18 竜士特殊処理隊 第13分隊、初顔合わせ
朝9時にジャスコナートの執務室へ行った。
「おはよう、今日からだな。前任者は、すぐ来るだろうから、そこで先にお茶でも飲んでくれ」
ジャスコナートが机の前のソファーセットを指で示し、副官はポットやカップなどを乗せたトレーを隣の部屋から持ってきってローテーブルに置いた。
ルザロワは礼を言ってソファーに腰を下ろした。
手前に置かれたカップに入れられた紅茶が香り高く湯気を上げ、ルザロワはそっとカップの取っ手を掴んで一口飲んだ。
「君は飲み方が優雅だね。貴族のように見える」
ルザロワはむせそうになって慌てて飲み込んだ。
「褒めていただいてありがとうございます。実家が商売をしているので、商談で必要だと習わされました」
概ね嘘は言ってない。
ノックの音が響き、前担当者が現れたようだ。
ルザロワは立ち上がった。
「アドルド・ボトフ参りました」
「入れ」副官が言った。
現れたのはルザロワとあまり変わらない背の低い中年スプレンド人だった。
何となくオドオドして見えたが、ルザロワを見ると一変した。
「こんな子どもに隊長をやらすんですか⁈無茶だ!」
いきなりジャスコナートに喰ってかかった。
ルザロワは驚いてボトフを見つめると、ボトフはその勢いのままルザロワにも言った。
「すぐ断れ!下手したら殺されるぞ、アイツら冗談みたいにすぐ人にソードを向けて脅すんだ」
「黙りなさい、ボトフ」ジャスコナートが一喝した。
「あなたへの隊員の個人的処遇を聞く機会では無いし、後任に直接隊員の批評を言うことは許可していない。前任者として自分の失態を晒して恥ずかしく無いのか」
「今更失態⁈私が何度苦情を申し上げても、誰も取り次いでくれなかった!挙句が隊長の差し替え処分など、全く13分隊の内情をわかっていらっしゃらない!今の副隊長を隊長にすれば解決するのに、それをデフレンド人というだけで隊長にしないのはおかしい。そうしなければ彼女は早々に潰されて、また新たに隊長を任命する、その繰り返しになります!」
「ガードナー候補生、ボトフの意見はあくまで参考程度にしなさい。実際に彼らを見て臨機応変に対処することだ。ガードナー候補生なら13分隊をまとめられると期待している」
ボトフの批判を聞いてからのジャスコナートの言葉は全く心に響いてこない。ルザロワは昨日観た各隊員のプロフィールを思い出しながら
「せっかく入隊して、部下に殺されるのはさすがに困りますので、おっしゃる通り臨機応変に対応してみます」
とワザと慇懃に言った。
「舐めてると更に酷い目に合うぞ」ボトフは唸るように言った。
「ジャスコナート大隊長の確信に答えられるかはまだ分かりませんが、全力で事に当たります。ボトフ隊長もご忠告感謝いたします」
ルザロワは二人に敬礼した。
「全く、怖いもの知らずだな」
二人はジャスコナートの部屋を出ると、足早に第13分隊の控室へ向かった。
「そんな事ございません。ガクブルですよ。プロフィールを見るに、喧嘩ばかりしているのですね」
「君は落ち着いて見えますがね。彼らが喧嘩するのは他の隊の隊員や上司です。少し悪口や皮肉を言われた程度ですぐ暴れるので」
「13分隊の隊員同士は仲が良いのですか?」
「ええ、副隊長のクリス・ワイラーが言う事には従います。私の事は無視でした」
「クリス・ワイラー…ですか」
控え室の前に着くと、やや青ざめた顔のボトフが後ろに居たルザロワへ振り返ると言った。
「此処でお別れです。後はよろしく」
「え?皆の前で紹介は?最後に会わないのですか?」
「結構です。奴らは既にあなたのことは知っているはずだ。独自の情報網を得ているようです」
「あなたと隊員達は、お互い問題だらけの行動に思えますが」
「文句はジャスコナートに言って下さい」
おそらく、ボトフはルザロワを軽視して、彼らの隊長など務められるはずも無いと、決めつけているのだろう。
『まあ、無理も無いか』
ボトフの去っていく背中を見ながら、軽く溜息をついた。
『ボトフの言う事を参考にすれば、この先に待ち構えている可能性が高い。いきなり雷撃はどうでしょう?第一印象は強烈な方が良いかな、でも、取り敢えず電撃で行くか!』
ルザロワはポケットに入れておいた対ソード用絶縁手袋を出して、はめた。
ソードを腰から外すとスティックを出し、魔石に指を触れて、強く2回押した。
