エピローグ あたしの人生
一年後――――
「♪~♪~」
鼻歌交じりにメイは小さな町の中を歩いていた。
必要なモノを買い出し、顔見知りのおばさんと話しながら一緒に店の前まで歩くと、そこで別れる。
そして彼女は『マイライフ』と書かれた看板が設置された――自分の店へ入った。
小物装飾店『マイライフ』を始めました。
お金は、ノハさんが研究所からパk……持って来たもので、彼女が言うには――
「色々と物入りになる。それに、この金はお前の血で奴らが稼いだモノや、研究費用だ。ある意味、お前の金だし、当面は一緒に行動する。安心しろ。自分の世話は自分でする。この金はお前が自由に使え」
血を抜かれる事も無く、少しだけ身体の成長が遅くなった。まるで、本来の年齢に合わせて、ゆっくり命が進む様に、自分の人生を自分だけのモノとして……あたしの身体も受け入れた様だった。
けれどあたしは、自由になっても何をすればいいのか分からなかった。
自由な日常。自由にできるお金。あたしは自分がどうしたいのか、何をしたいのか……わからなかった。
「…………ふむぅ」
ずっと積み重ねられたお金を見つめて、そこで、右手首に着けたユキミさんのミサンガが応えてくれた気がした。あの時、彼が終始大事そうにしていた……亡くなってしまった奥さんと娘さん――家族との繋がり。その内の一つをあたしにくれたのだ。
「…………」
そして思い出した。何も無いあたしが、彼から貰って何よりも嬉しかったモノを――
そこからは、ただ出来る事をやった。
色々なアクセサリー関連の本を買い漁って色々と勉強して、手作業で作れる様々なアクセサリーを作った。
そして、適当な露店やバザーで扱ってもらうと完売する程の好評だった。
ひゃほーい! とノハさんに抱き着く。地元の人たちの協力で良い所に店を構える事にした。
ユキミさん、貴方がくれた繋がり……今度はあたしが他の人を繋ぐ番です。
幸い、お金は十分にあったので、店を建てるには問題なかった。ノハさんが日本で養子の手続きをしてくれて、店長はノハさんだけど、運用やその他の処理は全面的に任せると言ってくれた。
「よっし!」
出来上がった店『マイライフ』を見上げて、あたしは意気込む。
とは言っても、小さな町にある小さな店。人気があったとはいえ、中々売り上げが伸びない。ちまちま、手作業でアクセサリーを作って、カウンターで暇する毎日。一週間に一人か二人、お客さんが来れば良い方だった。
「……はぁ」
今日も日が落ちる。オレンジ色の夕焼けが店内に入り込む。今日は一人もお客さんは来なかった。全て手作りなので、どかどか来られても困るが。商売って難しい。
メイは、本日は閉店しようと立ち上がると、扉に取り付けられた来店を告げる鈴が、チリンチリンと鳴る。
「あ、いらっしゃいま――」
そして彼女は、来客した人を見て言葉が一瞬止まった。
「よっす」
そこには、ユキミが立っていた。彼は何事も無かったように、手を上げながら挨拶すると店内を見回しながら歩いて来る。
「ノハから聞いてたけど、なかなかいい店だな。町の奴らも良い奴だし、元気そうで安心したわ」
「あ……え……っ」
言いたい事はいくつもあったのに、メイは詰まったように声が出なかった。
「おいおい、過呼吸か? ほら吸ってー、吐いてー、心を落ち着かせてから言いたい事言ってみ? おにーさんは逃げないからよ」
「…………」
メイは眼を覚ました。どうやらカウンターで眠ってしまっていたらしい。
「――――」
ユキミの姿は無かった。
「夢……か。そうだよね……」
淡い理想だったと思うと心が締め付けられるような気持になった。待ってても意味は無い……けど、叶うならもう一度、お話をしたかった。だから――
「夢の中だけでも……見に来てくれたのかな……」
すると、店内の人影に気がついた。ビクッと少しだけ驚いたが、良く見るとノハが店内を見回している。仕事帰りなのか鬼の面をつけていた。
「びっくりしたァ……ノハさん、帰ってたんですか……」
メイは養子として引き取ってくれたノハの事を本当の母のように思って、色々な事を相談したりしている。
「今ね、夢にユキミさんが出て来たんですよ」
カウンターから立ち上がって、店の窓のカーテンを動かしながら語る。
「お店のこと褒めてくれて。びっくりしたけど、凄く嬉しかった。夢ですけどね」
あはは、と笑う。そして、最後のカーテンに手をかけたところで止まった。
「夢なんですよ……夢なんですけどね……」
思い出すのは、一年前の“命の炎”。渡されたミサンガ。話した内容。頭を撫でてくれた彼の大きな手――
「何で……夢なんだよぉ……」
ぽろぽろと、その眼から涙が零れ落ちる。我慢しても、考えないようにしても……どうしても思い出してしまうのだ。
「あたしの為だとか言って、勝手に死んじゃうし。残される側になって考えて見ろって話ですよぉ。オレかっこいいとか思って、最後は馬鹿みたいにかっこつけたに決まってます!」
