10 竜士育成専門学校 初めての竜飛行
テスト休みの最後の1日は部屋から一歩も出ずに過ごした。シャワーも浴びに行かず、トイレも最低限で食事はウィルに頼んだ。
「ルザロワ!」
「ミカ!おかえり」
ルザロワは満面笑みで迎えたが、ミカの様子がおかしい。
「どうしたの?ミカ」
「さっき、聞いたんだけど」ミカは冷たい声で言った。
「ルザロワがエレン先輩の部屋から昨日の朝すごい勢いで半裸で飛び出してきたって」
「え!違うよ、上Tシャツ着てたし、下スラックス履いてたよ、あっ」しまった。
ルザロワは口を押さえたが、遅かった。
「エレン先輩は上半身裸でそのあと飛び出したみたいだけど」
観念して言った。
「…来てないよ。それから会ってない」
ミカは呆れた口調で言った。
「あれだけ近付くなって言ったよね?」
「うん、ちょっとしたハプニングで、何も無かったからね、多分」
ルザロワは目を逸らした。
「多分?」
「エレン先輩の言葉を信じるなら。僕は寝ちゃって」
ルザロワは飲み過ぎて叔父と喧嘩になり、と原因は嘘をついたが、その後のことは本当の事を言った。
「起きたら先輩の部屋で吃驚した」
コナーは話の途中から入ってきて、同じことを言っていたので、もう、そんなに広まってるのかと倒れそうだった。
意外な事もある。
「エレン先輩は何も言ってないんだね。絶対僕の事モノにしたとか広めてそうなのに」
エレン本人はルザロワについて何のコメントもしていない。
「広めて欲しいの?」
「うえっ絶対嫌です。恋人とか言われてたら否定しますけど、目撃証言だけなら先輩は絡んで無いだろうな、と思っただけです」
ミカの非難がましい目付きにルザロワは慌てて言った。
「ただ、朝まで一緒にいたのは本当の事だから、否定できない」
「ルザロワ無防備すぎるよ〜」
「ごめん、君達を裏切ってしまった。ミカの虫除けは効いてたよ?でも朝から先輩があんなにハイテンションだとか」
「寝られなかったから余計だろ」
「だって、キスしたいのはわかるけど、手に何か塗ってまで人の尻に指を突っ込みたいなんて、おかしかったよ、絶対!」
ルザロワは身体をブルっと震わせて言った。
「え?」「尻?」
ミカがさーっと青ざめた。
「突っ込まれてないよね?他のも突っ込まれてないよね?」
「?結局何も突っ込まれてないよ?」
「お前、それ滅茶苦茶危なかったじゃないか!」
「そうなんだ!何入れるつもりだったんだろう?先輩はただの変態だ!」
ミカとコナーは二人で顔を見合わせヒソヒソ話し出した。
いや、そんな、まさか、と声が聞こえたが、ルザロワには聞こえない。
「なあ、ルザロワ?」コナーが恐る恐る言った。
「SEXのやり方知ってるか?」
「コナー、幾ら何でもそれは直球すぎるだろ」
ミカが顔を赤くしている。
ルザロワは素直に聞き返した。
「何ですか、それ?」
「「「えっ⁈」」」
ウィルまでが驚いていた。
そしてルザロワが散々教えてもらった結果、その日一日中恥ずかしくて、顔を上げられなかった。
「それで、先輩が驚いてたのか」
エレンを見かけると向こうが気付く前に走って逃げていた。
「俺、結局何もしてないんだけど」
囃し立てられるエレンはその様子にぼやいて見せるのだった。
後日他人経由で靴下が洗濯されて返って来た。渡されたミカが怒ってもう一回洗濯して、やっとルザロワの手元に返ってきたのだった。
「絶対エレン先輩には近付かないでね」
ミカは念入りにルザロワに言って誓わせた。
「僕はできればミカの傍にずっと居たい」ルザロワは思わず言った。
「僕はルザロワが大好きで、キスしたりSEXしたい」
ミカは大胆に告白した。
「ルザロワにははっきり言わないと通じないとわかったからね」
ルザロワはあらゆる意味で恥ずかしくて顔を赤らめながらミカにキスした。
「私もミカが好き。キスはいつでもいいけど、もう一つはまた今度」
「必ずだよ!」
ミカは満足して頷いた。
こうしてルザロワはミカと付き合うことになった。
実技でついに竜と飛ぶ日がやって来た。
ルザロワはまずあの日のトラウマを克服しなければならない。
「はあ、大丈夫かな、いや、絶対飛んで操縦してみせる!」
「そんなに気合い入れても、飛んでくれるの竜だぜ」
コナーがルザロワが緊張しまくっているのを見て声を掛けた。
「せめてミルンならなあ。ハルペルって竜初めてなんです」
鞍を担いで移動するルザロワは不安を口にした。
「どの竜も優しいから大丈夫だよ」
「でも、初日はエレン先輩の言う通りになったじゃないか」
「まあな、その後はマシになっただろ?今日は飛ぶだけだから大丈夫、なはず」
「絶対大丈夫と言って、コナー」