静電気のような空気がソードから立ち昇る。
「よし、入るか!」
ドアのノブを回し、ドアを開けた瞬間、目の前に隊員達が3人居てソードを振りかぶってきた。
『思った通り!』
鋭い突きを正面にいた隊員に向けた。
「ぐえ」みたいな声が聞こえ、後ろに吹っ飛んでいった。
その位置につきつつ振り向きざまに一歩踏み込んで左右に水平に薙ぎ払う。
「うわ」「うえっ」
一人の脇腹に入ったようだ。
もう一人には避けられたが、その方角に行ってソードを持つ方の二の腕を叩くと、相手はソードを取り落として悶絶した。
「痛てー、何だこいつ、」
終いまで言わせず、踏み込んで腕と反対側の肩を強かに打ち込んだら崩れ落ちた。
「今日付でボトフに代わり、第13分隊隊長に任命されたルザロワ・ガードナーです。新卒で至らない点は多々あると思いますが、任務を遂行するのに全力で赴く所存です。諸君らの協力無くては、任務達成は成し得ないと考えていますので、よろしくお願いします」
す、と言ったと同時に正面の奥で座っていたクリス・ワイラー副隊長目掛けて飛び込み、ソードを正面から打ち下ろす。相手は横っ飛びに避けた。
直接当てるつもりは無い。最大出力の雷撃モードに変えたからだ。
代わりに副隊長が座っていた椅子が粉砕された。
後ろから離れて座っていた青年が迫ったが、打ち込まれたソードをかわし、足蹴りして倒した。
「クソっ」
副隊長はソードを雷撃モードにして近寄ってきたのでワザともう一度正面から振り下ろした。受けようとソードの剣筋を合わせたところを横に避けて下から振り上げると、相手のソードは手から離れ、床に転がっていった。
相手からの徒手を警戒して一旦後ろに下がると、案の定拳を打ち込んできたので、腕ごと捉えて後ろを向き勢いよく背負い投げした。
腕を掴んで、もう一方の手で床に置いたソードを取ると、横たわったままの副隊長の鼻先にソードの柄を突き付けた。スティックの出る方だ。
「終わりにしませんか?それとも続けて鼻を潰されたいですか?」
部屋はしん、と静寂に包まれた。
副隊長はぎりっと奥歯を噛んで、忌々しそうにルザロワを睨んだが、ルザロワは更にソードを押し付けた。
「いや、終わろう」
目を閉じて再び開けた時には、素の表情に戻っていた。
ルザロワはにっこりして、そのままの体勢で
「端に座ってるあなたは来ないんですか?」
ジャケットを抱えて部屋の端に座っている隊員に一応声をかける。
「は、はひ。無理です」
「おかしいですね、プロフィールカードより人数が一人多い。助っ人ですか?」
一人最初に倒した男に見覚えがない。
「わざとカードを抜いておきました」
二人のうちの一人が言った。
「油断させるため?策士達ですね。えーっと顔と名前は覚えてますが、一応自己紹介って無理か」
ルザロワは部屋を見渡した。
倒した4人は「痛て〜よ」「何あの馬鹿力、ちっちぇー見かけと全然違う」等ぶつぶつ言っている。
そんなに小さくは無いと思う!
「あなたはクリス・ワイラー、副隊長ですね?」
「そうだ」
起き上がって、床にざっと胡座を描いた副隊長が言った。
「よろしく、ワイラー副隊長」
「キリーと呼べ」
「了解です。キリー、他の隊員達を整列させて下さい」
「ちっ」
変わらず剣呑としているが、先ほどよりはマシだ。
「おい、お前ら大丈夫か」
「痛い」「死ぬ」
キリーはため息をついて声をかけた。
「マイク、湿布持って来い」
マイクと呼ばれた青年は弾かれたように立ち上がって、救急箱のような入れ物を開けて中から湿布をつかみ出した。それぞれの隊員に配って、貼るのを手伝う。
それぞれ湿布を渡したり貼り合ったりしてる間、ルザロワは立って彼らの様子を見ていた。
他の隊員達の手当てが終わったのを見て、キリーも立ち上がり、彼らの方へ向かって手首を返すと、ため息を付きながら残り全員が立ち上がった。
「整列!」
キリーが怒鳴ると他の隊員達は一斉に動いて横列を作った。
『やればできるじゃないか』
副隊長の命令は聞くと言うのは本当だった。
「さっきも言ったが、第13分隊隊長に任じられたルザロワ・ガードナーだ。なにぶん学校出たてで、加減も分からない。あなた達にも迷惑をかける」
ルザロワは自分の横に立ったキリーを見上げた。
