表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

2 自立 挑戦と養父

「あなたのお披露目会ですよ。公爵令嬢として認知させて不要な相続争いを避けようとしているのに本人が廃嫡して欲しいなぞ笑止千万。エディじゃなくても許しませんよ」

ビルはルザロワにはっきり言った。

「私を認知するのは止めてほしい」


「何故です?これで公式にあなたはヘイリング公爵令嬢として扱ってもらえる。しかも、世界有数の企業を束ねるイクォリティ財団総裁の跡取りとして。それなのに何が不満なんです?」

ルザロワは自分の髪を掴んだ。

「跡取りとかそんなの無理!私はエディと全く似てないし、どう見てもデフレンド人よ!総裁はビルがなればいい。だって、従兄弟なのでしょう?」

「私は確かに戸籍上はエディの父親の弟の子だけど、母の連れ子で血の繋がりは無いんです。私達は何年もかけて今の地位を築いた。あなたもこれから2人の指導を受けて相応しい総裁になればよろしいのです。エディも無能な人間は相手にしない。あなたは期待されている。第一に」


ビルはことばを区切った。

「何?」

「エディは10年かけてあなたの事を育てた。あなたに対する執着は益々高まっている。今更自分と似てないとか些細な理由で手放す事は絶対しない」

「些細な事柄では無いけれど、そうだね、このままだと私はここから絶対出してもらえない」

「出る必要はないでしょう」

「それが嫌なんだ!ねぇ、ビル、このまま居続けて私の意思はどうなると思う?もう限界。エディの事を父親だと、血が繋がっているとは思えない」


ビルは少し動揺したが、押し隠した。

「彼は異性として魅力は底知れない程ありますから、私と彼しか知らないシュガーなら、惹かれて当然でしょう」

「そんな意味じゃ無いよ。私よりビルの方がエディを遥かに愛してるし、エディもあなたの事が一番好きだし信頼していると思う」


「エディが、私を愛してくださったら、とても良かったのですが」

ビルはしみじみ言うと、ルザロワに向かって微笑んだ。


「私がどんなに愛そうとも彼は当然の忠誠を向けられてると思っているだけです」

「そんな事無いよ。なんだったら、ビルがいなかったらエディは生きていけないよ」


ルザロワはビルから目線を外した。

「ビル。その、最近のエディは、なんと言うか、怖い。私を見ていないんだ」


「最近ではありません。ずっと彼はあなたが自分をジルの代わりだと自覚して、その様に振舞うのをあなたに強いている。私はあなたがそれに納得していると思っていましたが?」

ルザロワはゾッとして首を振った。

「そんな訳ないでしょう!」

「では、どうしますか?」

「取り敢えず、逃げるしか…」


「何処へ?」

ビルはおかしそうに尋ねた。

「彼の権力が及ばない所」

「それは、難しいですね」


しばらく考えた後、ああ、と思いついた様に机上の書類のいくつかを取り出した。

「何かあるの?」

「あなたは座学より身体を動かす方がいいでしょう?護身術や要人警護のスキルも多少習っている。竜飛行士特殊処理隊が、良いのでは?小さい時、竜のアルペルも可愛がっていたでしょう?」

「アルペル!懐かしいな。よく背中に乗せて、貰った?飛んだ事あった?」

アルペルの名前を聞いて記憶が浮かんだが、はっきりとはわからない。

「飛べるほど大きくは無かったと思います。覚えていらっしゃらないのですか?」

「言われて何となく。竜飛行士か、取り敢えず竜に嫌われなければ良さそうだけど」


「そうですね。軍はイクォリティ社から武器提供で多大な取引を受けているから、あなたを死なせないようエディが介入してくる。警察も一部警備で我が社が委託されてるし、勤務地を選べるので、ここから通わされるでしょうね。

でも、竜飛行士特殊処理隊なら寮付きで、竜士訓練学校があって2年後に配属されます。あそこはノータッチです。竜飛行士と竜整備士の隊員は全てデフレンド人で、幹部のスプレンド人は軍から一部出向しているだけなので、あまり旨味が無いからです。どうです?」


ルザロワは受け取った書類の最初を読み、

「竜飛行士か、いいかも!募集してるって。部屋で見てみる」

と興奮して言った。

「駄目ですよ、あなたの部屋だとエディに筒抜けです。申し込むならここからにしないと」

「筒抜けってどう言う事ですか?」

ルザロワは不安になってきた。


ビルは答えずに募集ページの紙に移るとさっさと記入していった。

「今ここで要項を読んで下さい。あなた宛に来る手紙も私宛に経由しておきます。いいですね?」

書類を横から覗き込んだルザロワは最初から驚いた。「ルザロワ・ガードナーって私の事?」

「ジェレミー・ガードナーの息子になったままですから」


衝撃的な発言内容に絶句した。

「ジェレミー・ガードナー?誰?」

「あなたの父親だった人です。『シュガー・ルザロワ・ユダ・ヘイリング』が勿論今のあなたの名前ですが、『ルザロワ・ガードナー』としても登録が残っていますので、そちらの方がいいでしょう?ヘイリング一族とわからない方が」

「そんな名前があったなんて。まあ、名前でバレちゃ意味ないから助かるけど」


ガードナー。聞きなれない家名に不安が募る。

「ガードナーも、ヘイリングの分家の一つでした。唯一の跡取りのジェレミーが死んで断絶しましたが」

「亡くなったの?」

「だから引き取った、と言うか行方を突き止めた。エディが希望したから、あなたを連れ戻した。ジェレミーは、アルコールと麻薬中毒で心臓に持病があって、心不全で死亡したらしいですが」