候補生達は念入りに竜達とスキンシップを図り、ついに騎乗した。
ルザロワはハルペルの前に立って
「今日はよろしくね」
と言うと、ハルペルはグルグル喉を鳴らし、顔を擦り寄せた。扱いやすそうで内心ほっとした。
「竜達はルートをわかっている。無理に逆らわずに今日は乗らせてもらいます精神でな!」
ウッドナッツ教官はニヤッと笑った。
「飛んでこい!」
「ハルペル!飛んで!」
手綱を引いた。
ハルペルは頭を下げた。
「え?ハルペル?」
頭を下げるのは、降りて良いよ、と言う合図だ。
「いや、違うって、飛べ!」
また頭を下げる。
「ガードナー!早くしろ!」教官が促す。
「お先にどうぞ、ハルペルが降りろって」
「わかった、次行け!」ルザロワの隣の候補生に命じた。
「僕も後で…」
「早く、しろ。減点されたいか」
少し低い声で言われて、背筋を伸ばし、覚悟を決めたように言った。
「行きますよ!サカキ!飛んで!ゆっくりうわあ〜」
浮かび上がった竜に、隣の候補生はしがみついて飛んで行った。
ルザロワは安全ベルトを外して降りた。
「ハルペル、どうしたんですか?どこか具合悪いの?」
ハルペルは首を曲げて抱え込もうとするようにルザロワに擦り寄ってグルグル喉を鳴らしている。
機嫌は悪く無いどころか極上に良い。
壁際に立って見送っていたミカがやって来た。
「ミカ〜」
「さっき見た時は何ともなかったよ」
ミカが眉を顰めた。
「なんか、これ、求愛のポーズに似てるような」
「求愛ポーズだ」
ウッドナッツ教官がやって来た。
「発情期に入ってしまったようだな。しかもルザロワを番だと思ってるぞ」
「私人間ですけど⁈」
「あ、性器出てきた」ミカが冷静に観察した。
「ちょっと⁈言わないで下さい!僕は人間だよね⁈ミカ⁈」
「あー、どうして僕の恋人は浮気ばっかりするんだ」ミカは大袈裟に嘆いて見せた。
「これも違います!偶然傍に居ただけです!やだ、押し付けないでーハルペルー!!」
ルザロワはもはや涙目でミカに助けを求めるのだった。
ハルペルはベテランの世話人に連れられて番小屋に入れられた。今いる竜達は発情期では無かったので、特殊処理隊から回してもらうことになった。
ルザロワは別の竜、エレンに乗らされたミルンで無事2度目の飛行を終えた。
ブワッとした浮力に一瞬ぞくっと背筋が震えたが、腹に力を入れ、鎧にしっかり足を乗せ上を向いた。
ミルンは前回と同じように軽やかに舞い上がる。お互いリラックスして、今度は周りを見る余裕もあり、エレンには不本意ながら感謝した。
学校の全景を空から優雅に眺めた。毎日走らされるグラウンドも小さく見える。下で走ってる時は延々終わらない道なのに。
遠くの貴族街まで見え、ヘイリング邸のあたりも付けられた。
この距離が近いのか遠いのか、ルザロワはヘイリングに思いを馳せる。
まだ、学校近辺を巡ることしかできないが、やがて街を超えて移動する仕事に就き、ヘイリング家から離れる。
これはその第一歩だ。
初めての飛行の日、周りは気絶したり、酔う候補生が続出した…
二日後に番が到着したのでミカと見に行くと、お互いにいい雰囲気になっていた。
特殊処理隊の整備士がやって来ていたので、発情されたと言うと
「発情するほど好かれるのは珍しいんだがな。こいつは子供の頃リースされてたから成長が遅くて今頃なったんだろう。普通は一回位は卵産んでるぞ」と言われた。
竜は卵生で、番同士精子を交換して双方が卵を産む。
「リース?そんな事するの?」
「滅多に無いがな。整備士が必要だし。殆ど貴族、あとは動物園」
ルザロワの胸がざわついた。
「アルペル?」
ハルペルがルザロワの方を見てクウと鳴いて、近寄って来た。
「アルペル⁈そうか、お前、アルペルじゃ無くてハルペルだったのか!僕間違えてたんだ…」
ルザロワはハルペルの頭を抱きしめた。
「ごめんね、名前は間違えるし、忘れていたなんて。お前はちゃんと覚えてたのに」
「ハルペルの初恋だったんだな!だから、久しぶりに会って発情しちまったんだ」整備士は驚いて言った。
「そうか、そうだったんだ。光栄だ!僕も初恋だよ、ハルペル大好きだ」
お互いスリスリやってると、ハルペルは番から尻尾を噛まれ、ルザロワはミカによって、二人は泣く泣く引き離された。
「そこまで!近寄り過ぎる!交尾できないだろ」
「私達はまだいいじゃないか」
ルザロワは真面目に言い返すとミカは真っ赤になって
「そうじゃない!」と引っ張って小屋から出された。
「え、交尾とSEXって一緒だよね?また間違ってる?」
「間違ってないけど間違ってる!!」
中で整備士が笑っていた。