キリーは端に立っていた隊員を見ると、すぐ一歩前へ出て自分の名前を告げ、その後は順番に言う。
ヒューリッヒ・オールナーバー(ヒュー)
最初に突きをくらった。ソードの腕には自信があった模様。褪せた金色の髪と明るい茶色の目。
コプティーソ・イオス(コップ)
二番目にやられた。大きな目は吊り目がちで、見るからに気が強そうだ。明るい金髪とグレーがかった茶色の目をしている。
アザール・ジャラン(ザール)
キリーの前にかかってきた。細めの切長の焦げ茶色の目と髪、のっぺりとした顔立ちで、怪しい色気がある。両手の指が美しく、爪は綺麗に色々な色に塗られている。
トン・チャ・ハン(トム)
3番目にやられた。キリーに憧れて入隊。キリーにイジメから庇われたが、一緒に加害者として処分を受け13分隊に来た。白っぽい金髪と金に近い茶色の目。
マイク・カートン
いろんな雑事を引き受けている。内気らしく、ボソボソと話した。薄茶色の髪と青い目。見学していた。
「キリー副隊長に頼ることが多いのだろう?だからあなた達は副隊長を煩わせないよう行動してほしい。キリー、本日の予定は?」
キリーはため息を吐きながら、床に散らばっていた書類を持ってきた。
「13時から第一補給部隊の手伝いで、カレダ基地に荷物運び。補給庫前に集合。18時から24時、警察の手伝いで公邸からホテルまでの道程の警戒。中央警察署に竜騎乗で17時30分集合。以上」
「聞いた通りだ。いつも手伝いなのか?」
「大概な。13は数が少ないから単体で仕事引き受けにくい。よく懲罰房に出入りするから更に人が足りない」
「そんな事させませんからね。不満は直接私に言う事!個々のやり取りは禁止だ。以上、解散」
「隊長はこれからどうする?」
キリーに言われて思い出した。
「隣の私の部屋に私物を置きに行く」
「ちょっと待ったー!!」
何人かが叫んだ。
ザール「マニキュア」
コップ「俺の荷物」
トム「フィギュア!」
マイク「洗濯した服」
「あーもう!私物を置いてる者は一緒に来なさい!ついでに掃除してもらう」
「「えー!」」
「捨てて良いなら、来なくていいです」
「「「「行きます!!」」」」
部屋へ行って絶句した。机やベッドや棚は全て物で埋め尽くされていた。床も半分見えなくなっている。
ルザロワはかろうじて空いている部屋の中央に仁王立ちになると
「全部片付けなさい!」と命令した。
昼ギリギリまでかかって、ようやく部屋の中は空っぽになった。
「腹減ったー」「だるー」等不満たらたらの隊員達を食堂へ連れて行って、予約していた特別有料メニューを全員に奢ると言うと、やっと黙った。
皆で食べているとエレンがやって来た。
「午後からの任務、協力お願いしますね」
わざわざ耳元近くまで顔を近付けて言った。
「私にとって初任務ですので、お手柔らかにお願いします」
ルザロワはなるべく遠ざかって作り笑顔で対抗した。
「大丈夫、俺に任せろ。任務終わったら、俺の」
「その後も別の任務がありますので、無理です」
即断る。
「本当に?」
エレンはキリーの方を向いて尋ねた。
「はい、警察の手伝いに」
キリーは嫌そうに答えた。
「じゃあ、明日は?」
「当分無理です。私は未経験で、隊長になったところです。慣れるまで当分自主練に部下と取り組みます。いざと言う時に連携が取れなくては洒落になりませんので」
「自主練?ダル!」ザールが言ったが無視した。
「自分の竜は決まった?」エレンはなおも会話を続ける。
「この後会いに行きます。ご一緒されますか?」
「おや、珍しい。誘ってくれるのか?」
「どうせ嫌と言っても付いてくるでしょう?早くランチを食べたいので」
「わかった。ありがとう、出入り口付近で待ってるよ」
ルザロワは肩を上下させてため息をついてから、食事を口に運んだ。
「第一の副隊長は先輩か?」
「そう、一つ上」
「異様に親しげだったな」
ルザロワは怪訝な表情でキリーを見た。
「元々距離感のおかしい人でしたし。お世話にはなりました」
「恋人?」
「ノーコメント!」
「セフレ?」
「質問はもう終わり。私は恋人は竜が良いんです」
ルザロワは優雅に昼食を平らげていき、終わるとさっさと立ち上がり、食事のトレーを受付けに返して出入り口に向かった。
キリーが目で追うと、その付近の壁にもたれていたエレンが近付いたルザロワの肩を抱こうとして跳ね返されていた。




