19 竜士特殊処理隊 初任務
「我が第1分隊は、名前こそ補給分隊だが、13分隊中の順位は1位だ。竜の使用実績は一番多く、任務に忠実で完遂する」
先ずは自分の隊自慢だった。
「13分隊は最低で残り滓で、手が足りない時に、居ないよりましな扱いだから期待はしてない。邪魔だけはするな」
「7名しかいないのに度々隊員が懲罰房に出入りしてばかりだからな。13分隊は別名、懲罰房分隊と呼ばれている」
「私見だが、新卒が隊長でも全く問題が無い。誰が成っても一緒だ。デフレンド人隊長は初めてだが、それだけだ。私の言う通り動かせれば、極めて優秀な隊長だが、それは無いな」
金髪に薄茶色の目の巨漢のスプレンド人、第1分隊隊長シリウス・ミュラーから一方的に捲し立てられ、ルザロワは何か言おうとしたが、矢継ぎ早な、あまりの言われように、口をパクパクさせるだけで言葉が出て来なかった。
その代わり振り返って我が隊の様子を素早く確認した。
悔しそうなコップとヒュー、俯くマイクとトム、無表情なままのザール、キリーは一見笑顔だが、そのまま張り付いているだけだ。
ルザロワはキリーが一歩踏み出した瞬間に抱きついた。
「え⁈」ミュラー隊長の斜め後ろに居たエレンが驚愕の声を上げた。
「やっぱり!殴るつもりだったでしょう!学習して下さい!」
「な⁈放せ!」キリーは止められてもがいた。キリーとルザロワは20センチほど身長差があるが、キリーは抱きつかれて、若干持ち上げられて踵が浮いている。
「キリー!あなたが隊員を止める立場でしょう⁈」
「こいつ」
ルザロワは「殺してやる」と言う前にキリーの口を塞いだ。
片手になってもキリーは動けなかった。
「温順しくして下さい。皆の前で無様に意識を落とされたいですか?」
ルザロワはキリーだけに聞こえるよう囁いた。
キリーが舌打ちして身体の力を抜いたので、ルザロワはそろそろと拘束を解いた。
「お待たせ致しました。任務取り掛かります。我々は何をすれば良いですか?」
ルザロワは何事も無かったかのように穏やかに言った。
ミュラー隊長は虚を衝かれた様子だったが、後ろからエレンが出てきた。
「ガードナー隊長、案内します」
「よろしくお願いします、マクガイヤ副隊長。ほら、みんな、行くぞ!」
キラーの腕を無理やり組むと、引きずるようにエレンの後に続いた。
他の隊員達は、嫌そうにしながらも従って歩く。
「エレンで良いですよ?」
「いえ、お気遣い無く!」
ルザロワは態とらしく他人行儀に言った。
「初々しいな、相変わらずの馬鹿力だけど」
ふふっとエレンが笑う。
「お前がクズ分隊の案内する必要あんのか?」
やっとルザロワの腕を離したキリーがエレンに言った。
「いっぱい面倒見た大事な後輩だからね。色々責任があるのさ」
「私のせいで不利な立場になったりしませんか?」
ルザロワは若干心配したが、
「俺の事はいい。13分隊の扱いはよくわかっただろう?ミュラー隊長が言ったのは、冗談じゃないからな」
倉庫では、他の第1の隊員が竜に荷物を乗せていっている。
エレンはそこを素通りして一番奥の扉を指差した。
「この中の荷物を整理して欲しい。食料品の消費期限が過ぎたものが混ざっている。それは廃棄場所に持って行って下さい」
「え?他の基地への備蓄輸送は?」
「それは第1だけで行けます。廃棄場所は倉庫の裏です。運搬に竜を使用しても良いそうです」
「飛行竜を荷車に使えだと⁈」
キリーは食ってかかったがエレンはにっこり笑った。
「嫌なら自分で運べ。ルザロワに手間掛けさすんじゃねーぞ」
「何だと⁈ふざけんな!」
「止めなさい、2人とも!」
ルザロワは突っかかるキリーを倉庫の方へぐいぐい押しやった。
