いいな、トム、隊長と乗れて」
「見てないで助けて〜」
半泣きしているトムと意気揚々と進むルザロワに、マイクを除く全員がニヤニヤワクワクしながら着いて来た。明日は我が身と、マイクは震えて動けなかった。
「あ“ーーーーーーーー」
夜空にトムの絶叫が響いた。
ルザロワはアスナを連れて来させると、トムを前に乗せた。
アスナに指示を出すと、グオーっと鳴いて喜び、一瞬で飛び立つと、超高速で飛ばして回転したり、急降下したりと張り切って、ルザロワ竜飛行士の竜操作の本領を発揮した。
「素晴らしい、アスナ最高!」
トムは地上にアスナが降りた途端に、涙を流しながら気を失ってしまった。
「あれ?次乗りたい人いる?」
ルザロワが大爆笑していた野次馬達に告げると、彼らは急いで逃げ散った。