一通り言いたい事を言ってメイは落ち着く。一度だけグスッと鼻をすすった。溢れる涙を我慢するが、どうしようもなくポロポロと溢れてきてしまう。
「泣いてませんよ、あたしは!!」
せめての強がりなから袖で涙をぬぐい、目の前に立つノハに対して、そんな事を叫んだ。
「…………」
すると、目の前に立つノハはカウンターに鬼の面を外して置くと、メイの頭をガシガシ撫でる。
「ちょ、大丈夫ですって。ノハさん――」
と、振り向いたメイの視界に入って来たのは――
「よっす」
髭を生やしたユキミだった。
「…………………………………………………………………………………わ」
「わ?」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!?????!??!?!?!?!?!?!?」
そんなメイの声に、ビクッと驚くユキミ。彼女は思わず背後のカウンターに乗り上げて反対側に背中から落ちた。
「いや、ホラ、びっくりさせたろーと思って。空港から直接ここに来たからさ、着替える暇も無かったし。着いたら君寝とるし。そんで、起きたと思ったら、なーなー泣き出すし」
スーツ姿のユキミは鬼の面をカウンターに置く。
「ネタバレのタイミングを逃しちゃって、こっちも大慌てですよ?」
流石に、あんな雰囲気の中で、マジックカード発動! 死○蘇生! とか言ってられないからね。
「相変わらず、阿呆ね」
ガチャッと裏口からノハも入って来る。彼女は『麒麟』の面を着けていた。
「お前も早よ出てこいや」
銃によるガスの引火で、膨張したエネルギーは『製薬原料保管室』から吹き出す様にユキミを押し出した。
爆風に背中を押され、風圧の濁流によって壁に叩きつけられそうになったが、横に同じように飛んできたフェンチャンの衝撃増幅機関の腕部分を手に装着し、正面の壁を吹き飛ばす事で吹き飛ぶ研究所からは脱出できたのだ。
そして、わー、と破壊した壁から外へ吐き出され、小川に落下。全身は焼けただれ髪に編み込んだ妻と娘のミサンガも燃え落ちてしまった。
そのままでも死に絶えるしかないと納得したところで、もう一つ何かが降ってくる。
それは手ごろなミディアムに焼かれて死んだ、“不死者”の兵士だった。偶然にも、そいつは懐からは無事な“不死薬”が覗いている。
色々と神様がお膳立てしてくれていると……ユキミは生きる為に“不死薬”に手を伸ばしたのだった。
朝になって動けるようになり彼は自力でノハと連絡を取った。敵の策略だと斬り殺されそうになったが、スリーサイズや小さい頃の恥ずかしいエピソードを言い当てると、ボコボコに殴った後で信用してくれた。
その後は、任務達成の報告と停止していた業務を済ませる為に日本へ。意外と上の連中が煩くて、国外に出るのに更に一年かかった。そして、全ての処理を済ませて故郷を出てメイの元へ来たのである。
包み隠さずに全て聞いていたメイは、ユキミに抱き着く様に胸に顔を埋めると、ぶぇぇぇぇと泣き出した。
「はいはい、よしよーし。頑張った。頑張ったね」
ユキミはよく妻や娘にやったように、メイを抱きしめて頭を撫でる。
「死んだことにしておいた方が、逞しく自立出来ると思って――」
メイは、ぶぇぇぇぇぇと泣きながら、怒っているようにユキミの胸をドフドフと叩く。
「ごふっごふっ! ちょ、もう“不死”じゃないから! 強くなった、すげー力がついたね! マジでごめんなさい!」
結構効く。実年齢は11歳とはいえ、肉体は18歳。思いっきり胸を叩かれれば結構なダメージだった。
「あいかわらず、髭がぼーぼーです」
「“不死薬”の反動だバカヤロー! 後半年は伸びやすくなってんだよ!」
と、一つのミサンガがユキミの眼前に差し出された。
「髪も寂しそうなので、あたしの作ったミサンガをあげます」
あたしの世界に風穴を開けて、繋がりを作ってくれたのは、ユキミさんが手渡してくれた大切なミサンガだった。
「ユキミさんは、あたしに大切な繋がりをくれました。だから、今度はあたしの番!」
二年前に娘が、オレと妻に手作りのミサンガを渡して笑ったように彼女も――
「――ありがとよ」
ユキミからの言葉に、満面の表情で彼女も心から笑顔を向けた。
「さっそく着けて見るか…………なんか、チクチクするんだけど?」
「この本を使って作りましたので!」
「『実録! 誰でも簡単に作れる呪殺の道具! 中級編』……イヤァァァァァ!!」
「大変でした。髪の毛を編み込んで作ったんですよ! これで、ばっちりです!」
「オィィィィ!! なにが、ばっちりです、だァ!? “呪殺”って書いてあんぞ!? 呪殺! しかも中級って! あれ? なんか髪に絡まって解けなくなったんですけど!?」
「くっくっく――」
「ノハ、お前も笑ってないで、止めろよ!」
「アハハ。ま、お前なら問題ないだろ」
「そうらしいので!」
「ふざけんな! 普通のよこせ! ふつーのをよォ! 後、教会はどこだ! 祓って来る!」
「えー」
「えー、じゃねぇ!」
完