「早く取り掛からないと!万が一次の任務に間に合わなかったら、更に評価が下がる。行って!」
飛行竜は竜飛行士達の誇りだ。数が多く、比較的簡単に操れる陸竜と扱いは全く違う。空を飛ぶ竜に陸での移送をさせるのは竜士には屈辱を伴う。
「マクガイヤ副隊長、余計な事言わないで頂きたい。隊員が余計混乱します」
「それは、前からだ。ルザロワのせいじゃないよ。よく我慢させたな、頑張れよ」
エレンは素早くルザロワの頬にキスして、早足で去っていった。
「駄目だ駄目だ、考えたら駄目だ」
ルザロワは頬を擦って急いで指定の倉庫へ走る。
「だる〜」「面倒〜」
隊員達がぶつぶつ文句を言う。
「爪に悪いから見学で」ザールはさっさと出入り口の脇に座った。
「あなた達何しに特殊処理隊に入ったんですか⁈」
「給料」
「お金」
「ご飯好きなだけ食べれる」
「暇潰し」
あー、聞いた私がバカでした。
「じゃあ、その分は働いてもらう!ザールはカッターで箱を開けて消費期限確認して。それなら爪大丈夫でしょう?他は運び出し!私は竜と台車を借りてくるから!キリー、付いて来て」
「本当にするのか?」
「します!当たり前でしょう?やればできるんだから!」
「どこへ行くんだ?竜舎通り過ぎたぞ」
キリーが指差しながら付いてくる。
「思い出したんだ、この前見た。もう一つ竜舎があるでしょう?」
「え、そっちは、そうか」
ルザロワ達が着いたのは、怪我や病気で飛べなくなっている飛竜がいる竜舎だった。
その中の一頭に近付いていく。
茶色の皮膚で片方の翼が畳まれて白い布で包まれている。
「この子、翼に穴が空いて療養中なんだ。運動させたほうが良いらしくて。ノダカ!」
ノダカと呼ばれた竜は柵まで近寄ると顔を出してルザロワに甘えた。
「ノダカ、悪いんだけど、荷物運び手伝ってくれないか?私達だけじゃ動かせないんだ」
「おい、そこまで言葉わからんだろ⁈」
ノダカはクウクウ言って足踏みした。
「え?わかった、のか?」
「完全にはわかってないだろうけど、お手伝いしてくれるって。後で遊んであげてね」
「はい、え?俺?」
ルザロワは返事を待たずにノダカを連れ出すと台車置き場に行き、繋いだ。
「ボール遊びが好きなんだ。鼻で返してくれるよ」
ルザロワはにっこり笑った。
その無邪気な笑顔にキリーが目を見開いた。
「どうしたの?」
「反則だろ、その顔」キリーの顔が少し赤くなった。
「顔?ノダカの顔が何?」
「もう、いいよ」
「竜が好きなんだな」
二人と一匹が歩き出すとキリーが咳払いしてから言った。
「そうですね、仕事を得る手段として竜士を選びましたが、実際竜達に接すると意外と可愛くて」
「ああ、それはわかる。人間よりよっぽど良いやつ多い」
「キリー…竜は別の生物だからね」
「俺達は竜と人間から作られたのに?」
「それは、神話だろう?僕達デフレンド人が竜の性質と似た物を偶々持ってるだけで、実際は関係無いと思います」
「そうだな。俺は人間より竜の方が良い。手間暇かけて人間とくっつけなくていーや」
倉庫へ戻ると、隊員達は賞味期限切れのクッキーや固パンを開けて、食べながらのんびりやっていた。
ルザロワとキリーの二人して叱り付けて大幅にペースアップさせた。
その結果、第1分隊が帰着する随分と前に終わって、ノダカとボール遊びをしていた。
エレンが倉庫をチェックして、任務依頼書類にサインをし、ミュラー隊長に渡して「問題無いです」と言うと
「竜を早く返してこい」とは言ったが、任務完了確認欄にサインを寄越した。
サインをする書類は複写になっているので、エレンは一枚を渡してきた。
ルザロワに向けてだったが、横からキリーが奪って持っていた書類ばさみに入れた。
