6.救われるべき命
遠くで響く轟音と、エネルギーの引火による高々と上がる爆炎は、研究所が吹き飛んだことを決定づけていた。誰が見ても、施設内での生存者はいないだろう。
例え、不死者であっても粉々になれば再生など不可能だ。
「相変わらず……阿呆だな」
ノハは、研究所から奪ってきたトラックの前に立ち、腕を組みながら夜の森を煌々と照らす、研究所の炎上を見ながら呟いた。
「…………」
ダクトから脱出した時、事情を知るノハと合流した少女もまた――
彼女は彼にもらったココアを握りしめながら、研究所から上がる“命の炎”を見上げて、瞳から流れる涙で頬を濡らしていた。
“死ぬまでアホどもに関わる人生は今日で終わる。明日からお前は、ただのクソガキだ。いま、家具を積み重ねたから天井のダクトまで届くだろ? ほれほれ登れ登れ。オレが逃げたダクトに入ると矢印で行く方向を書いてある。まだ使えるから、ガスが充満する前にさっさと逃げろ。この背骨は親友のものでね。どうせ奴らには判断なんて、つかねぇから安心しろ。ダクトの出口に女がいるから、後はソイツに聞け。わかったな? ん? オレはどうするかって? 色々と返さなきゃならない借りがあるんでね。ちょっとしたら追いつくよ。いちいち、困った顔すんな。こっちのミサンガは返してもらうが、代わりにこっちのをやる。あん? この二つは妻と娘のやつだからな。ソレは、オレの分。別に自分のはいらねぇから。それと、もう少し我儘に生きろよ。クソガキ”
名前? そう言えば聞いてなかったな……メイ? 命か。いい名前だな。
涙が止まらなかった。
それでも、声を出して泣くのではなく、ただ現実をしっかりと受け止める為に、眼の前の“命の炎”を忘れないように瞳に焼き付ける。
「……気が済んだら、助手席に乗れ」
ノハはトラックの運転席に乗ると、エンジンをかける。長居は危険だが、気持ちの整理は必要だ。彼女の世界は研究所だけだったのだから、これから先の見えない世界で歩いて行かなくてはならない。
「…………出してください」
エンジンをかけてすぐに、少女――メイは助手席に乗り込んだ。その瞳からは、ぽろぽろと流れる涙は止まっていなかった。
「…………」
ノハは自らの人生で、自分たちの死に対する涙なんてもったいないと思っている。
故郷の国で埋葬されるならまだしも、さほど関わりの無い人間が異国の地で死んだアイツの為に、涙を流すなど、本当に少女は優しい心を持っている。
「それは私たちには贅沢なものだ。優しいな、お前は」
彼女はココアを握りしめていた。そして、右手首につけた彼から貰ったミサンガだけが……ユキミの存在が確かにそこにあったと裏付けている。