ビルは人から聞いた様な無関心を装っていたが、ジェレミーの最後に立ち会ったのは彼である。死後の手続きも指示した。


幼いルザロワをヘイリングから受け取った時の重さをよく覚えている。

また、彼が人を死に追いやったと心が遣る瀬無さで一杯だった。


今まで生き残っている自分は、全く優越感を感じないかと問えば、感じてるし、安堵もしている。


未来永劫罪悪感を背負って生きていかなければならない。


『それでも、私は貴方の傍にいたい。私が居なくなったら彼はどうなるか』


引き取られた経緯を知らなかったルザロワは、死後ではなく自分がいなくなったせいでジェレミーが死んだような気がしていた。

「どうして私が一番何も知らないの?」

「知る必要が無い、とエディが決めたからです」

「そう、でしょうね」

ルザロワはため息をついた。


「ジェレミーさんは、どんな人だった?」

ビルは引き出しから本人の情報を書いた書類を出した。

「私が教えた事はエディには内緒にしておいて下さい」とビルは釘を刺した。


初めて見る父親だった人は、金髪で緑の目の男だった。何となくヘイリングに似ている。


いろいろひどい経歴を聞いたが、本人は穏やかな顔つきで、ルザロワをヘイリングと母から奪って逃走するような大胆な行動を起こす人だとは思えなかった。

麻薬やアルコールに溺れた人だとも推察できない。


「母がそんな人に子供を託す?自分が育てられないなら、なおさらエディに預けるはずだよね?」

「仕事が続かず、段々と落ちぶれていった挙句酒や麻薬に手を出してしまったようです」




ヘイリングの元に残ったジルベッタも悲惨な末路だった。ベッドから起き上がる事もできなくなったが、それでも彼の狂気に近い偏執的愛を受け続けた。


ビルはヘイリングが弱りきっているジルを世話をしながらも、細くなった体をあちこち愛撫しているのを何度も見かけた。


「愛しているんだ、シュガー。君は私だけのものだ」

ジルは一切抵抗をしなかった。する力もなかったのだろう。

「あなたは誰も愛していない。ルザロワは渡さない。あの子は放って置いて。私がいるから良いでしょう?」

弱々しい声ながら、ジルはヘイリングを見ずにはっきりと言った。



いよいよ死ぬ間際、ジルベッタに取りすがり

「私を見て!愛してるって言って!もう一度私の名を呼んでくれ!もう一度、エディって、言って!聞きたいんだ、もう一度君の声が、お願いだ死なないで」と半狂乱になった。

最後は食事も取らずに不眠不休で見守り続けたが彼のジルベッタへの願いは叶う事はなかった。


最後は固く口を閉ざしたまま、ジルベッタは逝った。彼女の死が分かった途端、ヘイリングは意識を失った。

しばらくして目を覚ましたが、その度に自殺を図ろうとしたので、止むを得ず鎮静剤で眠らせ続けた。

ビルは粛々と葬儀を取り行った。


1週間経ち、ヘイリングは漸く大人しくなったが、ボンヤリと彼女の葬儀の記録を延々と見続けるだけの生活になった。


映像に映る、棺桶に納まったジルベッタは痩せ衰えていたが、周りを色とりどりの花で埋め尽くされた様子は、彼女の儚い美しさを際立たせていた。


後にビルは彼女の身体をエンバーミング加工しなかった事を責めたが、ジルベッタの遺言と、母親が遺体を引き取る事を熱望した為行えなかったと言い訳した。


本当は、死んでからも愛情を向けられるジルベッタを見るのが嫌で嫉妬で気が狂いそうだった。

だから母親の申し出に喜んで応じたのだった。



父親がヘイリングに事業を次々任せるようになり、自分の意思を無くしていたヘイリングは、言われるがまま次々に成果を上げた。

やがて財団を作り他の貴族達を圧倒した。ただ、採算が悪い企業を容赦無く切り捨てたので、不利益を被った一部の貴族や末端で働くデフレンド人労働者からは非常に受けが悪かった。






ルザロワはビルの手引きでこっそり邸を出ると試験を受けに行った。


ルザロワはヘイリング家の一族が行う伝統として、暴漢から身を守る為、幼少時から身体を鍛え、ソードという魔石を埋め込んだ電撃を出せる剣の修練に努めた。(普段は使えないようにロックしてある)

結果、公爵令嬢とは思えないほど身体能力は上がり、優秀なヘイリング家の護衛に負けず劣らず戦えるようになった。




竜士の試験はまず、竜に拒まれないことが最低条件だ。

志願者は、まず最初に1人ずつ竜舎を通り抜けさせられる。その時中に居る竜が不快感を示すと、不合格だ。

万が一暴れた時用に竜一匹ずつ竜整備士と呼ばれる世話人が付き、竜の様子を見て判断する。

その結果、試験も受けられず、帰される者が半数いる。



ルザロワは邸でほぼペット化していた竜アルペルを飼っていた事を思い出したので問題無かった。一匹頭を寄せて来た竜がいたが、ルザロワはアルペルにしたように顎をカリカリ撫でてやったらぐるぐる喉を鳴らした。これは好意的な行動なので問題にされなかった。


後は普通に一般常識を問う試験と、試験官と軽く試合をして基礎体力や適性を判断される。

試合と言っても試験官は本気では無いので、こちらが適当に手を抜いても、ルザロワは無難に試験をパスした。


結果、ルザロワは竜士育成専門学校に入学を許可された。

これで少なくとも2年はヘイリングから距離的に離れられる。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