「どうもありがとうございました。次の任務がありますんで、早く行きましょう、隊長」ほぼ棒読みで言った後ルザロワを促した。
「あ、待ってよう。一緒に帰ります」
隊員達がわらわら寄ってきた。
エレンは軽く舌打ちすると「ルザロワ、またな」
と言ってから去って行った。
「あいつ本当は、何なんですか?」
「はあ、まあ、恋人だったんですが、エレンの中では、今でも続いてるみたい」
ルザロワはしどろもどろ言った。
「別れてないのか?」
「んん?一方が別れるのを承知してなかったら、そうなるの?」
「何だよそれ、拗れてる」
キリーは呆れて溜息をついた。
次の任務は、中央警察に17:30集合なので17時キッカリに竜の発着場に集合にした。
まだ2時間ほどあるので、シャワーしてから軽く食べることにした。
新しく移った寮の部屋から食堂に行こうと戸を開けると、目の前にエレンがいて驚いた。
「やあ、丁度ノックしようとしてたんだ。やっぱり此処だった?後は大きめの端部屋しか無いから」
「びっくりしましたよ。マクガイヤ「エレン」…エレン副隊長、任務は?」
「副隊長も要らないんだけど。今日はもうフリーだよ」
「私の分隊は、夜間に仕事が」
「うん、あの生意気な副隊長から聞いた。それまでご一緒させて貰おうと」
「あまり時間無いですが」
「構わない」
「では食堂へ行きます」
エレンは紙包みとジュースが入った瓶を突き出した。
「買ってきた」
部屋に入れたくないが、ここまで用意されると断れなかった。
「態々、ありがとうございます」
中は二人用の木彫りが入った茶色の艶のある丸テーブルと椅子2脚、ベッドには上等なリネンがかけられ、柔らかそうな毛布がくしゃっと丸められていた。
「テーブルとベッドが値段高そうに見える」
「あー、叔父の店の差押え品で、傷が大きかったから貰ったんです。ベッドリネンはホテル用に納品した時に糸の引き攣れがあって返品されたものを貰いました。殆どわかんないですけど」
「そっか、叔父さんが商会やってるんだったな。俺も1セット欲しいな」
「それなら、同じように引き攣れありますけど余分にあるので、良ければ差し上げますよ。嫌じゃなければ」
「充分だよ、いいのか?」
「はい、4セットもあるので、貰ってくださるとありがたいです」
「じゃあ、貰う」
ルザロワは部屋の端に置かれた袋の中からリネンを取り出して、ベッドの上に置いた。
「薄い黄色しかないですけど」
「ルザロワのと一緒か、いいね」
「そうですか」
二人は椅子に腰掛けて、エレンが紙袋から出した厚切りのソース味の肉と生野菜が挟まれたパンを食べた。
「美味しいですね」
「初めて食べた?」
「はい、いつも定食なので」
エレンは嬉しそうに言った。
「ルザロワはいつも楽しそうに食べるなあ」
「子供みたいじゃないですか」
「いいじゃないか」
ルザロワはジュースを飲んだが
「あ、しまった、飲んじゃった」
と慌ててビンを置いた。
「何で?」
ルザロワは恨めしそうにエレンを見た。
「エレンからのは何が入ってるかわかりませんから」
「酷いな、何時も入れてる訳じゃない。必要に応じてだよ」
「入ってる時あるじゃないですか!もう絶対エレンからの飲み物には口を付けない!」
幸い?何も混入されて無かったので無事に次の任務に赴くことができた。
エレンは、キリーの事を気にしていて、余計な気を回すなとしつこく釘を刺した。
キリーは13分隊を機能させるのに最も重要な人間だから、重用するのは仕方ないと、言い聞かせた。
納得させるのに、また、キスをねだられた。
ルザロワはエレンと別れるのは無理だと諦めた。
『わかってたけど、何でこの人を好きになってしまったんだろう』




