14 竜士育成専門学校 2年生の生活と仲違い
エレンが卒業して、ルザロワ達は二年生になった。
卒業式では花束を渡す時に、ルザロワからエレンに頬へキスしてあげた。口にされる前に身体を離したら、エレンの赤くなった顔が見れたので、出し抜けたようで良い気分で見送れた。
後でミカに怒られたが。
1週間の休暇の時に、漸く邸に帰ってみた。
すると、ヘイリングの髪が顎ぐらいで切り揃えられているのに驚愕した。
昔は膝ぐらいまで長くて、ビルが毎日髪を洗うのを手伝い、毎朝結っていたと聞いていたからだ。
ルザロワが知っているのは腰までの長さだが、充分長い。
「頭が軽いし、髪を洗うのが楽になった。もっと早く切るべきだった」と平然として話すので、
「それは、良かったです」と、やっと言うと頭を撫でられた。
勢い込んで「その髪型も似合ってます。素敵です」と顔を赤らめると
「ありがとう。可愛いね、シュガー」
と抱きしめられ、顔のあちこちにキスされた。
『やっぱり親子の距離じゃない!』と心の中で叫ぶのだった。
入学式では総代として他の3人とで式の進行をした。
今年度で自分達は卒業だが、後輩ができるのは悪いことでは無い。
決してエレンのような悪戯はせず、良い先輩になる事を誓った。
二年になると一年のレース時のコースが通常の練習コースになり、飛行もより複雑になった。
その一つ、超低空飛行があって、地面スレスレで飛び、時には地面に降りて走らせ、また飛ぶ。それを手綱と掛け声で指示する。
他には、狭い間を真横に傾けて通り抜けたり、一回転したりとアクロバティックな飛行をする。
輸送の練習では、竜の大きさ(体長、飛翼の長さ、体重等)から運べる荷物の重さを計り、積載時の荷物の位置を決める。
荷物を吊り下げ、指定の位置に下ろした時に竜を上で待機させるなどの練習。
座学では天気予報も重点的に学ぶ。飛行中、落雷の危険があるからだ。
一年の時のより空き時間が少なく、ミカと出かけられる時間も減った。
ミカも竜舎に居る時間が長くなり、同じ部屋でも挨拶だけで終わる事が多くなってしまった。
ルザロワはミカと自分を取り巻く状況に不満と不安を常に感じるようになってきた。相変わらずヘイリングの事も話せていない。
だが、学業に手抜きはできない。トップの地位を保つ事が特殊処理隊幹部候補の第一歩になるからだ。
エレンは卒業後は専ら手紙を寄越した。流石に新人は外出する暇は無いようだ。
忙しい合間を縫って隊生活の様子を書き綴った手紙がまめに送られてきた。
学校にいた時と同様要領良く立ち回っているようだ。他の女と遊んでいないと強調しているのには少し笑った。
日々の課題に追い詰められた感が消えないルザロワは、それを読むのが意外に気分転換になった。
貰いっ放しもどうかと、時々ルザロワも日々の様子を業務報告のように抜粋して書いて送ると、的確なアドバイスが返ってくる。
唯一ふざけた文はルザロワに向けた恋情だけで、始めと終わりに1行ずつ記されているだけだ。
「本当に、真剣に僕の事好きなのかな。違いますよね?揶揄ってるだけですよね?」
ルザロワはつい手紙に向かって呟いていた。
「聞いても答えは信用できないけど」
ベッドに横になったまま手紙を読んでいたルザロワはそのまま眠ってしまった。
朝、ルザロワは激しく身体を揺らされて目が覚めた。
「なんで、エレン先輩からの手紙抱きしめて寝てるの?」
ミカだ。
急に起こされたので頭がまだはっきりしない。
「手紙のやり取りしてるって聞いてないんだけど⁈」
「なんですか、寝てたのに無理に起こして、朝っぱらから言う事?」
頭の中で思ったつもりで口に出していた。
寝巻きの両襟足を掴まれて、頭を引き上げられた。
抵抗する間も無く、パァン、と音がして頬が熱くなった。
え?叩かれたのか?
目を開けると手を振り上げて真っ赤な顔をして怒っているミカが見えた。
カッとして、ミカの手を振り払って起き上がると
「何するんですか!」と叫んだ。
頬はじんじん痛んできた。
ルザロワは生まれてから今まで、暴力を振るわれた事が無い。ミカから頬を叩かれたのに、大きな衝撃を受けた。
「僕とは時間が取れなくても、エレン先輩の手紙は読んでるんだ」
ミカは怒りで震え声になっている。
「それで僕への愚痴でも書いて送ってるのか⁈」
ルザロワは見当違いの言葉に唖然とした。
「そんな事してません、手紙もだいぶ前に来てたのをやっと読んでただけで」
「今まで来た手紙、早く出して!!全部捨てる!」
「それはやり過ぎだ」
「ルザロワは僕の恋人だ。他の奴からの物なんて要らない!」
「大袈裟過ぎる!たかが手紙じゃないか。おかしいよ」
「ええ?どうして渡せないんだ!やっぱり、前からエレン先輩とも付き合ってたんだろ」
「違います!まさか、ミカは僕がそんな不実な事すると思っていたんですか?」
「わからないよ、君は」
途方に暮れたように呟いたミカは、いつの間にか掴んでいたエレンからの手紙をぐしゃっと握りつぶすと、ルザロワのベッドの上に投げつけ、部屋から出て行った。
「朝から痴話喧嘩は、止めてくれよ、目が覚めちまった」
コナーは自分のベッドから降りるとルザロワの側にやってきた。
「ごめん、コナー」
ルザロワは震え声で謝って、つい涙が出てきた。
「ミカが、僕を叩くなんて、信じられない」
コナーはやれやれ、と肩をすくめた。
「そうだな、ミカが悪い。でも、手紙の相手がエレン先輩なの黙ってたのはお前が悪かったな」
「単に先輩からの手紙でも駄目なのか」
ルザロワは手紙のシワを伸ばすと机の引き出しにしまい、顔を洗いに行って、ハンカチを濡らして頰に当てがった。
「朝ごはんどうする?」
「…やめとく。口の中ちょっと噛んだ。直接教室に行く」
「わかった」
コナーは二人の騒ぎの中でも寝ていたウィルを叩き起こして一緒に食堂へ出かけた。
「上手くいかないな」
最近すぐ怒るミカに萎縮している。まさかこんな目に遭うほどとは思い至らなかった。
手紙を捨てろと言われて、嫌だった。余計な事もされたが、竜士の先輩としては頼りになる人だった。悪人では無いし、エレンにどこか惹かれているのも完全には否定できなかった。
『え?エレン先輩に惹かれてる?無い無い!』
ルザロワはぶんぶん首を振った。
「はあ、授業受ける気になれない。休もうかな」
ベッドに横になった。気分が落ち着いてくると眠くなってきた。
少しだけ寝よ、と目を閉じるとあっという間に寝てしまった。
結局、コナーが昼食前に起こしに来るまで爆睡してしまい、自分が思うより疲れていた事に気付いた。
二人で食堂に行ってランチを食べていると、ミカもやってきたが、テイクアウトを取ると顔もろくに見ずに出て行った。
「もう駄目かもしれない」
「まあ、しばらく様子を見ろ」
コナーは肩を叩いて慰めた。
しかし、それからも無視は続き、遂にミカが同じ竜整備士の後輩とよく一緒にいるところを目撃するようになってしまった。
話しかけようとしたが、二人のあまりの親密さに諦めた。
感情の向け所が分からず、焦燥感と諦めと色々な感情が溢れ出し、勉強も手に付かない。
竜の騎乗にも不注意でハルペルに気を使わせてしまい、遂にルザロワは精神的に追い詰められた。
つい、エレンに今の状況について手紙を書いたのだ。
すぐに返事が来て、5日後に会うことになった。
それまで後悔と久しぶりの再会への期待で、また心を揺さぶられる。
ルザロワは思い通りにならない感情に四苦八苦しながら時を過ごした。
約束の日、学校の門を出ると私服のエレンがやって来た。
「エレン先輩」ルザロワはぎこちない笑顔を見せた。
「ルザロワ、久しぶりだな。元気、じゃないよな」
「お久しぶりです。でも、しょっちゅう手紙くれてたでしょ」
「お前、返事あまりくれなかった。愛想のない内容ばっかりだし」
「2年生になって忙しいんです。ご存知でしょう?手紙は書いた事無いし、下心も無いので」
「今日は?」エレンは近寄るとルザロワの片頬にそっと手を置いた。
「え?」
「期待して良いのか?」
ルザロワは顔を赤くしたが
「先輩が原因だし、話をしたかっただけです!」
と手を押し退けて否定した。
「じゃあ、取り敢えず、先に昼ご飯行こう」
「その言い方!」
いつものエレンにほっとして、軽妙にじゃれ合いながら連れ立って辻竜車で町の中心まで来た。
前回とは違う、でも雰囲気の良いレストランで、置いてある家具類がやたら上等だった。
「ここは王族の隠れ御用達らしいぞ」
「成る程!でもデフレンド人が来ても良いんですか?」
エレンはにっこり笑って言った。
「王室は一応差別反対が建前にある。あと、ここのコック長は俺の友達だから大丈夫さ」
「それなら安心ですね」
二人は出てきた料理に舌鼓を打った。
後でコック長が自らデザートを持って来た。
恐縮して礼を言うルザロワをじっと見てから、エレンに移し、ニヤッと笑った。
「お前、毎回俺が連れてきた奴の顔見にくんのヤメロ」
エレンが小声でコック長に文句を言った。
「彼は本命しか此処には連れて来ないらしいから、安心して」
コック長はルザロワに小声で言うと含み笑いのまま去って行った。
「何人本命が来たんでしょうね?」
ルザロワが苦笑いをすると
「友達とも来たって!あいつ、後で締めてやる」
とエレンは頭を抱えて怒っていた。
食事が終わると、その辺りの商店街をぶらぶら歩いた。
「本屋は行きませんからね!」
「行かない。それに怪しいものは口に入れなきゃいいんだよ」
「怪しいかどうかわかりません。そんな問題じゃないです」
ルザロワが不機嫌にぷーっとほおを膨らませると、エレンは指でそれを突いた。
「あいつとは趣味があっただけで、恋人じゃ無いから」
「どうでもいいです」
「前嫉妬してたじゃないか」
「あの時は薬のせいで」
「薬のせいでも、心の中で思ってたことしか言わないぞ?」
ルザロワはハッとしてエレンを見た。
「僕が…あなたに好意を持ってて、本屋に嫉妬したと?」
「やっと気が付いた?」
ルザロワは顔を赤らめた。
「どうして、こんな人を?有り得ない」
「俺も有り得ないよ。こんなに他人に執着するの。大抵すぐ諦めるのにな。しかも、他につまみ食いもしてないし」
「本屋には行ってない?」
「あの日以前に2回しか行ってないって!」
「行ってるじゃないですか!」
「あいつとはヤってないからな!」
ルザロワは、エレンの所業が理解できずに、ため息をついた。
「私は付き合ったのミカが初めてで、大切にしたいと思ってました。でも、思ってるだけだったのかも。ミカの束縛が嫌になってたのに、ちゃんと言えませんでした。友達の時はそんなの気にしてなかったのに」
「恋人に気を使うのは当たり前だが、卑屈な態度を知らずに取ってたのか」
「そうですね、だから余計ミカが調子に乗って圧力かけてきたのかもしれません」
「よし、続きはこっちだ」
エレンはルザロワの手を取るとぐんぐん歩き出した。
「何処へ行くんですか?」
エレンはにっこり笑った。
「俺今日外泊許可貰ってんだ。宿取ったからそこで話を聞くよ。俺の事も聞いて欲しい」
「え?」
ルザロワが戸惑っていると早々に着いてしまった。
「レストランから近いですね…」ルザロワはエレンをジト目で見た。
「たまたまだ!前のところより良いだろ?中も広いし」
躊躇うルザロワから手を離さずに中に突き進んだエレンはカウンターで鍵を受け取ると正面の階段を登っていく。
「話だけですよね?」
エレンはドアの前で念を押すルザロワの肩も掴んで部屋の中に入れた。
中は入ってすぐ丸いテーブルと椅子が2脚あって、その奥がベッドになっていた。ベッドの奥に窓があって、外からの光がさんさんと入ってきていた。
室内の様子に気を取られた時、エレンはルザロワの正面に立って抱き寄せ、顎を取って口付けた。
ルザロワは離れようとしたが、深くなる口付けに力が抜けていく。
エレンの舌がルザロワのに絡み、唾液を吸い上げ、自分のを入れてくる。溢れそうになって嚥下してしまった。
「ん、先輩、話を」
ルザロワが息絶え絶えに言うと
「後で」
とルザロワの服を脱がせ始めた。
「ちょっと待って」
ルザロワはエレンの両手を上から包んだ。
「まだ自分を誤魔化すのか?」
エレンの金色の目がルザロワを写した。
竜の目は金色だから、金目は竜と一番相性が良いとされている。それを持つデフレンド人は先祖帰りと蔑まれたり、竜を支配できる天人の次に偉いと持ち上げられたり極端な扱われ方をする。同じ金目のウィルは前者だろう。
エレンはどっちだったのだろう?
どっちでも良い!決めた。
「シャワー浴びさせて下さい」
ルザロワは半ば自棄になって自分で脱いでいった。
「一緒に入るよ」
拒もうとしたが、エレンはさっさと服を脱いで強引に浴室へ連れて入った。
シャワーを浴びながら抱き合ってまたキスし合う。
身体を拭いていると後ろからエレンに抱きつかれた。
そうしながらルザロワの耳を舐った。
「先輩、身体拭いて下さい」
「エレンって呼んで」
「なんか、恥ずかしいな…」
「今更何言ってんだよ」
「エレン」ルザロワが振り返って小声で言うと顔のあちこちにキスされた。
「よく言えました。」背中越しに腕を掴まれ、否応無しにベッドに座らされる。
「こんな、直ぐ応じてしまって、良かったのかな」
ルザロワがポツリと言うと、エレンはルザロワの髪をタオルでくしゃくしゃに拭いた。
「もう、応じるの俺が最後な!」
「そうしたいです。あなたは分かりませんけど」
「俺も終わりだ。身体見せて」
「さっき見たでしょう?」
「じっくり見たい」
ルザロワはバスタオルを椅子の背に投げ掛けるとベッドに寝転がった。
「どうぞ」と手を伸ばす。
エレンはそばに近付いてルザロワの上に跨った。
「ルザロワ、綺麗だ」
ほうっとため息をついて見惚れる。
防護服で覆われているので日焼けしていない白い肌とほっそりと引き締まった体幹。胸は控えめだ。
ルザロワからはっと息が漏れる。エレンはたまらず吸い付いた。
「ああ!」
ルザロワが無意識に舌を出して舐めたのを、更にエレンが上から唇を舐めた。




